多発する地震や台風、豪雨などの自然災害。その備えといえば、水や非常食などの備蓄、簡易トイレやバッテリーといった防災グッズが頭に浮かぶ。でも、数日の避難生活のあとは...どうなる?
2024年の能登半島地震では、道路の寸断などで孤立集落が多発。避難後には、自宅があっても断水が続いていたり屋根が崩れていたりして、帰れない状態が続いた。
災害規模が大きいほど、国や自治体、災害協定を結ぶ建設業者は幹線道路の補修に奔走し、生活道路の対応は後回しになる。たとえ水道の本管が復旧しても、自宅の配管が壊れていれば水は使えない。崩れた屋根や土砂の入った家を修理する職人の不足は、災害のたび問題となっている。
公の手が行き届かず、業者も足りない被災地で頼りになるのは、インフラ復旧などの専門知識がある技術系ボランティアの存在だが、その数は限られている。
そうしたボランティアの裾野を広げ、活動を支える取り組みが、民間で広がっている。現場を訪ねた。
自分を守り、人を助ける「リアルな技術」
4月下旬、茨城県つくば市の日本財団災害ボランティアトレーニングセンター(VTC)に、約50人が集まった。
VTCは2025年3月に開所。東京ドームのグラウンドとほぼ同じ、約1.3ヘクタールの広大な敷地に、被災した家の応急補修を学べる家屋訓練棟や、災害現場の地形を模した訓練フィールドなどがあり、がれき撤去などに使う重機や資機材が配備されている。
災害支援団体のスタッフや技術系ボランティアらが講師となり、工具や資機材の使い方から、壊れた家屋の再生、ライフライン復旧のための応急処置、重機の基本操作やメンテナンス方法に至るまで、さまざまな研修を実施している。
参加費は入門編のオンラインが無料、中・上級の実技を伴う研修は各回3000円(学生500円)。これらは災害時の活動費にあてられ、VTCの運営費や人件費などは日本財団の助成で賄われている。
この日は、道のない斜面に丸太で階段を作ったり、陥没した道路を補修したりする訓練があった。
「知識があれば、助けられる」
階段作りは、敷地内の林から木を切り出すところから始まった。
「木の密度が高くて腐りにくい、広葉樹を選んだほうがいい」「掛矢(木槌)で杭を打つときは大きく弧を描かないように。後ろに人がいると危険なので、真上からストンと降ろす」。さまざまな助言を受けながら、参加者は5班に分かれて作業し、1時間あまりで階段の道が5本出来上がった。

Naoko Kawamura
講師役の1人、横田駿介さんは神奈川県の消防士。2019年の台風19号以来、勤務の合間を縫って全国の被災地に通っている。先輩たちから災害支援について学ぶ中で、次は自分たちが技術を広める番だと考えるようになった。「1人でも多く被災地に来てほしいし、普段から顔の見える関係になっていれば、災害時のコミュニケーションも取りやすい。それに、ここで学んだことを持ち帰って町内会や仲間うちで共有してもらえれば、被災したとき、地域でできることが増えます。住民さん自身が助かるし、そのぶん僕らもより多くの支援に回ることができる」と話す。

Naoko Kawamura
道路の補修訓練では、敷地内の陥没している箇所を参加者らが砕石や簡易アスファルトで埋めていった。
指導にあたったのは、土建業を営む菊池健郎さんと水道業を営む豊角純子さん。「一時的には砕石だけでも大丈夫。アスファルトを被せる場合も、基礎になる砕石をいかに固めるかが大切」「アスファルトは少し盛り上がる形で入れます。締まると下がるから」など、参加者に声をかけ、手本を見せながら進めていく。
菊池さんは2015年の茨城・常総水害で地元が被災した。自らの重機で地域の土砂撤去などにあたった際、多くのボランティアと知り合った。「たくさんの人が復旧を助けに来てくれたのが、すごい嬉しくて」と、それ以来、全国の被災地へ支援に駆けつけている。

Naoko Kawamura
豊角さんは能登半島地震で水道管の復旧工事を請け負った際、被災住民の温かさに触れ、支援に携わるようになった。休日ごとに能登に通い、VTCでは「皆さんが少しでも知識を身につけて、災害時に助け合いができれば、復旧が早く進んでいくんじゃないかと思って」と、水道の仕組みや宅内配管の応急処置の方法なども教えている。

Naoko Kawamura
「誰かがやってくれるのを待つ、じゃなくて、自分でも復旧できる、と知れたのはとても大きい」。東京都から参加した女性はこの日のプログラムを終えると、そう笑顔を見せた。約30年前の阪神大震災では「支援に行きたい」と思いながらも「足手まといになるのでは」と躊躇があった。能登半島地震では石川県珠洲市でボランティアをしたが、災害対応の知識がなく、引け目を感じることもあったという。「でも、できないからやらない、じゃなくて学びたくて」。そんなときVTCが始まった。

Naoko Kawamura
これまで5回ほど研修に参加しており「町を歩いているときも、いま地震がきたらどうするのかを考えたり、建物の構造を気にしたりするようになりました。防災にも生きています」と話す。
能登半島地震の教訓
VTCは人材育成の場であると同時に、災害発生時には、支援する人、物資、重機や装備品などを被災地へ送る拠点にもなる。そのために配備した小型ショベルカーやクローラー、ダンプなどの重機は16台。VTCを運営する日本財団ボランティアセンターによると、これほど大規模な実働型災害支援拠点は、民間で初めて。教訓となったのは、能登半島地震だという。

Naoko Kawamura
元日に起きた地震でも、災害復旧の技術のあるボランティアらは直後から被災地に入ったが、困難を極めたのは装備品の確保だった。レンタル会社は正月休みだったうえ、災害時には需要が高まるため、必要な重機などを揃えるのに手間取った。同センター常務理事の沢渡一登さんは「次の世代を育てるのはもちろん、実働拠点としてボランティア活動を支える必要性も痛感した」と語る。
災害ボランティア、海外では国が支える仕組みも
裏を返せば、公的なサポートがなかった。
任務として災害派遣される自衛隊や消防、警察職員を含む公務員らには装備品があり、給与以外に手当も支給される。その一方、ボランティアであれば活動のほとんどを自己負担で賄うのが、日本の現状だ。
経験豊富なボランティアが応援職員よりも支援技術に長けていることは少なくない。災害からの復旧・復興に欠かせないそうした活動が「無償」で「自前」であることは当然なのか。
海外では、災害時のボランティアの役割や補償はどうなっているのだろうか。
◾️イタリア
イタリアでは、災害対応を担う市民保護局に、5000以上のボランティア団体が登録。住民の救助、医療支援、避難所の設営、森林火災の消火活動、文化遺産の保護など、活動範囲は多岐にわたる。
ボランティアはそれぞれの専門スキルや希望に応じて団体に所属し、緊急支援の研修を受ける。所属団体内だけでなく、自治体や他の専門機関との共同訓練も定期的に実施。平時からの連携強化に取り組んでおり、国はそうした活動をバックアップしている。
仕事を休んで災害支援に従事する際は有給休暇となり、国は雇用主に対して賃金分を補償する。活動経費は公費負担で、事故、疾病、第三者に対する民事責任のリスクに関して保険も適用される。
◾️ドイツ
ドイツで災害時の復旧支援などを担う連邦組織、技術支援隊(THW)には約670の地方支部があり、2200人の専門職員と8万8000人のボランティアで構成されている。つまり約98%がボランティアだ。消防や警察と連携して救助活動にあたり、避難者支援、水・電気・道路といったインフラ復旧などを行っている。
THWボランティアは約120時間の基礎訓練を受けた後、それぞれの関心やニーズに応じて、さらに専門的で高度な研修やトレーニングを受ける。
災害支援や専門訓練のために仕事を休んだ場合、自営業の場合は国が損失を補償、会社員の場合は給与が保証され、国が賃金分を雇用主に払い戻す。THW法のこうした規定により、ボランティア活動は仕事と両立しやすく、収入を失わずに従事できる。保険も適用される。
従業員のボランティア参加は、ストレス耐性、紛争解決能力、責任感、極限状況下でのチームワークを学ぶ機会となり、雇用主にとってもメリットがあるという。
6歳から参加できるTHWユースは、遊びながら助け合いを学ぶ機会となっており、若年層に向けて災害支援の意義を広めるとともに、地域社会にボランティアが根付く要因にもなっている。

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◾️アメリカ
アメリカでは、災害対応を束ねる連邦緊急事態管理庁(FEMA)が防災教育を普及。危機的状況下で、救急隊員らが到着するまでの間、応急対応をするのは被災者自身や家族、同僚、近隣住民らにほかならない。緊急事態の95%では、そうした「居合わせた人たち」が最初の救助活動をすることになる。その災害対応スキルを上げようと、火災予防、捜索救助、災害医療活動などを訓練する地域緊急対応チーム(CERT)プログラムが市民向けに無料で提供されている。
CERTの始まりは1985年。災害救援における地域住民の力を重視したロサンゼルス消防が、安全で効果的にボランティアが活動できるようプログラムを開発。93年にFEMAが採用して全米に広がり、現在では地域の特性に応じて3200以上のCERTプログラムがある。基礎訓練は約20〜30時間。これまで60万人以上が訓練を受講しており、職場や大学用、また高校生向けにアレンジされた「ティーンCERT」プログラムも活用されている。
CERTプログラムを受講したボランティアがいることで、災害対応の専門家らは複雑な任務に集中でき、限られた災害支援のリソースをより困難な状況にあてることができる。

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「防災庁」と災害ボランティア
日本では2025年7月1日に改正災害対策基本法などが施行。被災者支援に携わるNPOやボランティア団体を国が登録する制度が創設され、都道府県が災害救助法を適用した際、登録団体を救助業務に協力させることができ、その際の実費が支払われること、国は必要なとき登録団体に協力を求めることなどが明記された。
スタートから1年を迎えるこの制度の登録団体数は、6月18日時点で29。団体からの申請が進まない理由のひとつに「登録のメリットを感じられない」ことが挙げられている。
制度を所管する内閣府は、「発災直後から質の高い被災者支援が行えるよう、行政と連携を」と呼びかける。その一方で、資金面のサポートなど安心して活動を続けられる仕組みは、ほとんど整備されていない。ボランティアらは手弁当で訓練を重ね、専門性や支援技術を高めている。
災害対応の司令塔となる防災庁の発足を前に、政府は「人命・人権最優先の『防災立国』の実現」を掲げている。防災立国の推進に向けた基本方針の中でも、「多様な主体の総力の結集」「ボランティア人材の育成」「NPO・NGOやボランティアとの連携による災害対応実施体制の構築」をうたう。であれば、すべての主体が尊重され、経済的にも身体的にも不安なく力を発揮できるような体制づくりも急務だろう。
前出の沢渡さんらVTCの運営メンバーは、25年7月にドイツのTHWを視察。ボランティアの役割と補償が明確で、その存在が社会で重んじられ、育成とサポート体制が整えられていること、支援の最前線に立つボランティアの声を反映した救援機材の配備が国家予算で進められていることに、日本との大きな違いを感じたという。
沢渡さんは「日本には災害復旧専門の公的な実働部隊がない。自衛隊や警察、消防は一定期間が過ぎれば本来の職務に戻る必要があり、これまでのどの災害でも、ボランティアが長きに渡って住民に寄り添い、支援を続けてきた。カバーする範囲はますます増え、公助の届かない人たちへのセーフティネットの役割も果たしている。市民がボランティアとして活躍できる持続可能な仕組みづくりが必要だ」と話す。
VTCは開設からの1年間で、約50回の研修・訓練を実施。多くの参加希望があり、求められていることを実感したという。今後は、災害支援に携わる医療従事者と連携した訓練も模索するなど、さらに研修プログラムを充実させていく考えだ。
(取材・文=川村直子)

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