5年以上培養したヒト「ミニ脳」はバラバラにしても過ごした時間を覚えていた

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長生きした脳オルガノイドはどうなるか?

長生きした脳オルガノイドはどうなるか?長生きした脳オルガノイドはどうなるか? / image:Irene Faravelli and Noelia Antón Bolaños

身長なら柱に刻めば伸びが分かり、乳歯は抜ければ成長の証になります。

ところがだけは、頭蓋骨という頑丈な箱に守られたまま、20年近くかけて静かに育っていきます。

その途中経過を細胞のレベルで覗く方法は、これまでほとんどありませんでした。

動物の脳ははるかに短い期間で成熟してしまうため、ヒトの長い成長を代わりに教えてはくれません。

そこで研究者たちが頼ってきたのが、ヒト幹細胞をベースに人工培養されたミニチュアの脳(脳オルガノイド)です。

白っぽいレンズ豆のような姿をした塊で、ひとつに100万個を超える大脳皮質の細胞が詰まっています。

人間の代わりに人間の脳が育つ様子を映してくれる道具として、この脳オルガノイドは、これまでブラックボックスとされてきた脳の理解に大きく貢献してきました。

ただしこれらは寿命が短く、数ヶ月で限界を迎えるのが常でした。

再現できるのは胎児の初期にあたる段階までで、その先は手つかずの空白地帯だったのです。

しかも培養を続けようとすると、いちばん肝心な神経細胞から先に減っていってしまうことも分かっていました。

今回、研究チームはこの二つの壁に同時に挑みました。

まず手をつけたのが、神経細胞の脱落です。

ここでチームが注目したのが、神経細胞がもともと持っている自発的な発火でした。

使わない筋肉が衰えるのと同じで、神経細胞も電気を発するのをやめると弱っていきます。

ところが従来の培養液は、その自発的な発火を十分に支えられていなかったのです。

そこでチームは、自発的な発火を保ちやすい特殊な培養液を用意しました。

すると従来の培養液では1年ほどすると全てのミニ脳の神経細胞がそろって発火する現象がまったく見られなくなっていた一方で、新しい培養液ではすべてで力強い一斉発火が確認されました

別に調べた2年ものでも、その活動は続いていました。

そしてもう一つの壁が、培養そのものの長さです。

こちらは5年を超えてなお続きました。

しかもミニ脳は、ただ生きていたわけではありません。

チームは110個ものミニ脳を細胞1個の単位まで分解し、42万個を超える細胞を一つひとつ調べ上げました。

さらに別の解析では、DNAに刻まれる化学的な目印から「分子から見た年齢」を割り出します。

この目印は年齢とともにDNA上で少しずつ貼り替えられていく付箋のようなもので、その貼り替わり方に年齢ごとの決まったパターンがあるため、体内に備わった時計(エピジェネティック時計)として使えます。

チームが選んだのは、本物のヒトの脳のデータから作られた物差しでした。

すると、この物差しがはじき出した年齢は、実際に培養してきた年月と、ぴたりと重なっていました。

人間の脳細胞も培養皿の脳オルガノイドの細胞も、ほぼ同じテンポで時を刻み、その変化がDNA上に刻まれていたわけです。

実際、培養から1年を過ぎたころには、通常なら生まれた後の脳に現れる特徴まで顔を出しています。

神経細胞を支えるグリア細胞が現れる順番も、遺伝子のスイッチが入る時期も、ヒトの脳で起きるのとほぼ同じでした。

体の外に置かれ、血管も持たず、感覚からの入力もない小さな組織が、本物と同じ時間割を淡々と守り続けていたのです。

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