生活保護引き下げ訴訟・最高裁判決から1年。いまだ多くの人が手にしていない補償と、判決後に亡くなった25人

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「青梅の原告です。青梅では4人の原告がいましたが、3人が亡くなりました。そのうちの2人は、判決が出てから亡くなりました」

6月24日、厚生労働省1階の会議室に、そんな声が響き渡った。声の主は、生活保護引き下げを違法として国を訴えた「いのちのとりで裁判」原告の男性。

この日、この裁判の原告、弁護団、支援者らが厚生労働省に要求書を手渡した。 

第二次安倍政権でなされた生活保護引き下げはおかしいと、全国の生活保護利用者が国を訴えた裁判が昨年6月27日、最高裁で原告勝訴となったことは記憶に新しい。引き下げは違法と判断され、減額処分の取り消しが命じられた。

判決を聞いた日は、みんな手を取り合わんばかりに喜んだ。約10年にわたる長い長い闘いに終止符が打たれたこと、そして引き下げが「違法」と認められた嬉しさを、私もこの日、噛み締めた。ここからすぐに、被害の回復=追加給付が始まるのだと思っていた。

あれから、1年。

現実はどうかと言えば、いまだ追加給付を手にしていない人が多くいる。地域によってばらつきがあり、追加給付がまだ始まっていない地域があるためだ。

この日は、そんな追加給付の問題点についての要求書が手渡されたのだが、その交渉の場で衝撃的な事実を耳にした。

それは、最高裁判決からこの日にいたるまでの約1年で、実に25人の原告が命を落としたということ。

最大時には全国で1020人以上いた原告だが、約10年にわたる裁判で232人が命を落としていることは知っていた。が、わずか1年でそれだけの人が亡くなっているということに愕然とした。

考えてみれば、生活保護利用者の半数以上が高齢世帯である。よって原告にも高齢の方が多い。集会などのたびに「大阪の〇〇さんが亡くなった」などの報告を耳にし、遺影が増えていくのを感じていた。原告には時間がない。この裁判に関わるようになって、幾度も思った。だけど「25人」という言葉を聞いたこの日ほど、それを痛感したことはない。同時に、心の底から憤った。なぜなら、国は保護費を引き下げる時はあっという間に決め、あっという間に実行したからだ。それなのになぜ、追加給付はこれほど時間がかかるのか。

ここで基本的なことをおさらいすると、追加給付は原告だけでなく、それ以外の生活保護利用者にも給付される。額は単身者の場合、数千円から10万円ほどだ(原告には特別給付として上乗せがある)。

現在、生活保護を利用していれば手続きなどは不要で支給される。が、過去(今回の追加給付の対象となる時期)に利用していて今は利用していない場合は、自治体への申請が必要になる(詳しくはこちらで)。

しかし、周知が徹底されているとは言い難いので、自分が対象となるのに知らない人は多くいるだろう。

5月14日、「いのちのとりで裁判全国アクション」の弁護士らが生活保護利用者を対象に「相談ホットライン」を開始したのだが、そこで多かったのは、「自分は追加給付をもらえるのか」「いつもらえるのか」という声だったという。

ホットラインには385件の相談が寄せられたものの、すでに追加給付を受け取っていたのは5件のみ。わずか1.3%。

「最高裁判決を聞いてうれし涙を流したが、判決からもうすぐ1年なのに遅すぎる」

ホットラインに寄せられた声だ。

一方、DVや虐待によって家を出た人への追加給付が本人に渡らないという問題もある。

以下、寄せられた相談だ。

「母からDV被害を受け、1年前に他県へ転居した。追加給付が全部元の世帯主に行くのが納得できない」

「2013年から父と生活保護利用していたが、父からの虐待で現在は接触禁止になっている。追加給付が父に行くのが納得できない」

 「父母・きょうだいで生保利用していたが、父のDVで別居・離婚。追加給付分が父のところに行くのが納得できない」

 「個別事情を斟酌し、絶縁状態の場合など、世帯主だけでなく個別に支給すべき」

これは由々しき問題ではないだろうか。

思い出すのはコロナ禍が始まった頃の10万円の特別給付金。あの時も世帯主への振り込みで、DVや虐待で逃げている人は受け取ることができなかった。世帯単位とひとくくりにされた時、不利益をこうむるのはいつも女性や子どもなど、弱い立場に立たされている人たちだ。そして今回も同じことが起きている。このような「世帯単位」の暴力については幾度も指摘してきたのだが、あと何回、こういうことを繰り返せばいいのだろう。

そんな追加給付だが、そもそも半額に値切られていることをご存知だろうか。最高裁で「違法」と断じられ、減額処分の取り消しが命じられたのに、厚労省はなんだかんだと理由をつけて勝手にディスカウントしているのだ。

「値切り」が許せない、という人は「審査請求」という道がある。現在、全国各地で「値切るな、全額払え」と審査請求が起きているのだ。現在は生活保護を利用していない人でも、追加給付をもらっている/これからもらう人でも大丈夫。関心がある方はこちらの2枚目をチェックしてほしい。

さて、そんな生活保護だが6月なかば、目を疑うような新聞記事を目にした。

『生活保護の申請は国民の権利』 自民党の勉強会が政府に提言」という見出しの朝日新聞の記事だ(2026年6月17日)。

記事によると、自民党の衆参議員でつくる生活保護に関する議員勉強会が、生活保護を利用する人が確実に利用できるようにするための提言を上野厚労大臣に手渡したのだという。

内容は、制度への正しい理解を促すための周知・広報の推進や、物価高をふまえた基準改定など。

読み終えた時の感想は、「これはフェイクニュースでは?」というものだった。

なぜならここまで書いてきた追加給付云々は、前述したように第二次安倍政権での引き下げによって裁判が始まったからで、12年、その引き下げを推し進めまくったのが当時野党だった自民党の「生活保護プロジェクトチーム」だったからだ。

座長はのちに裏金問題で離党となる世耕弘成議員。メンバーには片山さつき議員や小泉進次郎議員も名をつらねたこのチームは「生活保護費の1割カット」を掲げ、その年メディアを騒がせた「芸能人の家族の生活保護利用」を大きく取り上げ、生活保護バッシングを主導。

メディアもこれに追随したのだが、バッシング報道の中には「生活保護受給者の監視」を呼びかけるものさえあり、私の周りにも「怖くて人に出られない」「死ねと言われているようだ」「鬱がひどくなった」などの悲鳴が溢れた。そのような騒動の中、自ら命を絶った人も知っている。

そうして12年12月、「生活保護1割カット」を公約のひとつとした選挙で自民党は勝利。第二次安倍政権は発足後、真っ先に生活保護費基準引き下げを強行したという流れだ。

十数年前のことなど、世耕氏も片山氏も小泉氏も忘却の彼方だろう。

しかし、引き下げが強行された13年から現在に至るまで、生活保護利用者は1日たりとも、それどころか1分1秒たりとも「引き下げ後」の苦しい生活から逃れられないわけである。

その十数年で、何が起きたか。

親が施設に入っても交通費がなくて滅多にお見舞いに行けず、そのままコロナ禍で面会制限となり、親を亡くした今も悔いている人がいる。

月に一度の友人とのお茶会のお金が捻出できず、断念した果てに孤立した人がいる。

食費を切り詰めた果てに、体調を崩した人がいる。

それだけではない。エアコンがない部屋で暮らし、亡くなった人もいる。

先に裁判中だけで232人、最高裁判決後に25人という死者数を書いた。その人たちが命を失ったことと引き下げは決して無関係ではないと私は思う。

のちに最高裁で「違法」と認められた「政策の誤り」が、これほど多くの命を奪ったのだ。もちろん、この数字は原告のみで、それ以外の利用者からの死者ははかりしれない。一部の政治家が主導したこのようなことが、今の法律ではなんの罪にも問われない。そのことが、ただただ悔しくてたまらない。

そうして信じがたいのは、世耕議員も片山議員も小泉議員も最高裁判決にコメントひとつ出していないことだ。それどころか、世耕議員は「裏金の禊は済んだ」とばかりに今年5月、自民党に復党願を出している。このことはぜひ、忘れないで頂きたい。

今回の自民党の勉強会メンバーには、自党が勧めてきたこれらのことについての総括も求めたい。

また、記事にあるように、物価高をふまえた保護費引き上げなども強く厚労省に要求してほしい。

一方、記事には、「医療扶助については、給付の適正化に向けた『対策強化が必要』だとしている」とある。これはどのような内容なのか非常に気になるところだ。だいたい政治家が「適正化」などと言い出した時は「全削り」だからだ。一部の極端な例を持ち出して厳正化という方向にならないか、しっかりチェックしていきたい。

最後に、5月のホットラインに寄せられた声を紹介しよう。

「最低限度の生活をガンガン減らすことがおかしいが、ネット上ではバッシングがあふれていて声をあげるのが怖い。私のような生きづらさを感じている受給者が多いと思う。それを国が煽ってきたと思うが、生きやすい社会にしてほしい」

最高裁判決は出たが、これから各地でさらに審査請求が始まる。ぜひ、注目していてほしい。

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