神宮外苑の樹木伐採許可の取り消しを求めて、80人以上の市民が新宿区を訴えていた裁判で、東京地裁(岡田幸人裁判長)は原告側の「原告適格」を認めず、訴えを棄却した。
この裁判で、原告が争点の一つとして挙げたのが「CO2の排出」だ。
神宮外苑の再開発では、多くの樹木を伐採して神宮球場と秩父宮ラグビー場を建て直し、高層ビルを建築する。
原告は、工事で排出される大量のCO2で気候変動が促進され、健康面での被害を受ける恐れが生じると主張。
事業者は新しく植林するとしているものの、植えたばかり樹木のCO2吸収量は小さく、 現在の大木と同じレベルまで達するに数十年〜数百年かかると訴えていた。
この主張について、岡田裁判長は、「伐採で二酸化炭素が排出されたり、吸収量が減少したりすることは想定し得る」としつつ、「直ちに周辺地域の住民の生命や身体、健康に影響を与えるとはいえない」と判断。
CO2排出量増加による不利益を、原告適格として認めなかった。
この判断について、原告の一人で、東北大学特任教授・名誉教授の明日香壽川氏は、「世界的な潮流とかけ離れていると感じている」と判決後の記者会見で述べた。

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温暖化の被害を受けない権利を人権として認める動き
世界では、「気候変動による悪影響を受けないことが人権である」という考えが浸透しつつある。
国連総会は2022年、「クリーンで健康、かつ持続可能な環境へのアクセスは普遍的人権である」と宣言する決議を採択。その中で気候変動の影響が、すべての人権の享受にマイナスの影響を与えるとした。
国際司法裁判所(ICJ)も2025年7月、国際法上、国家には気候変動対策をとる義務があるとする勧告的意見を出した。
この勧告的意見の中には、温暖化などの気候変動の被害を受けない権利も人権として含まれている。
明日香氏は、今回の東京地裁の判決について「(温暖化の被害を受けない権利について)人権ではないという読めるような書き方になっており、国際司法裁判所の勧告規定とは異なる判断だった」と指摘した。

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排出量の大小をどう見るべきか
この訴訟で、被告である区側は「伐採による CO2 排出は小さい」と主張してきた。
岡田裁判長も判決で、「気候変動は地球規模で進行しており、今回の再開発による二酸化炭素排出により、特定の地域における気候変動が直ちに進行するとはいえない」という考えを示している。
確かに、神宮外苑での樹木伐採やCO2排出量は世界全体から見れば小規模だ。
しかし明日香氏は、海外では量の多寡に関係なく、二酸化炭素排出による不利益を認める判断がされるようになってきていると述べた。
明日香氏が具体例として挙げたのが、世界の気候訴訟を先導してきたオランダの裁判所の判例だ。
オランダのハーグ地方裁判所は2015年、排出する量に関わらず、国には排出削減のための責任があるという判断を示した。
明日香氏はこの判決について、「CO2の排出の量ではなく、それがどういう意味を持つかということが重要だという判断を示した」と説明。
「これはオランダでの裁判の判決であり、ほかの国はケースバイケースです。また、日本ではこのような判決はほとんど出ていないのが現状です。しかし、少ししか出してない人全員が同じ様に問題ないと考えれば、CO2が減らないのは明らかです」と指摘した。
また、神宮外苑の再開発にかかる二酸化炭素排出量については、元日本大学教授の糸長浩司氏が、事業期間を10年と想定した場合、二酸化炭素の排出量は1年に5.65万トンで、この量を吸収するには東京の森林の8%が必要となると指摘しており、必ずしも少ない量とは言い難い。
温暖化問題に関しては、現在日本では「若者気候訴訟」と「気候正義訴訟」が進められており、いずれの裁判でも「温暖化の被害を受けない権利は基本的人権だ」と主張しているという。
明日香氏は、今回の裁判などが「気候変動は人権の問題だ」と考えるきっかけになればと話す。
「これは、そもそも人権とは何かという根本的な問題にもつながるところがあります。先ほど申し上げたように少しか出してないから問題ないという考え方であれば、温暖化は止まらないと思います。そこをどう変えるかのきっかけになってほしいと思っています」と述べた。

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