『徳兵衛はん』(書肆アルス) - 著者: 閒村 俊一 - 松原 隆一郎による書評

2 ヶ月前 19
徳兵衛はん
『徳兵衛はん』(書肆アルス)著者:閒村 俊一

スマホで新聞が読めるようになり、文章は紙の手触りを失いつつある。そうしたご時世に活字の刻印や装画の色合い等、手仕事にこだわる反時代的な装丁家が著者である。俳人でもあり、本書は第三句集。

本書も装丁作品めいて、挿絵のような句がある。西村賢太急逝に際し「鶯谷北口にきさらぎの反吐」。居酒屋信濃路鶯谷店のカウンターに陣取る顔色の悪い文士が目に浮かぶ。

「德兵衞はん」は曽根崎心中、章題の「おまへんか」「さうでんな」は大阪弁で、少しよそよそしい。同郷の句友に捧げると方言が交じり、抑揚まで聴こえてくる。兵庫県播州の「宍粟(しそう)」合併に思いをはせ「佐藤文香に、シソー市とちやうで」と添えるのは「水眼鏡越しの山河やシソー郡」。ちゃうでは、評者の出身地である神戸市一帯に広がる播州弁。

詞書(ことばがき)に「離れの縁に立ちて見てゐしあれが母 いつも見てゐるだけだつた母」とある「濡れ縁に立ちつくしてや實南天」。兵庫県から上京し、縁遠くなった息子を思う母の造形にグッときた。

目次裏に「少年と鋏と函と春雷と」とある。簡潔極まりない要約であり、「鋏と函」も装丁を思わせる。
【初出メディア】
毎日新聞 2026年1月10日
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