阿部慎之助氏の問題で、なぜ娘が「謝罪」したのか。DV・家族問題の専門家が指摘する違和感

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プロ野球・読売ジャイアンツの監督だった阿部慎之助氏が5月25日、18歳の長女への暴行容疑で現行犯逮捕され、翌日釈放された。

阿部氏は釈放された日に辞任を発表。記者会見で、「伝統ある巨人軍の監督という名を汚してしまった」と謝罪した。

一方、被害者である長女がAIに相談して児童相談所に連絡したことが明らかになると、長女へのバッシングも起きた。

さらに監督復帰を求める署名も立ち上がり、3日も経たないうちに13万以上の賛同が集まった。

DVなど家族問題の第一人者である臨床心理士の信田さよ子氏は、「日本が変わっていないことに愕然とした」とハフポスト日本版の動画取材に語った。

一方で、信田氏は「阿部さんはいずれ復帰した方がいいと思う」とも述べる。そのためには、一発アウトにならない社会と加害者向けのプログラムがセットである必要があるという。

今回の事件や一連の動きをどう見たのかについて、信田氏に聞いた。

日本が変わっていないことに愕然

この事件で信田氏が違和感を感じたことの一つが、阿部氏の代理人弁護士が、被害者である長女からの手紙を記者会見で読み上げたことだ。

手紙には、事件が大ごとになってしまったことへの謝罪や、殴る蹴るなどの暴力はなかったという説明、AIに相談して児童相談所に電話をかけ警察に通報されたなどの内容がつづられていた。

信田氏は「たとえ長女が書いたものであったとしても、読み上げるかどうかの判断は父親である阿部さんができた。『こんなの書かなくていい、君に暴力を振るったのは僕なんだから、僕が君に謝るべきなんだ』と言うこともできたんです」と話す。

しかし実際には手紙は読み上げられ、加害者である阿部氏がまるで被害者であるかのような、擁護論が生まれた。

その中で、阿部氏の復帰を求める署名も立ち上がった。この署名に13万人もが賛同したことについて、信田氏は「日本は全然変わってないんだということに愕然としています」とも語った。

かつて、『巨人の星』や『寺内貫太郎一家』といった漫画やテレビ番組で、しつけと称して子どもを叩いたり、怒りにまかせてちゃぶ台をひっくり返したりするような父親像が肯定的に描かれ、受け入れられてきた。

そういった身体的な暴力や暴言は、2000年に施行された「児童虐待防止法」で「虐待」と定義され、禁止された。

信田氏は「2000年に虐待防止法ができてから、子どもを殴る、蹴る、怒鳴る、物を投げる、ひっくり返すなどの行為は全部虐待とされ、それを防ごうとなりました。それから26年経っているのに、日本の家族の中で脈々と虐待が行われているということ、何より13万人の署名が即集まったという事実に驚いています」と語った。

暴力とは何か

手紙には「殴る蹴るなどの事実はございませんでした」とも書かれていた(6月5日発売の週刊文春の報道によると、通報時のメモには首を絞められたことや、背中を強く叩かれたとある)。

しかし信田氏は、殴ったり蹴ったりしていないから暴力ではないという考えは間違いだと話す。

何が暴力にあたるのか。信田氏は「恐怖を抱かせるような状況すべて」が暴力であると強調する。

それにも関わらず、父親の行動で恐怖を感じ、SOSを発信した被害者が書いた手紙には、「大変申し訳ございません」「深く反省をしております」「非常に恥ずかしく思っております」など、謝罪や自身を責める言葉が何度も登場する。

信田氏によると、これは多くのDV被害者に見られる行動だという。

「言葉の支配や暴力で長年苦しんできた女性たちは『骨は折れていないし、鼻も曲がっていない。こんな私がDV被害者と言っていいのか』と口を揃えて言います。本当は私が相手を手のひらで転がして、私が悪かったと言えばDVにならなかったんじゃないか、本当は私が悪かったんじゃないかと何年経っても言うんですよ」

「だからあの手紙を聞いた時には、こういうことを被害者に書かせてはいけないと私は思いました。自分が悪かったんです、ごめんなさいって書くに決まっているから」と話す。

信田氏によると、DV被害者の多くが、恐怖を抱いた時に「怖い」と伝えるのではなく「ごめんなさい」と謝る。

これは殺されないための防御反応で、恐怖を感じた時の3つの反応「闘う(Fight)、逃げる(Flight)、固まる(Freeze)」の「固まる」に当たる可能性があるという。

信田氏は「だからこそ加害者は非暴力的になることを強く意識して行動しないといけない」と話す。

 「相手は、180センチの体格のプロ野球選手だった人。本人はそんなつもりは全くないにしても、(殺されるかもしれないという)脅威を与える存在ですし、経済力も社会的地位もある。力のある人はそのことを割引いて考え、過剰に非暴力的にならないといけないんです」

どう責任を取るべきだったのか

一方で信田氏は、阿部氏は「悪い人」だったわけではないとも話す。

信田氏によると、DVや性暴力など、家族や親密な関係の間で起きる暴力では「責任」という言葉はあまり使われず、代わりに「誰が悪かったか」という話になることが多い。

たとえば今回の場合は、「阿部氏が悪かった」「長女が悪かった」が論点になった。

しかし、信田氏は「これは良い悪いではなく、どちらに責任があるかという問題で、阿部さんが長女に対して責任があると認め、謝ることが大切」と指摘する。

今回の一件で阿部氏が認めるべき責任とは、18歳の長女に恐怖を与え、感情に任せて暴力を振るい、男性に対して悪いイメージを持つような影響を与えたことだ。

しかし阿部氏が記者会見で謝罪したのは世間に対してであり、長女については「娘も高校3年生という年頃の子なので、どうか皆様温かく見守っていただければ幸いです」と語った。

なぜ責任を取らないのか

阿部氏が記者会見での自身の暴力の責任を認めなかった背景に、「父親としてのアイデンティーの喪失への恐怖」があるのかもしれないと信田氏は話す。

信田氏によると、虐待を非難された父親の多くが最も精神的ダメージを受けるのが、父親としてのアイデンティティーが崩れることだ。

「家族を持った男性の自信の1つの基盤は、父親だということです。阿部さんの場合、娘たちを育て、いい学校に入れて、世間的にも良いお父さんということがアイデンティティーのかなりの部分を占めているのではないかと思います」

「それが、虐待だ、暴力だと言われると、そのアイデンティティーが震度6強の地震にあったように揺らいで、崩れそうになる。これが一番大きいと思う」と話す。 

信田氏は、今回の事件で阿部氏が父としての責任を取るためには、釈放される前に専門家によるカウンセリングを受ける必要があったと述べる。

「そうすればもう少し自信を持って、自分の行為が娘に恐怖を与えた、これは虐待だった、本当に反省していると、娘に対しても世間に対しても謝罪できたんじゃないかなと想像します」

こういった加害者へのアプローチは加害者臨床と呼ばれ、欧米などで取り入れられているという。

専門家の支援と同時に大切だと信田氏が強調するのは、「一発アウト」で加害者を社会から抹消しないことだ。

一度の過ちで再起できない社会が、加害者が責任を認めることを難しくしている可能性もある。

信田氏は、虐待加害者を抹殺するのではなく、回復のためのプログラムを受けて今までとは違う父親になろうとしている人の努力を評価することが重要だと話す。

「例えば薬物でもそうですよね。薬物を一回不法所持したら芸能界から放り出されますが、アメリカやイギリスなどでは、回復のための努力をした人たちがちゃんと復帰できています。エルトン・ジョンなども素晴らしい活動をしています」

「そういう意味で私は阿部さんが何らかの形にまた野球界に復帰できる方がいいと思います。娘を虐待したことで、選手生命や解説者などの道を閉ざされる必要はないと思います。そこから努力したということが売り物になるんだから」

加害者がプログラムを受けて回復する道筋を作り、一発アウトにならない社会にしなければ、暴力が覆い隠され、被害者が責められる構造は変わらない、と語った信田氏。

約1時間にわたるハフポストの動画取材では、加害者が自分を被害者だと思い込む理由や、近年増えている自己啓発的DV、被害者が自分を責めないために社会ができることなどについても語った。

※文中の発言の一部は、読みやすさのために編集を加えています

信田さよ子:公認心理師・臨床心理士。病院などでの勤務を経て、1995年に原宿カウンセリングセンターを設立。アルコール依存症、摂食障害、引きこもり、ドメスティックバイオレンス、児童虐待に悩む人たちやその家族のカウンセリングをしている。2022年から日本公認心理士協会の会長。著書に「家族と国家は共謀する」「アディクションと暴力」「人はなぜ自分を責めてしまうのか」など

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