顔認識技術の「アダムとイブ」、すべては彼らから始まった 米国防総省のプロジェクト

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(CNN) スマートフォンのロックを解除する時、空港の保安検査を通過する時、そして住む場所によっては街を歩いている時でさえ、我々の顔は分析されている。アルゴリズムが鼻の幅、両目の間隔、あごの形といった特徴の正確な組み合わせを解析し、我々を見分け、本人と認識するのだ。

顔認識技術は、何十億人もの人々にとってすでに日常生活の一部となっており、機械は1秒もかからずに我々の人間性や身体的アイデンティティーを判定することが可能だ。我々はこうした自分自身の情報を差し出す代わりに、製品やサービス、あるいは安心感を手に入れている。

しかし、今やあらゆる人の顔を認識するこの技術も、当初はある一群の人々の顔から始まった。この顔認識の「アダムとイブ」ともいえる人々は、1990年代に米国防総省が進めていた取り組みに参加していた。

今から約10年前、アーティストのトレバー・パグレン氏は、広く知られてはいないが、一般に公開されている政府のデータセットを調査していた際、何千人もの政府職員の顔写真を収録したデータセットを発見した。このデータセットは、米国防高等研究計画局(DARPA)が、当時まだ黎明(れいめい)期にあった顔認識技術の開発と訓練に使用していた。

その後パグレン氏は、それらの写真の一部を選び、「It Began as a Military Experiment(それは軍事実験として始まった)」と題するシリーズとして展示してきた。このシリーズが今回、パグレン氏の過去20年の活動を振り返る回顧展「The Most Merciful Thing in the World(世界で最も慈悲深いもの)」で再び展示される。今月オハイオ州シンシナティで開催される「フォトフォーカス・バイエニアル」の一環だ。

米国の小説家H・P・ラブクラフトの言葉からタイトルを取ったこの回顧展に展示されるパグレン氏の幅広い作品群は、普段、我々の目に見えないもの、あるいは隠されているものに焦点を当てている。それらの中には、地球の軌道上にある数百の正体不明の物体の写真や、肉眼で見える限界を超えて拡大された、軍事施設のかすんだ写真などが含まれている。

パグレン氏はこれまでの創作活動を通じて、人間と技術の関係、我々が監視される仕組み、さらに我々の世界を形作っている目に見えない技術的プロセスといったテーマを追求してきた。そして、このテーマは一層切迫したものとなっている。

パグレン氏は画像をアルゴリズムにかけ、分析や認識に用いられる顔の各ポイントを特定した/Courtesy the Artist/Fellowship/Jessica Silverman Gallery, San Francisco/Pace Gallery, New York
パグレン氏は画像をアルゴリズムにかけ、分析や認識に用いられる顔の各ポイントを特定した/Courtesy the Artist/Fellowship/Jessica Silverman Gallery, San Francisco/Pace Gallery, New York

パグレン氏の作品は、シンシナティで開催される「フォトフォーカス・バイエニアル」」に関連した展覧会で作品を展示されている/Courtesy the Artist/Fellowship/Jessica Silverman Gallery, San Francisco/Pace Gallery, New York
パグレン氏の作品は、シンシナティで開催される「フォトフォーカス・バイエニアル」」に関連した展覧会で作品を展示されている/Courtesy the Artist/Fellowship/Jessica Silverman Gallery, San Francisco/Pace Gallery, New York

「It Began as a Military Experiment」では、年齢、性別、肌の色が異なる人々を何もない空色の背景を背に撮影した写真が並ぶ。パグレン氏は、各写真をアルゴリズムにかけ、顔認識プログラムが測定・分析する顔の各ポイントを特定し、その位置を示すマーカーも表示している。目尻や目頭、上唇中央の弓形の部分、鼻孔の縁などに小さな白い文字が表示されており、こうして人間がデータへと変換されている。

その結果、全体として異様な雰囲気を醸し出している。時折、時代遅れの髪型が見られることを除けば、写真に写る人々がいつ、どこにいたのかを知る手立ては全くない。彼らの大半は横の方に視線を向け、カメラを無視している。現代人の目から見ると、さまざまな人々の顔を同じような構図でアップにした一連の人物写真は、当初そのあまりのリアルさで我々を驚かせたAI(人工知能)生成の人物画像を思い起こさせるかもしれない。今や、目の前に提示される全ての画像を疑い、本物ではない可能性を示す兆候を探さなければならないが、その兆候はますます見分けにくくなっている。

AIが爆発的に普及するなか、アルゴリズムは自らの性能向上を図るという名目で、我々の画像や文化的創作物を次々と取り込み続けている。我々は自分たちがこうしたアルゴリズムの訓練に使用されるデータセットになってしまったという事実を、不快感を覚えながらも急速に受け入れざるを得なくなった。

パグレンは「奇妙さ」を基準に画像を選出したが、テクノロジーとの関係が劇的に変化し続ける中、画像に対する解釈は絶えず変化し、新たな意味を帯びている/Courtesy the Artist/Fellowship/Jessica Silverman Gallery, San Francisco/Pace Gallery, New York
パグレンは「奇妙さ」を基準に画像を選出したが、テクノロジーとの関係が劇的に変化し続ける中、画像に対する解釈は絶えず変化し、新たな意味を帯びている/Courtesy the Artist/Fellowship/Jessica Silverman Gallery, San Francisco/Pace Gallery, New York

記者がパグレン氏と話したのは、ちょうどアンソロピックの研究者ジェイコブ・コクソン氏がX(旧ツイッター)で辞職を発表した翌日のことだった。コクソン氏はその際、AIを開発する主要な研究機関は、AIが「この10年が終わるまでに我々全員を死に至らしめる可能性がある」と本気で考えていると警告していた。それから数週間のうちに、AIをめぐる主流の議論は急速に悲観的なものへと変わった。

しかし、それこそまさにパグレン氏が作品を通じて捉えようとしてきたものだ。それは「崇高」という言葉の最も本質的な意味、すなわち、我々の認知的理解を超えた世界における、畏敬(いけい)、美、恐怖が入り交じった強烈な感覚だ。

「我々と技術との関係全体が、私には非常に超自然的で、コズミック・ホラーの世界にいるように感じられる」とパグレン氏は言う。

「政治についても同様に感じる。『人生は一度きりだから、想像できる悪魔を全て呼び出し、何が起きるか見てみよう』という感覚だ」(同氏)

しかし、パグレン氏が「It Began as a Military Experiment」を制作した当時、我々が開発していたアルゴリズムや、アルゴリズムに学習させていたデータセットをめぐる議論は、現在とは大きく異なっていた。2010年代半ばから後半にかけて、議論の中心だったのは主にバイアスの問題だった。当時は、警察業務に使用されるアルゴリズムは、プロファイリングを行う傾向があるのではないか、また、あまりに多くの技術が恵まれた立場にある男性の視点を基に作られているのではないか、といった議論がなされていた。

パグレン氏は、これらはすべて重要な議論だったとする一方、こうした技術が別の形で設計可能だと考えること自体が誤りだと考えている。結局のところ、それらは資本主義の道具、人々から価値を引き出すための道具であり、公平性など決して気にかけることはないとパグレン氏は言う。

元の画像はパブリックドメインのデータセットに含まれていた/Courtesy the Artist/Fellowship/Jessica Silverman Gallery, San Francisco/Pace Gallery, New York
元の画像はパブリックドメインのデータセットに含まれていた/Courtesy the Artist/Fellowship/Jessica Silverman Gallery, San Francisco/Pace Gallery, New York

Courtesy the Artist/Fellowship/Jessica Silverman Gallery, San Francisco/Pace Gallery, New York
Courtesy the Artist/Fellowship/Jessica Silverman Gallery, San Francisco/Pace Gallery, New York

今、こうした初期の顔認識用の人物写真を見返した時、パグレン氏が何より強く感じるのは、そこに写る人々の無防備さだ。彼らが写真を撮られたのは、単に政府職員だったからにすぎない。パグレン氏は、彼らが当時、この技術やそれがもたらす影響についてどこまで理解していたのかと疑問を抱いている。

パグレン氏は、「職務の一環として行うよう指示された場合、本当に同意したことになるのだろうか」と問いかけ、「それが一つの論点だ」と付け加えた。

もう一つの論点は、自分たちの生体情報が、今日存在する数多くの目に見えないシステムの基盤となることなど、当時の彼らには到底予見できなかったということだ。

パグレン氏は、「今日自分が行ったことが、遠い将来、自分では想像もできなかったような方法で利用されることに同意なんてできるのか」と疑問を投げかけ、さらに「我々は後になって、当時は存在していなかったシステムの一部に組み込まれてしまうのだ」と付け加えた。

これは、かつては彼らの問題だったが、今では我々全員の問題だ。

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原文タイトル:These were the ‘Adams and Eves’ of facial recognition technology(抄訳)

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