受精直後のヒトの卵で、3つの遺伝子を書き換える挑戦
受精直後のヒトの卵で、3つの遺伝子を書き換える挑戦 / Credit:Canva2018年、中国の科学者・賀建奎(が けんけい)氏がヒト胚の遺伝子を書き換え、3人の赤ちゃんを誕生させたと発表して世界に衝撃を与えました。
科学者たちがこの行為を強く非難した大きな理由のひとつは、使われた技術そのものが危険すぎたことにありました。
当時使われたのは、2012年に登場した、DNAの二本鎖をまとめて切断する技術(CRISPR-Cas9)──いわば「遺伝子のハサミ」です。
狙った場所を切って細胞の修復力に任せる仕組みですが、この修復がしばしば失敗し、DNAの大きな領域が丸ごと消えたり、染色体そのものが壊れたりすることがありました。
実験室の細胞や実験動物、植物が相手なら非常に有用なツールでしたが、人間の受精卵に対して行うのは生まれてくる子供たちの遺伝的な健全性を顧みない「暴挙」と言えるものでした。
たとえば2020年、受精卵に従来型の遺伝子編集を行ったところ、染色体がボロボロになってしまうことが示されています。
およそ半数の細胞で、長い範囲のDNAが削り取られたり、その遺伝子が載っている染色体そのものが壊れたりしたのです。実験を行ったエグリ博士はこのとき「まったく破滅的だった」と語っています。
従来型の操作は、誕生後の人間にとっては有用な遺伝子治療になります。
それなのに「受精卵の段階」で行うと「破滅的」になる──同じ人間の細胞でも、受精卵の段階での操作はうまくいかなかったのです。
ところが、「破滅的」を経験した同じ研究チームは諦めませんでした。
「遺伝子のハサミ」で二本鎖を大々的に切るのではなく、もっと穏やかな道具を使うことにしたのです。
それが「塩基編集」と呼ばれる技術です。
2016年に原型が生まれ、現在に至るまで進化を続けていました。
2012年生まれの従来型がDNA二本鎖を「バチン」とまとめて切るのに対し、塩基編集は片方の鎖に小さな切れ目を入れるだけ。
間違った一文字を消して、正しい文字に書き直すようなイメージです。
この技術は、すでに「誕生後の」人の命を救い始めています。
昨年には、この技術で赤ちゃんが命にかかわる遺伝性疾患から回復しました。さらに現在、高コレステロールの治療でも臨床試験が進んでいます。
そこでコロンビア大学の研究者たちは、このピンポイントな方法なら、失敗続きだった「ヒト受精卵」の遺伝子編集もうまくいくのではないかと考え、実験に踏み切りました。






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