同じ風景を見ても、人は同じ情報を見ていない
私たちは、周囲の景色をカメラのように均等に記録しているわけではありません。
目の前に人や文字、道具、建物があっても、実際に詳しく見るのはその一部だけです。
これまでの研究では、画面の中央にあるものや、目立つ色や形を持つものが視線を引きつけると知られていました。
しかし研究チームは、視線を導くのは位置や見た目だけでなく、その人の知識や経験と結びついた「意味」ではないかと考えました。
たとえば、国旗と軍用機は外見が大きく異なりますが、「国家」や「愛国心」といった抽象的な概念ではつながっています。
そのため愛国心の高い人は、数ある物の中でも国旗や軍用機に視線が移りやすいかもしれません。
人は場面が変わっても、経験や知識に基づく概念的な注意の傾向に沿って、特定の情報へ目を向けている可能性があるのです。
こうした点を詳しく調べるため、61人が参加する実験が行われました。
参加者は視線追跡装置を備えたVRヘッドセットを装着し、自動車整備工場や公共プール、空港など、100種類の360度実写環境をそれぞれ16秒間自由に観察しました。
頭や体を動かして周囲を見回すこともでき、研究者らは、どこをどれほど長く見たかを記録しました。
さらに場面を細かな区画に分け、3種類のモデルで視線を予測しました。
画面上の位置を扱う「空間モデル」、物体の色や形を扱う「画像モデル」、物体同士の関係や用途などを扱う「概念モデル」です。
概念の分析には、人間の評価者が書いた場面の説明文を、言語モデルBERTで数値化したデータが使われました。
その結果、集団平均から作ったモデルよりも、本人の視線データから作ったモデルの方が、その人の視線を正確に予測しました。
つまり、視線には人それぞれの傾向があり、まるで「指紋」のように個人を予測するのに役立ったのです。
また、その人らしい視線の違いを最も強く捉えたのは、対象の意味を扱う概念モデルでした。
では、この「注意の指紋」は具体的にどのように表れたのでしょうか。
より詳細な結果を次項で見ていきます。






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