「ファン株主」を26年前に掲げたカゴメは「海外見学ツアー」にも応募が殺到。個人株主との向き合い方を先駆者に聞いた

2 時間前 2

新NISAの普及で投資が一般的になりつつある中で、個人株主との向き合い方を見直す企業が増えている。

その中で、食品大手の「カゴメ」は、2000年から「ファン株主」として個人株主を増やす取り組みを行ってきた先駆者的存在だ。個人株主の持株比率が6割程度という同社では、株主が旅費を支払う「海外拠点見学ツアー」にも応募が殺到するという。

財務とIRを担当する仲村亮さんと、個人株主向けのIRや株主優待を担当する安藤希彩さんに、「ファン株主」との向き合い方を聞いた。

財務とIRを担当する仲村亮さん(右)、個人株主向けのIRや株主優待を担当する安藤希彩さん(左)
財務とIRを担当する仲村亮さん(右)、個人株主向けのIRや株主優待を担当する安藤希彩さん(左)

ハフポスト

仲村亮さん(財務経理部 財務・IRグループ課長):2000年カゴメ入社。スーパーなど小売店を中心とする営業を10年間担当した後、2010年から広報・IRを担当、コーポレート・コミュニケーション業務全般に携わる。現在は財務・IR部に所属し、財務全般と合わせて、個人株主向け施策の立案などを担当している。

安藤希綾さん(財務経理本部 財務・IR部):2022年カゴメ入社。前職では経理とインサイドセールスを経験。カゴメ入社後は財務経理部で原価計算や固定資産管理を担当し、2024年よりIRを担当。現在は主に個人株主の皆さまとのコミュニケーションに携わっている。

株の持ち合いから「個人株主」へ

――2000年に「ファン株主10万人構想」を掲げた理由は何ですか。

仲村:カゴメは2000年に「感謝」「自然」「開かれた企業」という企業理念を新たに定めました。

当時は、多くの企業において、銀行や取引先と互いに株式を持ち合うのが当たり前でした。しかし、「開かれた企業」という点では、商品を買ってくださる消費者こそ株主であるべきではないか。それが会社の透明性をさらに高めることにつながるのではと考えたんです。

株主優待の導入や売買単位の引き下げなど、施策自体は今では特別なものではありませんが、それを早くから始めたこと、そして会社全体が熱意を持って続けてきたことが特徴だと考えています。

株主優待は「還元」ではなく「コミュニケーション」

カゴメの飲料商品
カゴメの飲料商品

ハフポスト

――株主優待を、単なる株主還元ではなく、コミュニケーションと位置づけているそうですね。

安藤:株主優待は、個人株主の皆さまに知っていただき、試していただきたい商品を詰め合わせています。株主は約25万人いらっしゃるので、1品目につき約25万個を用意しなければなりません。各事業部には、早い段階から相談し協力してもらっています。

入れる商品が毎年違うので、外装箱のパッケージも毎年変更しています。箱の形や厚み、商品の詰め方もその都度工夫し、安全にお届けできるか、伝えたいことが箱と中身の両方から伝わるかまで検討しています。

仲村:自社商品とはいえ、社内の様々な部門から25万個を集めるというのはなかなか大変です。しかし、妥協せず、優待には、それぞれの商品にどんな意味があるのかを伝えるリーフレットを同梱し、アンケートも行っています。

私たちが伝えたいことをお届けし、株主の皆さまからもメッセージをいただく。双方向のやり取りを大切にしているという姿勢をそこで表しています。

――個人株主からは、具体的にどんな感想が寄せられますか。

安藤:一番多いのは「この商品が美味しかったけれど、どこで売ってるの?」という声でしょうか。お近くの販売店を調べお伝えしています。

仲村:もちろん「この新商品は美味しくない」という厳しいご意見や、株価や会社の姿勢について率直なご意見をいただくこともあります。寄せられた声は、全社で共有しています。毎年実施している株主優待のアンケートは、株主の皆さまが「カゴメに何を求めているのか」を知るための一番のツールです。

社長も社員も、個人株主と直接対話する

「社長と語る会」(カゴメHPより)
「社長と語る会」(カゴメHPより)

カゴメ

―オンラインで「社長と語る会」も実施されていますね。

安藤:「社長と語る会」は、2014年に当時の社長が「株主の皆さまともっと直接対話したい」と希望して始まりました。コロナ禍前は全国各地で対面開催していましたが、今はオンラインです。

株主専用メールマガジン、KAGOMAIL(かごめ~る)の登録者から抽選になりますが、参加者を募っています。毎年多くのお申し込みをいただくため、参加者は抽選で決定しています。

参加者には事前に商品をお送りし、会の冒頭は、トマトジュースや野菜生活100など「カゴメ製品での乾杯」から始まります。社長による事業説明は15分ほどで、残りの45分ほどはすべて質疑応答です。「トマトジュースのおすすめの飲み方は?」といったフランクな質問から、経営に関する厳しいご意見まで、すべて社長自身が答えています。

仲村:1000人規模の株主総会では、手を挙げて質問するのは難しいですが、「社長と語る会」は、いわばアナリスト向けスモールミーティングの個人株主版です。少人数の参加者なので、方針や思い、社長の人柄までよく伝わります。内容は後日ホームページで公開し、参加できなかった方も追体験できるようにしています。

―それぞれの事業を担当する社員が、個人株主に直接話す機会もあるのでしょうか。

安藤:最近の決算説明会では、アメリカの拠点で事業担当する社員が、現地での仕事の内容や生活の様子を説明しました。また、株主総会では、アメリカやオーストラリアなど、海外のグループ会社のCEOが説明員として参加し、日本人社員の通訳を介して個人株主の皆さまと直接言葉を交わしました。

仲村:カゴメの株主総会には社員も参加し、自分の担当する仕事を個人株主の皆さまに説明します。入社間もない若手社員が、決算説明会で話すこともあります。社員との触れ合いをきっかけにファンになっていただけるのが、カゴメの特徴です。

―個人株主向けの「決算説明動画」にはどんな工夫がありますか。

安藤:カゴメの個人株主の多くは、普段から商品を買ってくださっている消費者です。プロの投資家の方への説明ではないので、専門用語を並べても伝わりにくい。決算説明会や工場見学など、個人株主の皆さまとの対話では、難しい言葉を分かりやすい言葉に置き換えるよう心がけています。

旅費は自己負担でも倍率10〜20倍の海外拠点見学ツアー

海外拠点ツアーでの工場見学の様子
海外拠点ツアーでの工場見学の様子

カゴメ

―個人株主向けの海外拠点見学ツアーを始めたきっかけは何ですか。

安藤:海外でのM&Aをきっかけに、カゴメの収益は国内と海外でおおむね半々になりました。ただ、海外での事業内容はと考えています。個人株主の方からは「海外のスーパーでも野菜ジュースを売っているの?」と聞かれることもありますが、実際には業務用(BtoB)商品が中心です。

しかし、事業の形態は異なっても、農からの価値を大切にしていることは、国内と変わりません。その姿を実際に見ていただこうと始めたのが、海外拠点見学ツアーです。

異業種企業22社で取り組む「野菜摂取推進プロジェクト」でご一緒しているANAグループさんと手を組み、2023年、2024年はオーストラリアで開催し、2025年、2026年はポルトガルで開催しています。ご案内できる人数には限りがあるため、定員は同伴者を含めて毎回12名です。応募倍率は回によって異なりますが、おおよそ10〜20倍です。

―ツアー費用は、自己負担なのですね。

仲村:ありがたいことに、「カゴメのことをもっと知りたい」と思っていただける方が多く、毎年たくさんの応募をいただいています。

海外拠点ツアーで現地スタッフと株主が交流する様子
海外拠点ツアーで現地スタッフと株主が交流する様子

カゴメ

―ツアーに参加してまで個人株主の皆さんが知りたいことは、何でしょうか?

仲村:国際事業は国内からは見えにくいので、実際に何をしているのか知りたいという方が多いようです。私たちも、これから拡大する国際事業をきちんと説明したい。お互いのニーズが一致しているんです。

安藤:訪問先のポルトガルには、トマトジュースやトマトケチャップの原料となるトマトの畑があります。カゴメの製品が、どこで育ったトマトから、どのように作られているのかを実際に見ていただくことで、品質や安心・安全への取り組みも伝わると考えています。

―参加された個人株主の反応はいかがでしたか。

安藤:今年の参加者に感想を伺うと、「知りたかったカゴメのことを知って、見たいものを見て、食べたいものを食べて、いい思い出もできた。旅行費用は決して100万円は安くないけれど、良い買い物だった」と言っていただきました。現地法人もカゴメの一員として全面的に協力し、私たちと一丸となってご案内しています。良いところも悪いところも含め、ありのままの姿を見ていただいています。

「ファン株主」は経済性と共感の両立

―直近では、個人株主の構成にどのような変化がありますか。

個人株主の推移(カゴメ提供)
個人株主の推移(カゴメ提供)

カゴメ

仲村:個人株主は約25万人まで増え、持株比率は6割前後です。2000年に「ファン株主10万人」を掲げると、人数は倍々のペースで増え、5年で達成しました。その後20万人を目指し、2014〜2015年ごろに到達。以降は増減を繰り返してきました。

20万人に達してからは、長く保有していただくことや、若い世代の株主を増やすことに重点をおいています。直近で大きく増えているのは、NISAの影響が大きいと見ています。

―カゴメが考える「ファン株主」とは、どのような株主でしょうか。

仲村:経済的なリターンを求めて投資していただくのはもちろん、そのうえで企業理念や、農業、健康、環境といったカゴメの本質的な活動に共感し、伴走してくださる方です。

株式は一般的には経済的なリターンを目的に買うものなので、「ファン」であることと「経済性」は、一見相容れない側面もあります。しかし、ファン株主は、この2つを両立させようという考え方なんです。

―ファン株主の方は、一般的な投資家とは「株式を持つ理由」は異なるのでしょうか。

第41回株主優待アンケート結果(2025年より)
第41回株主優待アンケート結果(2025年より)

カゴメ

安藤:株価の上昇や配当への期待の声とともに、優待やイベント、持続可能な農業への貢献に関心をお持ちの方が多いと感じています。

ホームページで開示している優待アンケートでは、カゴメに長期的に期待することとして「株主優待」が突出して多く、「配当金」や「株価の上昇」と並んで、「事業の成長性」や「事業の安定性」も挙がっています。

―「社会貢献活動」を挙げた方も11%いますね。期待されているのはどのような活動でしょうか。

仲村:浸透しているなと感じるのは「健康」です。野菜ジュースなどの売り上げが伸びれば日本人の野菜摂取量が増え、健康寿命の延伸やウェルビーイングな社会への貢献にもつながる。

加えて、現在知っていただきたいと目指しているのは、環境負荷の低いトマトビジネスの開拓です。気候変動の影響で、原料となるトマトを育て続けることは年々難しくなっています。

そこで、干ばつなどの気候変動にも強い品種などの開発を進めています。工場見学でも海外ツアーでも必ず畑にご案内するのは、自然の恵みを商品にしているというカゴメの原点を、知っていただきたいからです。

株式を持つことが、社会への貢献にもつながると考えてくださる方がいるのは、ありがたいことです。優待や配当への期待にきちんと応えたうえで、カゴメが目指していることに共感していただく。その両方が、長く応援していただくことにつながると考えています。

若い世代への発信と、新ミッションへの共感

財務とIRを担当する仲村亮さん(右)、個人株主向けのIRや株主優待を担当する安藤希彩さん(左)
財務とIRを担当する仲村亮さん(右)、個人株主向けのIRや株主優待を担当する安藤希彩さん(左)

ハフポスト

―株主の年齢構成はどう変わっていますか。若い世代との接点づくりで工夫していることはありますか。

仲村:NISAをきっかけに若い株主は増えましたが、全体としては年齢層が上がっています。長く応援してくださっている方々を大切にしながら、そのお子さんやお孫さんの世代にもカゴメを知っていただきたい。そこで国内の工場見学は、親子3世代で楽しめるイベントにしています。

安藤:リアルイベントは、株主の皆さまからの期待が大きいので、夏休みの時期に工場見学を開いたり、参加できる人数を増やしたりしています。今回、初めてXやInstagramでポルトガルツアーについてご紹介しましたが、大きな反響がありました。

また、ネット証券に口座を持つ若い方が多いので、楽天証券さんと組んだ決算説明会を十数回続けています。株主以外の方にも見ていただけるので、投資を考えるきっかけになればと思っています。

―最後に、2035年のビジョンに向けて、ファン株主の皆さまとどのような関係を築いていきたいですか。

仲村:カゴメが目指すことに共感し、一緒に歩んでくださる株主の皆さまとの関係を大切にしていきたいと考えています。

カゴメが新たに定めたミッションは、「人が自然を、自然が人を豊かにする循環を生み出し続けます」です。大きな言葉なので、株主の皆さまも戸惑うかもしれません。だからこそ、込めた思いを噛み砕いて、きちんと伝えていきたいと考えています。

株主と企業の間に共感が生まれ、そこに経済合理性もついてくる。それが、お互いに「相思相愛」になれる一番幸せなあり方だと感じています。

記事全体を読む