黒木華主演『銀河の一票』を毎週、涙をこらえながら観ている。その理由は悲しいからではなく…

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カンテレ・フジテレビ系月曜夜10時のドラマ『銀河の一票』(脚本・蛭田直美、プロデュース・佐野亜裕美)第10話で、選挙参謀の星野茉莉(黒木華)が涙ぐみながら尋ねる。「許されるんでしょうか、そんな夢みたいなこと」。

そもそも組織票も知名度もない”泡まつ候補”のスナックのママ・月岡あかり(野呂佳代)が都知事選に打って出ること自体が夢のような話だ。そのうえで、ライバル陣営の背後にある不正を暴ける証拠──勝つための「切り札」の手紙を使わずに戦い抜くことが「許される」のかと。あかりの答えがこうだ。「許されないよね、だから変えるんだよね、私たち」。

『銀河の一票』が描いた「奇跡のような光景」

2026年2月の衆院選は、「60年ぶり冒頭解散」「戦後最短16日間の選挙戦」という異常事態で幕を開けた。高市首相が通常国会召集当日に衆院を解散した理由は「高市早苗が内閣総理大臣でよいのかどうか、国民の皆様に決めていただく」というものだったが、憲法学者からは議院内閣制の本質に関わる誤りだとの指摘が出た。

点字投票用紙の印刷が間に合わず、大雪で投票所が早く閉められた地域もあった。解散から投票日まで16日間という超短期日程のため、海外在住の有権者が郵便で投票用紙をやり取りする在外投票が物理的に間に合わないケースも生じた。入場券の発送が遅れた自治体もあった。

前年の参院選では東京・大田区の選管職員による票の水増しが発覚し、書類送検に至っている。かつて「無党派層は寝ててくれ」と言い放った元首相がいたが、選挙制度そのものが着実に壊されてきている。

ドラマの中でも、その現実は描かれる。第10話で鷹臣(坂東彌十郎)陣営は、組織票を逃がさないため、親族含めて他候補に投票した場合は「反党行為とみなす」という文書を送るよう党スタッフに指示する。しかし指示を受けたスタッフたちは次々と声を上げる。「それは思想の自由を侵す行為では」「いたしかねます!」。

この「いたしかねます」で泣きそうになった人もいるのではないか。政治に関わる人たちは本来、何かしら高い志を持ってその場所に至ったはずだと、信じたい。

しかし現実に目を向けると──改憲・高額療養費制度の自己負担限度額引き上げ・国家情報会議設置法成立・皇室典範改正。多数の反対の声やデモ、24万筆を超える署名を無視し、ごく一部の人間による「閣議決定」で大きなことが超スピードで進められていく。

その一方で、ドラマでは資金も組織も持たないあかり陣営において、告示日当日に「魔法のようなこと」が起きていた。都内1万4000カ所すべての掲示板に、1枚1枚人の手でポスターが貼られたのだ。1000万円投じて業者が一気に制覇する候補者がいるという中、それは奇跡のような光景だ。

「夢中で、楽しくて、きれいなまま、最後まで」

鷹臣の後妻・桃花(小雪) があかり陣営を突然訪ねてくる。「私が誰を応援するか決めるのは、私の権利でしょ?」。ただし条件がある。公約にある「真のバリアフリー」という言葉を消してほしいというのだ。「嫌いなんだよねえ、ペラっとした適当な言葉でバリアフリー語られるの」。

その言葉を受けてあかり陣営は選挙戦をいったん止め、各投票所のバリアフリー対策を一つひとつ電話で確認し、一覧を作り、わかりやすいサイトを作ることにした。その作業を、対立候補であるAIエンジニアの風間(梶裕貴)に1000万円で「業務委託」するという発想も含めて──呆れた風間は結局3万円でやってくれる。公約の言葉は「バリアフリーという言葉が不要な世界へ」に変わった。

胸を打つのは、五十嵐(岩谷健司)が取り出した一枚の絵はがきだ。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』の絵と、「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はありえない」という言葉が書かれたそれは、かつて茉莉の父・鷹臣も持っていたものと同じだという。

実は、鷹臣の政策秘書・雫石(山口馬木也)が描いたものだった。五十嵐は言う。「夢を見ちゃった。もしかしてこの選挙戦、初めてこの言葉に恥じない戦いができるんじゃないかって」。だから手紙を使うのをやめないか、と。

あかりも茉莉に言う。「あの手紙、使うのやめない? 勝つために使うの、もうやめない?」。茉莉は「夢中で、ずっと楽しくて、涙が出るくらいきれいなものをたくさん見せてもらった」とつぶやく。あかりが返す。「そのままいかない? 夢中で、楽しくて、きれいなまま、最後まで」。

『銀河の一票』第10話より
『銀河の一票』第10話より

関西テレビ放送 提供

 「“きれいなこと”を諦めない」一貫した主題

「きれいなこと」を諦めないというのは、このドラマの一貫した主題だ。脚本の蛭田直美は「きれいごとじゃない、きれいなことだよ」という言葉をドラマの核に据えている。

流れ星に当選を願いながら、茉莉は子どもの頃の記憶を語る。父が「銀河はどうしてこんなにきれいなんでしょうか」と尋ねると、母が答えた。「一つひとつの星がきれいだから」。その母が亡くなって父は変わった。総理になることだけを考え、政略結婚まで選んだ。「なんでそんなになりたいのかね? 総理になって何かやりたいことがあるの?」というあかりの問いに、茉莉は「考えたこともなかった」と言う。

その夜空の下で、あかりは茉莉に語りかける。「きれいなもの見ると泣きたくならない?」。このドラマを毎週涙をこらえながら観ている人たちの心境は、それだと思う。泣きたいのは悲しいからではなく、きれいなものがそこにあるからだ。

「許されないよね、だから変えるんだよね」──諦めではなく、意志の言葉だ。きれいなままで戦うことが「許されない」、それではなかなか勝てない現実はある。だからこそ変える、という順序に、このドラマの誠実さがある。

告示直後、あかりは4位スタートと厳しい出だしだった。それでも、このドラマを観ていると、そう願わずにいられない。きれいなことがちゃんと勝つ世界が、あってほしい。いや、あるはずだと。

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