寝たきりだった女性、一度の点滴で「元気になった」と判明――3つの難病が同時に寛解

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彼女の体で起きていた、三重の裏切り

彼女の体で起きていた、三重の裏切り彼女の体で起きていた、三重の裏切り / Credit:Canva

免疫という、賢いけれど間違うこともある警備会社

私たちの体には、24時間休まず見回りをしてくれる「警備会社」が備わっています。

これが免疫システムです。ウイルスや細菌が体に入ってくると、警備員が駆けつけ、「これはウチの住人じゃない」と判断して退治してくれる。

そのおかげで私たちは風邪をひいても治るし、小さな傷が膿まずにすみます。

この警備会社で「敵の顔」を覚えて指名手配書を作っているのが、B細胞と呼ばれる免疫細胞です。

B細胞は一度出会ったウイルスや細菌の特徴を記憶し、次に同じ相手が入ってきたらすぐ捕まえられるよう、ぴったり合う指名手配書を用意しておいてくれます。

そして同じ病原体が入り込むと、指名手配所をもとに大量の抗体を作り、迅速に排除します。

ところが、ごくまれに、B細胞が変な勘違いを起こすことがあります。

自分の体の大事な従業員の顔を、なぜか「敵」として指名手配してしまうのです。

そして一度こういう手配書が出回ってしまうと、警備員たちは真面目に仕事をしているつもりで、自分の家族を襲い続けることになる。

これが自己免疫疾患の正体です。

自分の免疫に攻撃される「3つの難病」

この女性のB細胞は、三種類の誤った指名手配書を刷り続けていました。

しかもどれも、生きていくために絶対に必要な、体の大事な従業員たちに対してです。

ひとつめが、赤血球。

酸素を肺から全身の細胞まで運ぶ、体内の物流トラックです。

これが襲われ続けた結果、彼女は慢性的な重い貧血に苦しんでいました。

体に酸素が届かないのですから、立ち上がるだけで息が切れる。

生きるために毎日、他人から提供された赤血球を輸血してもらう必要がありました。

この病気を「自己免疫性溶血性貧血(AIHA)」と呼びます。

ふたつめが、血小板。

ケガをしたとき、傷口に駆けつけてかさぶたを作ってくれる、止血のプロフェッショナルです。

これも攻撃されていたので、彼女は常に出血しやすい状態にありました。

「免疫性血小板減少症(ITP)」です。

そして三つめが、血液を適度にさらさらにする仕組み。

血液というのは、固まりやすくても困るし、固まらなくても困る、絶妙なバランスの上で流れています。

そのバランスを保つために、血を固まらせすぎないよう働く「ブレーキ役の仕組み」があるのですが、彼女の免疫はそこに関わる分子にまで誤った指名手配書を作っていました。

ブレーキが壊されれば、今度は逆に血が固まりすぎて、脳梗塞や心筋梗塞を起こしやすくなる。

これが「抗リン脂質抗体症候群(APLAS)」です。

つまり彼女は、輸血を受けながら、同時に血が固まりすぎないよう血液サラサラの薬も飲み、そのうえ血小板も少なくていつ出血してもおかしくない、という三方塞がりの状態でした。

ひとつの病気を治そうとすると、別の病気が悪化しかねない医学の世界で「詰み」に近い状況です。

それでも医師たちはあらゆる手を尽くしました。

ステロイド、免疫抑制剤、そしてこれまで自己免疫疾患の治療で主役だった「リツキシマブ」という薬も三度にわたって投与した。

リツキシマブは血中にいるB細胞を一掃するための薬で、理屈の上では彼女の病気の根本に届くはずでしたが、効果はありませんでした。

彼女の場合、悪さをするB細胞が血中だけではなくリンパ節や骨髄の奥に潜んでおり、そのため薬を打つたびに表通りの連中は消えるけれど、奥から補充されて何度も復活してしまったのでしょう。

ここで登場するのが、CAR-T療法です。

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