髙田賢三氏との共通点と、NIGO®︎氏ならではの「フィルター」
NIGO®︎氏のKENZO アーティスティック・ディレクター就任と、そのコレクションは2022年秋冬パリ・ファッションウィークの大きな話題となった。
Ye(カニエ・ウエスト)やファレル・ウィリアムスなどカルチャーシーンを彩る著名人がフロント・ローに。ショーに使用された楽曲は大きなBuzzを生み、インフルエンサーやSNS界隈からも支持された。
デビューコレクションはメゾンへの敬愛と実用的なルックへの賞賛が集まり、レガシーをもつKENZOをこれからどう変化させるのかにも注目が集まった。
KENZOの歴代のデザイナーはもちろん、ブランドのファウンダー、髙田賢三氏のアーカイブモチーフを採用していた。が、NIGO®︎氏のクリエイティブにはデビューコレクション以降も髙田氏の理念やデザインへの深い理解と共鳴を強く感じる。
昨今、メゾンブランドのディレクターやデザイナーの任期は短くなり、交代速度も早まる傾向にある。そのなかで2022年からディレクションし続けているのは人気に裏打ちされた証拠だ。キャッチーなカプセルコレクションは入手困難なほど、注目を集めている。
この点を問うと住吉氏は髙田氏へのリスペクトだけではない、と語る。
「賢三さんのアーカイブにはかなり注目しています。ただ、そのアーカイブをそのまま使うというよりは、NIGO®︎さんのフィルターを通して発信していると思います。
アーカイブから受けたインスピレーションをNIGO®︎さんが得意とするアメリカーナ(アメリカの歴史や文化、伝統に根ざしたスタイル)、アイビーリーグというフィルターを通して、新しく発信しているという表現が近いかもしれません」

写真提供=ケンゾー・パリ・ジャパン
NIGO®︎氏のカルチャーミックス感覚は髙田氏が東洋の美意識を欧州に持ち込み、拍手喝采を受けたこととクロスオーバーする。
「賢三さんは『日本のもの作りのこまやかな精神』『日本の伝統』をパリに持ち込みました。パリの洗練されたファッションと日本の精神を融合させたのがKENZOだったわけです。
また、賢三さんは旅を様々にされました。旅路でいろいろなカルチャーを吸収され、デザインや非常にカラフルなカラーパレットに落とし込んだのがKENZOというブランドです」

写真提供=ケンゾー・パリ・ジャパン
ケンゾー・パリ・ジャパンの社内には「『フレンチ・シック』『ジャパニーズ・クール』という合言葉があります」という。羽織、富士山などのモチーフ、日本のデニムや製造・染色技術――日本が世界に誇る象徴や技術を、フランスの美意識や高い職人技術とも溶け込ませ、世界の文化とも融合させる。カルチャーミックスが当たり前のように息づく。これが世界的に支持される理由のひとつだろう。非常にKENZOらしくもあり、令和的だ。
髙田賢三の名前とブランドとの距離。バリューの再構築を急ぐ
KENZOは1970年、パリでウィメンズコレクションデビュー。瞬く間に世界的ブランドに飛躍した。
「1983年にはメンズがローンチ。続いてKENZO Jeans、キッズ向けのKENZO Jungleと、今もある名称やブランド全体の原型が作られました。メンズブランドとしてどんどん進化して、今はメンズの印象が強い方もいると思われます」
ベッドリネンや傘などのホームコレクションを展開した時代も。KENZOは国民的ブランドにもなった。

写真提供=ケンゾー・パリ・ジャパン
「髙田賢三の名前は家庭や世の中に浸透してると思うんですよ。賢三さんといえば『あ、日本人のデザイナーね』と、どの世代に聞いても結構出てくる。
ただ、今のKENZOと髙田賢三の名前がなかなか結びつかない現実があります。それを再構築する意味でも髙田賢三らしいアイテム、色、柄をアーカイブから見直すことが重要です。アニマルやフラワープリントは、賢三さんがすごく得意としてた部分なので」
さらにブランドを成長させるトリガーが「Z世代」と「サステナブルなリアル・クローズ」だ。
Z世代の価値観と呼応する「リアル・クローズ」
髙田氏のスピリットを色濃く継承し、ブランドをさらに進化させる。
近年、KENZOは動画やSNSを含め、オムニチャンネル化を推進。タイガーモチーフは若年層にも人気を博し、顧客の年代が広がった印象だ。これはKENZOを擁する、世界有数のファッションコングロマリット、LVMHグループの戦略にも一致する。LVMHは現代的なラグジュアリー体験を店舗とデジタル上でも結びつけ、さらにソーシャルコマースでもリッチな世界観やメッセージの発信を行っている。KENZOはブランドの立ち位置からも若年層を狙うという。

写真提供=ケンゾー・パリ・ジャパン
「KENZOはLVMHのなかでは比較的手の届きやすい価格帯です。賢三さん時代のKENZOは限られた富裕層だけではなく、幅広い年代に向けて展開していました。それも継承して、リアルに手が届く価格帯で若い世代にも届けたい」
特にデニムやスモールレザーグッズを拡充し、若年層にもアプローチするという。アウター類やレディースにも注力。高田氏時代の原点回帰でもある。

写真提供=ケンゾー・パリ・ジャパン
ベイン・アンド・カンパニーの調査では、2030年までに、Z世代はラグジュアリー市場の購入層の25~30%を、ミレニアル世代は50~55%を占める見込みだ(*1)。Z世代戦略はラグジュアリーブランドにとって重要な要素だ。
さらに、Z世代のインサイトに寄り添う姿勢を住吉氏は語る。
「大切なのは身近に感じられる価格で、長く着られる価値があるものを届けることですね。古着になったときに次世代にも受け入れられるような。
例えばKENZOの商品が20年後に古着屋で発見されて、『20年後でも、かっこいいね』と言われ、着られるものであったらいいなと思います。SDGsにも繋がることですよね」
Z世代は上質なものに惹かれる一方、サステナビリティ意識も高い(*2)。リセールショップで衣料品を購入することも珍しくない。自分が価値があると認めるものだけに投資したい世代だ。その意味でも長く着られる「リアル・クローズ」というキーワードも意味がある。
一方で、シーズンごとの消費サイクルが早まり、廃棄される服の量が社会課題にもなっている。多くのブランドが今、売上と消費のあり方の双方を突きつけられている。
SNS時代の「右へならえファッション」
SNSを開けば、「年齢に合ったファッション」「これがNGスタイル」などの投稿が氾濫。長い日本経済の低迷で衣服代は限られ、画一的なスタイルにもなりがちだ。しかし、Z世代は「上質」「セルフブランディング」にもこだわる(*2)。住吉氏にこの点も尋ねた。
「ハンブル(手が届き、日常になじむ)で機能的、シンプルなアイテム。そして長く愛されるもの。かっこよくて派手で、でも1シーズン着たら飽きるものではなくて、本物のリアル・クローズ。みんながずっとクローゼットに置きたくて、10年ずっと着られる。それを買い替えていく――そんなスタイルをKENZOでは届けたいんです。
例えばデニムも、どんどん育てていく時代になっていて。『自分の時間』を重ねることで自分流(の個性)に変わっていく。それは1986年に賢三さんがKENZO Jeansを作ったことにも繋がります。2022年のNIGO®︎さんのデビューコレクションでもデニムを使い、今季も。デニムのように長く自分流に使えるものを今、本気で作っているところです」

写真提供=ケンゾー・パリ・ジャパン
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Z世代の、人々の気持ちに寄り添いながら、心地よさや自分らしさ、服との付き合い方も再定義。住吉氏の語るリアル・クローズとブランドの価値提供は、ファッション業界と社会に一石を投じる、そんな期待を抱かせてくれる。

2 時間前
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