数々の受賞歴を持つサイエンスフォトグラファーで、ナショナル ジオグラフィック・エクスプローラーとしても活躍しているアナンド・ヴァルマ氏。
自然界に生息する生き物たちを、独自の機材や技法によって写した高精度なクロースアップなど、唯一無二の科学写真で知られる。
アースデーを控えた4月7日、彼はオンラインで初めて日本メディアの取材に応じ、これまでの道のりや、独自の手法で自然界の“見えない世界”を可視化する自身のプロジェクトについて語った。
※記事には、昆虫のクロースアップ写真などが含まれます。

National Geographic
ナショジオ誌の表紙を飾った「寄生虫」プロジェクトには日本のアニメが影響
ヴァルマ氏の数ある代表作の中の1つが、ナショジオ誌のカバーを飾った「寄生虫」プロジェクトだ。彼自身、同誌初のストーリーでもあったこの特集の写真は、これまでにないようなビジュアルで人々に衝撃を与え、2015年世界報道写真コンテストの「ネイチャー部門」で優勝を果たした。
写真を見れば、それが従来の「自然写真」とかけ離れているのは一目瞭然だ。緻密に調整された照明で、寄生虫と宿主のコントラストが際立っている。
この独特なアイデアは、どこから湧いてきたのか。
「写真を見れば分かりますが、これらは通常の科学や自然ジャンルの写真ではありません。代わりに、子どもの頃見て育った、黒白のフィルムノアールのルックスや、兄と読んだコミックブックスからインスパイアされました」とヴァルマ氏は語る。
中でも最も影響を受けたのは、日本のアニメだったという。
「学生の頃『ドラゴンボールZ』をきっかけに日本アニメにハマり、色んな作品を見ました」と振り返るが、ビジュアル的な影響を最も受けたのは『もののけ姫』などジブリの映画だったという。
「アーティストがどうキャラクターやシーンを理解し、どのディテールを強調し、どの部分を取り除くのかなどの判断の緻密さを題材にした研究論文を書いたこともある」と言うほどの熱心ぶりで、そこから得た学びは、写真での「光と影」の使い方に強くインスピレーションを与えているという。

Anand Varma
「寄生虫プロジェクト」の写真には、読者から「昆虫は気持ち悪いと思ってたけど、今はかっこいいと思う」といった声が寄せられたが、それが彼に気づきと目的を与えることになった。
「その時、自分の写真で人々の科学や自然の見方を変えられると気がづいた。それが今でも私の科学フォトグラファーとしてのミッションです」
海洋科学者を目指していた
ヴァルマ氏について、「写真家」という言葉では説明しきれない。統合生物学の学位を持つ科学者でもあり、時には自身でカメラを開発するエンジニアでもある。
小さな頃から動物や自然が大好きで、もともと海洋科学者を目指していたという。高校でカメラに興味を持ち生物を撮り始めると、周りの喜びや驚きという反応に感化され、写真の魅力に気づき始めた。
科学者という夢を持ちつつも大学でナショジオの自然写真家のアシスタントをするようになり、それが今の道に進むきっかけとなった。
約7年間のアシスタント経験の後、ナショジオのカメラマンに。その過程で、世界を旅して自然環境の中での生物を撮影する、というこれまでアシスタントとして経験してきた手法から、安定した「ラボ」のような環境で生物のクロースアップを撮り「新しい形で科学を見せたい」と独自のスタイルを見つけ出す。
既存のカメラの限界に囚われず、独自の機材や撮影手法で自然界の“見えない世界”を高精度に可視化する現在のスタイルを確立していった。
身の回りの「驚き」を見逃さないで
ヴァルマ氏は現在、米カリフォルニア州バークレーに「WonderLab(ワンダーララボ」という最先端の科学フォトグラフィー・スタジオを立ち上げ、そこを拠点に活動している。
最新の実験では、通常肉眼では見ることのできないニワトリの卵の中で、胚からひよこへ成長していく過程を、試行錯誤しながら実験を繰り返し、撮影を進めている。
彼のこうした技術が、普通では見ることのできない世界を可視化し、様々な発見へと導いてくれている。

Anand Varma
ワンダーラボはただの科学フォトスタジオではなく、カメラなど機材のデザイン、そして教育の場としても機能している。
子ども達がカメラを覗き込む姿を見ると、小さい頃の実験が自分たちを作り上げていると気づかせてくれるという。
「私のニワトリへの興味は、1歳のころインドの祖母の家にいたニワトリと遊んだ頃に生まれたのかもしれない」と自身の幼少期を振り返り、今は自分の1歳の娘が世界を探求する姿を見て、身の周りのものへの探究心や観察力の重要性について語る。
「私たちは皆その能力を持って生まれてきたが、大人になるにつれて薄れてしまう。私はその観察の力を保つために最初にカメラを手に取ったのです」

Anand Varma
そして今やその力を失いつつある現代の人々に、こう呼びかける。
「注意散漫であることへの薬が『ワンダー』、驚きを持つことだと思う。『驚き』が私たちの動きを止め、魅了する。それが可能性を制限する考え方を広げてくれ、私たちはより大きな何かの一部であることを思い出させてくれるのです」
「誰もが全てをスローダウンさせる超能力を使い、表面的なものの先を見ることができたらどうでしょう。それが写真が私に見せてくれたことで、私が皆さんにシェアしたいことです」
ナショナル ジオグラフィックはアースマンスである4月「特集:驚きと出会う」をテーマに、ミツバチの社会性やシャチの家族愛など、自然界の「驚き」に出会えるコンテンツを放送中。

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