民主上院候補エルサイード氏 アラブ、黒人、ユダヤの支持固めに苦慮

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米上院議員選挙の民主党候補アブドゥル・エル=サイード氏が、2026年8月7日(金)、デトロイトのルネッサンス高校で行われたミシガン州民主党の総選挙開始集会で演説を行った。(AP通信/ポール・サンシア撮影)

米上院議員選挙の民主党候補アブドゥル・エル=サイード氏が、2026年8月7日(金)、デトロイトのルネッサンス高校で行われたミシガン州民主党の総選挙開始集会で演説を行った。(AP通信/ポール・サンシア撮影)

By Seth McLaughlin – The Washington Times – Sunday, October 11, 2026

 【デトロイト】米ミシガン州のタイロン・カーター州下院議員(民主党)は、デトロイト都市圏のアラブ系住民と黒人住民の間で摩擦が「常にくすぶっている」と指摘する。連邦上院選に出馬している民主党のアブドゥル・エルサイード氏は、その火の粉を浴びることになるのではないかとみられている。

 4期目を務める黒人のカーター氏は、かつてウェイン郡保安官事務所で警部補を務めた。両コミュニティー間の緊張は、時に爆発寸前と感じられることもあり、「火種に火が付くまでの時間はどんどん短くなっている」と語る。

 そのため、エルサイード氏への投票を呼び掛けても、「絶対にノー」という民主党支持者もいる。

 11月3日の投票日まで4週間を切る中、これはエルサイード氏にとって大きな問題となっている。同氏は左派色の強い民主党候補で、今年の上院選に出馬している候補者の中でも特にパレスチナ支持を強く打ち出している。

 エルサイード氏は、これらの互いに異なる要求を抱える民主党支持層をまとめようとしている。予備選で同氏の勝利を支えたアラブ系、対立候補を支持した黒人、同氏のイスラエル観に警戒感を抱くユダヤ系有権者だ。

 こうした溝を埋めるため同氏は、連邦議会黒人議員連盟の支持を得たことをアピールし、カマラ・ハリス前副大統領とも同席した。ハリス氏は、黒人の妊産婦の健康改善に取り組んだ同氏の実績を評価した。エルサイード氏は、ミシガン州で対面式の期日前投票が始まる10月24日に、バラク・オバマ元大統領とともに選挙運動を行う予定だ。

 エルサイード氏はまた、3月にデトロイト郊外のシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)テンプル・イスラエルで起きた襲撃事件後の発言について、ユダヤ人指導者らに謝罪した。事件を非難する一方、「傷ついた人が人を傷つける」「暴力は常に暴力を生む」と述べた。

 同氏は、自分の娘たちの安全と同じように、ユダヤ人の安全にも全力で取り組むと表明している。

 それで十分なのかは、まだ分からない。

 エルサイード氏は、共和党候補のマイク・ロジャーズ元下院議員と接戦を繰り広げている。ロジャーズ氏は、民主党に不満を抱く黒人やユダヤ系の有権者が自身の支持に回りつつあると主張する。

 エルサイード氏がこの難題を解決できれば、引退するゲーリー・ピーターズ上院議員の後任に就くことができ、トランプ大統領の任期最後の2年間に上院の多数派をどちらの党が握るかを左右する可能性もある。

 オークランド大学の政治学教授、デービッド・デュリオ氏は「一見わずかな違いに見えても、最終的には勝敗を分ける要因になり得る。ミシガン州では、勝利に必要な支持者集団をめぐり、独特で複雑なパズルのような状況が生まれることで知られている」と語った。

■強みと弱み、警戒すべき兆候

 8月の予備選は、エルサイード氏の強みと弱点を浮き彫りにした。同氏は大学のある町や高学歴の有権者の間で大差を付けた。全米最大のアラブ系コミュニティーがあるディアボーンでは圧勝し、アラブ系住民の支持が強いディアボーンハイツでも優位に立った。

 一方、予備選で争ったヘイリー・スティーブンス元下院議員は、黒人住民が多いウェイン郡とジェネシー郡で支持を集めた。また、オークランド郡を含むデトロイト郊外でも首位に立った。オークランド郡には多くの黒人とユダヤ系の住民が暮らし、3月にレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの影響を受けたテロ攻撃の標的となったテンプル・イスラエルもある。

 スティーブンス氏は、親イスラエルのロビー団体、米イスラエル公共問題委員会(AIPAC)による3000万ドル超の選挙資金投入の後押しを受けた。

 予備選の結果、民主党の主要支持層の間でエルサイード氏への評価が分かれていることが明らかになった。

 エジプトからの移民を両親に持つエルサイード氏が当選すれば、イスラム教徒として初めての米上院議員となる。同氏は、こうした背景と、イスラエル問題などで示す左派的な主張によって、アラブ系米国人や若いリベラル層の支持を集めてきた。

 実際、アラブ系米国人の大多数はイスラエルに否定的な見方を示し、パレスチナ自治区ガザやレバノンでの軍事行動に対する米国の支援に反対している。

 ところがこの点を巡って、民主党の従来の支持層から反発の声が上がっている。

 米国のユダヤ人の間ではイスラエルの現指導者に批判的な見方が強まっているものの、大多数はイスラエルが存在する権利を支持している。

 黒人有権者の間では、反発の理由が異なる。エルサイード氏は2024年の予備選挙でパレスチナ支持派の「支持表明なし」抗議運動を後押しした。これによって歴史的な大統領選への挑戦でハリス氏が不利になり、アラブ系米国人コミュニティーでトランプ氏を勢い付かせる結果になったと考えられている。

 カーター氏によると、とりわけ女性の間で、「カマラをひどい目に遭わせ」、足を引っ張ったとして、裏切られたという思いが今も残っている。カーター氏は、そうした声をよく耳にすると言う。

 カーター氏は、この傷はまだ癒えていないと指摘する。そのため、エルサイード氏の支持者らが掲げる「誰であろうと民主党候補に投票しよう」というスローガンは、偽善的に受け取られかねないという。

■ユダヤ系有権者の課題

 ユダヤ系有権者の懸念も根深い。

 エルサイード氏は、2023年10月7日のパレスチナのイスラム組織ハマスによる攻撃に対するイスラエルの対応を強く批判し、ガザ地区での紛争を「ジェノサイド(集団殺害)」と呼んできた。

 テンプル・イスラエルでトラックを使った襲撃未遂事件が起きた後、エルサイード氏は当初、「傷ついた人が人を傷つける」と述べ、この事件とイスラエルによるレバノン空爆を結び付けた。この空爆で襲撃犯の家族が死亡したと報じられた。死亡した家族には襲撃犯の兄弟が含まれ、イスラエルはその兄弟をヒズボラの司令官と説明していた。

 ジェノサイド発言についてエルサイード氏は今年8月29日、民主党のユダヤ系議員らでつくるユダヤ系民主党議員連盟に謝罪したが、疑念は残った。

 ミシガン州のラビ(ユダヤ教指導者)やユダヤ人指導者らは、同氏が発言の調子を改めるか、立場を明確にするのを待っていると語っている。9月8日、彼らは「ノンネゴシアブル(交渉の余地なし)」と題する請願運動を開始し、シオニスト(ユダヤ人のパレスチナ帰還運動の支持者)を含むユダヤ人の安全、自らのアイデンティティーを定義する権利を要求した。請願はまた、イスラエルでのユダヤ人の自決権と、米国の市民社会への完全な参加も訴えている。

 請願書には「米国のユダヤ人は今、長年自分たちの政治的な居場所と考えてきた政党を守るために闘わざるを得なくなったと感じている」と記され、直ちに対応すること、道義的な立場を明確にすることを求めている。

 その数週間後、ユダヤ系の支援者らは、エルサイード氏が、イスラエルでハマスの急襲を受けて約1200人が死亡した10月7日の記念日に、声明を発表しなかったと指摘した。

 同じ日、ミシガン州ラビ評議会の会長でノンネゴシアブル運動を率いるアーロン・スター師は、エルサイード氏への信頼を失ったとして、地元紙デトロイト・ニューズへの寄稿で「私は連邦上院候補のアブドゥル・エルサイード氏には投票しない」と表明した。

 スター師は、エルサイード氏の発言は反ユダヤ主義的な決まり文句を繰り返し、米国のイスラエル支援を陰謀論のように描き、ユダヤ人国家の成立が自由な価値観と相いれないと考えていると批判した。また、反ユダヤ的な言動で知られるインフルエンサー、ハサン・パイカー氏との共演も問題視した。

 スター師は「ユダヤ系民主党支持者の中には棄権する人もいれば、共和党候補のマイク・ロジャーズ氏に投票する人もいるだろう。一方で、エルサイード氏の発言を一つ一つ聞き、その内容をしっかりと吟味する人もいるのではないかと考えている」と語った。

■デトロイトでくすぶる緊張

 先月下旬、車を運転していたアラブ系の18歳女性が信号無視で交通事故を起こし、49歳の黒人女性が被害に遭ったと報じられた。被害女性によると、主にアラブ系の男性からなる集団に取り囲まれ、人種差別的な言葉を浴びせられた。活動家らは、アラブ系米国人コミュニティーの一部に根深い黒人差別があることを示す事例だと指摘する。

 2024年の民主党上院候補指名争いに出馬した経験を持つ、アラブ系米国人の市民活動家ナセル・ベイドゥーン氏は、こうした緊張は何年も前から存在すると述べた。その背景には、黒人居住地域でアラブ系の家族がガソリンスタンド、酒店、小規模な食料品店の多くを経営しているといった、事業所有者の偏りもあるという。「こうした業種で黒人が所有する店は非常に少ない」と同氏は語った。

 ベイドゥーン氏は民主党や親イスラエルのロビー団体も厳しく批判してきた。2024年の大統領選の数週間前には、トランプ氏とハリス氏をともに「シオニスト」と呼び、アラブ系米国人の会議で「2人ともくそくらえだ」と発言した

 現在、同氏は、共和党が政治的な理由からアラブ系と黒人の有権者の間の緊張を誇張していると主張する。

 「彼らはアブドゥル・エルサイードを落選させるため、できることは何でもするだろう。彼をひどく恐れているからだ」と同氏は述べた。その上で、アラブ系コミュニティーはエルサイード氏を強く支持しており、黒人コミュニティーとの信頼関係を築くために協力していると語った。

 エルサイード氏はこうした事態を受け、デトロイトでの実績を強調してきた。コロンビア大学で疫学の助教を務めていた同氏は、黒人や十分な支援を受けられていないコミュニティーが直面する課題に取り組むため、職を辞してデトロイト市の公衆衛生局長に就任したと有権者に訴えている。

 エルサイード氏は医療や手頃な価格の住宅への投資拡大、黒人コミュニティーが質の高い教育に必要な資源を得られるようにする学校財政制度の改革、マイノリティーが所有する企業への融資拡大、低所得者向け住宅税額控除の拡充、ジョン・ルイス投票権法の成立を約束している。

 「私は一貫して、地域の人々と協力し、黒人コミュニティーが直面する課題に制度面から直接取り組むため、できる限りのことをしてきた」と同氏は語った。

 エルサイード氏はまた、自分はアラブ系であると同時に、エジプトにルーツを持つアフリカ系でもあると訴え、アラブ系と黒人のコミュニティーは本来、互いに協力し合うべきだと主張している。

 「追い詰められたときに問われるのは、誰が自分と同じように追い詰められているのか、そして、自分たちを追い詰めている人々に対抗するため、どう支え合い、力を合わせるかということだ」

■ロジャーズ氏、黒人・ユダヤ系有権者に接近

 2024年の上院選で約2万票差で敗れたロジャーズ氏は、民主党支持層の分裂に付け入ろうとしている。スティーブンス氏を予備選で支持した有権者の5%強を取り込めば、上院の議席を獲得できると主張する。

 ロジャーズ氏によると、エルサイード氏に反発するユダヤ系有権者からの支持が増えているという。同氏の「有害な言葉」がユダヤ人の反発を招いているからだ。

 また、ロジャーズ氏は双方の最初の討論会にも言及。エルサイード氏はイランとイスラエルのどちらがより大きな脅威かを明言しなかったと指摘した上で、イランの精鋭軍事組織「革命防衛隊」について「米国人の血で手が汚れている」と批判した。

 ロジャーズ氏とその支持者らは、黒人有権者の間の分裂も利用しようとしている。

 ジョン・ケネディ上院議員(共和党、ルイジアナ州)は、オバマ氏がミシガン州を訪問する予定であること自体が、多くを物語っていると述べた。

 ロジャーズ氏とともに選挙運動を行った際、ケネディ氏は記者団に「オバマ大統領はこの混乱に近付きたくないのだ。心の底では、エルサイード博士が掲げる主張の多くを信じていないと思う」と語った。

 ロジャーズ氏は、民主党が社会主義に傾いていることで、置き去りにされたと感じている黒人有権者にも働き掛けていることを明らかにした。

 共和党候補が普段はほとんど訪れない地域にも足を運んでいる。最近、デトロイトのセントポール・チャーチ・オブ・ゴッドで礼拝に出席した際、ロジャーズ氏によると、牧師から「この教会に共和党員が来たのは76年ぶりだ」と言われたという。

 ロジャーズ氏はさらに、「デトロイトのかなり荒れた地域を車で走ると、私の看板を目にする。実際にそこへ足を運んできたからだ」と語ったという。

 先月、黒人指導者らとの座談会に出席したエルサイード氏も、ロジャーズ氏が支持を広げているという話を聞いた。

 下院議員選に出馬しているキンバリー・フィッシャー氏は、ロジャーズ氏の看板を以前より多く見かけるようになったと指摘。デトロイトの選挙区を戸別訪問する中で有権者から「なぜ私たちを嫌っているアラブ人に投票するのか」と言われたことを明らかにした。

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