(CNN) 新学期に備えて、米国の保護者たちはバックパックや文房具、スニーカーを買いそろえる他、子どもたちが必要な予防接種を最新の状態で受けているかどうかも確認する。
だが今年、予防接種に関する判断、つまり接種の回数や時期を巡る判断は不必要に複雑になるのではないかと多くの医療専門家が懸念する。トランプ大統領が10日に署名した大統領令がその理由だ。この大統領令は、米国の子どもたちが日常的に受ける予防接種の数を減らすことを目的とする。場合によってはワクチンの組成の変更や、接種間隔の拡大も念頭に置く。
「大統領は、子どもの予防接種について保護者が選択できる余地を最大限に広げたいと考えている」。ホワイトハウスの当局者は10日にそう述べた。
医師らは、トランプ氏が大統領令で示した予防接種をアラカルト方式で選ぶアプローチについて、家族に不利益をもたらすものであり助けにはならないと指摘した。
米小児科学会の会長、アンドリュー・ラシーン博士は同日、「本来その必要がまったくないところに、より大きな不確実性と恐怖、混乱が持ち込まれる」との懸念を示した。
ワクチンの種類、保険適用はすぐには変わらず
まず知っておくべきなのは、家庭が利用できる予防接種の種類、または米疾病対策センター(CDC)が推奨するワクチン接種スケジュールに変更が生じるとしても、それは数カ月、あるいは数年先になる公算が大きいということだ。
小児用ワクチンは、たとえ「共同臨床意思決定」と呼ばれるカテゴリーに移されたとしても、引き続きCDCの推奨スケジュールに含まれている。そのため保険適用にも影響が出る可能性は低いとみられる。「共同臨床意思決定」とは、患者が接種を受ける前に医療提供者の承認を得る必要があることを意味する。
大手保険会社2社のブルークロス・ブルーシールドとCVSは10日、大統領令を精査しているとしつつ、少なくとも当面の間はCDCが推奨する小児用ワクチンについて自己負担なしで保険適用を続ける予定だと述べた。
ホワイトハウスは、子ども向けのワクチンプログラムを通じて無料で提供されるワクチンについても、新たな大統領令の影響を受けないと述べた。法律により、このプログラムはCDCのワクチン諮問委員会の指針に基づいて運営されているからだ。
大統領令、異議申し立てに直面も
また、この大統領令は異議申し立てを受ける可能性が高い。ワクチン法を専門とするカリフォルニア大学サンフランシスコ校のドリット・ライス教授によると、大統領令は米国でワクチン接種の推奨事項を決定するための法的な仕組みには該当せず、議会が別の手続きを定めているという。
トランプ政権が米国のワクチン政策の抜本的な見直しを試みるのは、これが初めてではない。ケネディ保健福祉長官は1月、CDCに小児ワクチンの接種スケジュールを変更させようと試みた。自ら選んだ顧問らのグループがワクチン成分の安全性を議論するための会合を重ねていたが、3月に判事の命令によってそうした変更は阻止された。この裁判は現在も続いている。
ホワイトハウスは今回の大統領令について、既存の裁判所命令および差し止め命令を完全に順守していると述べた。
ワクチンを裏付ける証拠は変わらず
もう一つ認識しておくべきことは、この大統領令で求められている変更は、新たな科学的知見や証拠によって促されたものではないということだ。フィラデルフィア小児病院ワクチン教育センターのポール・オフィット所長はそう述べた。
この大統領令の推奨事項は、米国の小児ワクチン接種スケジュールを他の先進国のものと比較した1月のレビューに基づいている。
当該のレビューは当時、米国より格段に規模が小さく、国民皆保険も提供しているデンマークを比較対象にしているとして批判された。
「絶対的基準となるワクチン推奨事項を米国民に提供する」と銘打たれた今回の大統領令には、ケネディ氏の影響が色濃く表れている。同氏は以前からワクチン接種の推奨を弱め、定期的な小児予防接種の安全性と、親や医師が接種を行う際に頼りにしている接種スケジュールの双方に疑問を呈してきた。
ワクチンの個別接種の難しさ
新たな大統領令では麻疹(はしか)、おたふく風邪、風疹を予防するような混合ワクチンを分け、1回の接種ではなく、3回別々の受診時に3種のワクチンとして接種することを求めている。
サウスカロライナ州グリーンビル近郊で診療する小児科医のキャサリン・マティアス医師によると、たとえ保護者が別々でのワクチン接種を望んでも、現時点ではそれは不可能だという。
「小児科の診療所では、麻疹のワクチン、おたふく風邪のワクチン、風疹のワクチンをそれぞれ注文することはできない。三つを同時に予防するMMRとして提供されるか、MMR・水痘混合ワクチンとして提供される。4歳のときに混合で接種することになる」と、マティアス氏は述べた。水痘ワクチンは水ぼうそうを予防する。
10日、ホワイトハウス当局者は、麻疹、おたふく風邪、風疹の単独ワクチンは現在、米国では入手できないことを認めた。
今後保健福祉省と民間部門などが連携し、単独ワクチンの商業利用を可能にする取り組みを進めるとしているが、マティアス氏はそうした接種方式の実用性に疑問を呈する。
4歳児の健診では、医師は通常、子どもに2本の注射をする。麻疹、おたふく風邪、風疹、水ぼうそうを予防するMMRVと、ジフテリア、破傷風、百日咳(ぜき) 、ポリオを予防するワクチンだ。これらを個別に接種することになれば、保護者は本来2本ですむところを5本から9本の注射を子どもに受けさせる必要がある。その場合、異なる接種を受けるため2週間ごとに医師のもとへ通うことになる。
「私の患者の多くは交通手段の問題を抱えている」「すべてのワクチンを個別接種するために、数週間ごとに来院することはないだろう」(マティアス氏)
ワクチンの接種時期と成分に注目
この大統領令では、すべての子どもに推奨されるワクチンの数を18種類から11種類に減らし、残りについては医療従事者の推奨に基づいて接種できるようにする。
また、ワクチン接種スケジュールの時期についてさらに研究するとともに、アルミニウム、またはミョウバンといったワクチン成分を精査することも求めている。これらの成分は一部のワクチンに少量使用され、効果を高めるための増強剤、すなわちアジュバントとして作用する。
米小児科学会のラシーン氏によると、ワクチンに含まれるアルミニウムの量は、子どもたちが食事、飲み物、呼吸を通じてすでに取り込んでいる量よりもはるかに少ない。「ワクチンのアジュバントとして投与された場合に、アルミニウムが子どもの安全性に何らかの懸念をもたらすという証拠は皆無」だという。
さらに、ワクチンの成分を変更するには新たな研究が必要となり、それには多額の費用と数年単位の時間がかかる。現在使用されているワクチンはすでに安全かつ有効であるため、製薬会社がそうした研究を進んで行う可能性は低い。
学校での予防接種要件を標的に
この大統領令はまた、宗教上または個人的信念を理由とする予防接種の免除を認めない州や郡に対して法的措置を取ると警告している。連邦政府の勧告を採用しない州には、資金提供を停止する可能性も示唆する。
全50州で公立学校に通うためには予防接種が義務付けられているが、近年、多くの州で個人的信念による免除を認める一連の新法が成立したことで、この基準は弱められている。こうした免除制度により、保護者は医学的な理由を示すことなく、子どもに定期予防接種を受けさせない選択をすることができる。
学校で義務付けられている予防接種について、宗教上または個人的信念を理由に家族が免除を選択することを認めていない州はカリフォルニア、コネチカット、メーン、ニューヨークの4州。ウェストバージニア州では、法的な異議申し立てにより、予防接種の宗教上の免除を認めてこなかった同州の長年の方針が脅かされている。
個人的信念による免除制度がない州では、認めている州に比べて一貫して予防接種率が高く、ワクチンで予防可能な疾患の流行も起こりにくい。
「すでに影響が出ている」
医師らによると、トランプ氏の大統領令によって予測できる唯一の結果は混乱と恐怖であり、それによって米国ですでに低下している予防接種率がさらに下がる可能性が高い。
「我々はすでにその影響を目の当たりにしている」とマティアス氏は述べた。同氏は、小児用ワクチンへのアクセスを求めて活動する保護者の非営利組織「プロテクト・ゼア・フューチャー」の共同創設者でもある。
マティアス氏によると、自身の診療所のあるサウスカロライナ州スパータンバーグの近隣地域では今年、大規模な麻疹の流行が発生。多くの保護者が、通常より前倒ししたスケジュールで赤ちゃんを予防接種に連れてきたという。
「予定どおりにワクチンを接種することをためらう人がさらに増え、ワクチンで予防可能な疾患の流行はさらに増えるだろう」とマティアス氏。この1年間、同氏の診療所では、記憶にある限りこれまで以上に多くの百日咳や水痘の症例が確認されている。
専門家は保護者に対し、子どもたちの利益を第一に考える小児科医の話を聞くよう呼びかけている。
「私はこれ(大統領令)を、ワクチンに対する国民の信頼をさらに損なうための策略と捉えている。予防接種率を低下させ続け、病気を再び蔓延(まんえん)させるのが目的だろう。それはすでに起こり始めている」。ライス大学ベーカー研究所で疾病と人類に関する上級研究員を務めるピーター・ホテズ博士はそう述べた。
「これらのワクチンは極めて安全かつ非常に有効であり、歴史的にも、予防の対象とされる疾患の根絶に寄与してきた」と、ホテズ氏は強調した。

1 週間前
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