水素はいつ「粒子」になり、いつ「波」になるのか――量子トンネルを支配する仕組みを解明

17 時間前 1

水素は粒子と波の境界がとても曖昧

画像Credit:Canva

水素は、この宇宙で最も軽い原子です。

そのため水素は「小さな粒(ボール)」としてだけでなく、電子のように「波」としての性質が、ほかの原子核よりも表に現れやすいという特徴を持ちます。

同じ水素が粒子のときは「今、ここに1個ある」と言える状態になり、波のときは「ここにも、あそこにも、ぼんやり広がっている」という状態になるのです。

ここでいう「波」とは、揺れて進む海の波のことではありません。

量子の世界では、そもそも水素の居場所がはっきり一点に決まらず、「このあたりにいそう」としか言えないという意味なのです。

この「いそうな度合い」を、濃いところと薄いところとして空間に塗り分けると、輪郭のない、ぼんやりとした「存在確率の雲」ができあがります。

水素が「波」であるとは、要するに、この雲のように居場所がにじんで広がっているということなのです。

先ほど触れた「幽霊のような状態」とは、まさにこの雲のように、水素があちこちに同時ににじんでいる姿のことでした。

そして、この波であることの「特技」が、量子トンネル効果と呼ばれる現象です。

ボールを壁に投げつければ、当然ながら跳ね返ってきます。

ところが波は、壁で完全には止まりきりません。

雲の「裾」が、壁の向こう側にまでほんのり染み出してしまうことがあるのです。

裾が向こうに届いているということは、「壁の向こうで水素が見つかる可能性がゼロではない」ということです。

だから、壁の手前にいたはずの水素が、越えられないはずの壁の向こうに、ふっと姿を現す――そんなことが起こりうるのです。

では、水素はいったい、いつ粒になり、いつ波になるのでしょうか。

その答えを得るため、研究者たちはバナジウムという金属を用意しました。

バナジウムの原子は規則正しく並んで結晶をつくっていますが、原子と原子の間にはわずかな「隙間」があり、水素1粒がちょうど収まる大きさになっています。

水素にとってバナジウムの結晶は、建物中にびっしりと座席が敷き詰められた、巨大な映画館のようなものと言えるでしょう。

そのためバナジウムは水素を大量に吸収(吸蔵)できる金属として、水素を貯蔵する手段への応用が期待されています。

ところが、バナジウムの中で水素がどのように動き回るかについては、まだ分かっていないことがありました。

とりわけ実験データが乏しかったのが、低温の世界です。

温度が高ければ、水素は高い運動エネルギーによって席から席へ移動していきます。

ところが温度をぐっと下げていくと、熱の力による乗り越えは、だんだん起きにくくなります。

その代わりに顔を出してくるのが、量子的な効果による席替え(トンネル効果)です。

席と席が適度に近く、存在確率の雲の端が隣の席にわずかにかかれば、水素は席替えを起こすことができるからです。

ただ、このような低温の世界で、水素がどこまで「粒子」として動き、どこから「波」として動き始めるかは、十分に理解されていませんでした。

水素の動き方の種類と速さは、材料としての性能を左右します。

そのため、「水素がどのような仕組みで、いつ速く動くのか」を解き明かすことは、応用のうえでも大切な宿題だったのです。

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