高市早苗「時間稼ぎのための時間稼ぎ」という悪手。円安で苦しむ国民を放置する与党は何を待っているのか?

1 日前 1

ra20260728

およそ40年ぶりとなる記録的円安で、圧迫され続ける国民の生活。なぜ高市政権は、この状況を「放置」し続けるのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では作家で米国在住の冷泉彰彦さんが、日本経済を「純粋円建て」と「基本ドル建て」に分裂させる二重経済の構造を分析。その上で、円安を加速させる政治のメカニズムやその先に待ち受ける危機、さらに二重経済を緩和するために必要な改革について考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:「円安と二重経済の問題」を考える

1ドル180円も時間の問題。「円安と二重経済の問題」を考える

日本の政治経済の状況は、更に動きを見せてきています。まず、現状としては、円安が止まらなくなってきました。

ドル円で、160円から162円という局面では、小規模な介入を感じさせるような動きがありましたが、その後、162円から164円という動きについては、静かに進行しているという印象です。このままでは、180という水準も視野に入ってくるのは時間の問題と言われ始めています。

現在でも円安は日本経済に大きな影響を与えていますが、仮に180円まで円安が進めば、その影響は現在よりも一段と大きくなります。

海外で稼ぐ多国籍企業には追い風となる一方、輸入価格の高騰によって家計や中小企業には大きな負担となり、日本経済全体としては「恩恵と負担が同時に拡大する」状況になると考えられます。

近年の160円台前後の円安局面でも、輸出額が伸びる一方で、エネルギー輸入額の増加によって貿易赤字が続く場面が見られました。180円まで円安が進めば、こうした傾向はさらに強まる可能性があります。

仮に180円になった場合、これは現在の164円からみれば、+9.7%ということでかなり大きな数字です。輸入品である建設資材、食糧、エネルギーなどは軒並み「現時点での既に高くなった水準」からほとんど10%押し上げられます。反対に、164を180で割るのであれば0.911ですから、インバウンドから見れば、十分に安い日本の物価が更に1割下落することになります。

180円になると、日本旅行は外国人にとって非常に安く感じられます。「日本は物価が安い国」という印象を一段と強く持つことになります。現在でも、イラン情勢で航空運賃が高騰していますが、観光客は大きくは減っていません。これは、航空券に500ドル余計かかっても、「美味い寿司が信じられない値段で食べられる」のなら、差し引きチャラ、もしくは依然としてお得という感覚があります。180円になれば、この感覚が1割増しになるのです。

一方で、日本人にとってはホテル代が上昇し、人気観光地の混雑も深刻化する可能性がありますが、最大の問題は輸入価格です。エネルギーに関しては、イラン情勢、ウクライナ情勢で軟化の可能性がありますが、問題は食糧と資材、更には医薬品の原料なども大変になります。

国内産業の中では、現時点でも国内需要向けの外食や食品加工業の廃業が増えていますが、この動きが一層加速することになると思います。一番大変なのは家計です。現時点でも総選挙の曖昧な公約である「食料品消費減税」論が出入りしていますが、180円水準の円安となれば、その要望は更に大きくなるでしょう。

ここで150円から160円の水準で起きたことを考えてみれば、例としては、

「人件費の高騰に加えて資材の高騰により、大規模な再開発プロジェクトがキャンセル」

「コミュニティで親しまれていた、ラーメン店やケーキ屋がこれ以上の値上げは不可能と判断して閉店」

といった現象が起きたわけですが、仮にドル円が180ということになれば、更にこうしたケースは増えるでしょう。

「二重経済」の間にある格差をより増大させる円安

こうした状況を一言で言うならば、「二重経済の進行」ということになります。二重経済というのは、日本経済が「ドメスティック(純粋円建ての経済)」と、「インターナショナル(基本ドル建ての経済)」に分裂するということです。

狭い、正しい意味での日本経済、つまり日本のGDPに限ったとしても、円経済とドル経済という二重性は厳然としてあり、円安というのは、その二重経済の間にある格差をより増大することになります。

具体的に見て行きましょう。

純粋な円経済というのは、日本の純粋な内需、つまり買う側(消費者)も提供する側(生産者)も円建てという世界になります。ここでは、円安により輸入のエネルギーや資材、原料は値上がりするので、価格に転嫁しなくてはなりません。

ですが、純粋な円経済では円で給与や価格が決まっています。給与の場合は今は8月になろうという時期ですから、年度の残り、つまり27年3月までは基本的に変わりません。年金の額も同じです。また、官公庁の予算、国内企業の予算は固定されており、円で縛られています。

年度が変われば新しい年度の予算がつくし、給与のアップは多少はあるかもしれません。ですが、基本的に日本国内というのは、人口減が既にほぼ決定しているので、規模の経済が改めて拡大に向かう可能性はありません。

ですから、国内だけをターゲットとするビジネスは、先が見通せないというより、縮小という未来が見通せているので、どうしても値上げや賃上げには踏み切れないという問題があります。

一方で、純粋な円経済という観点では、財務省の利害は少し違います。財務省としては国債残高という借金は円建てがほとんどですし、税収も円建てです。ですから、現在は物価高のために史上空前の歳入増となっており、その歳入が国家債務の返済に回ることになります。

では、財務省としてはどんどん円安になればいいのかというと、決してそうではありません。円が叩き売られて、円安になるというのは通貨価値が損なわれることと同じです。

通貨の価値が下がれば、既に発行されている国債の価値も下がります。ということは、元本返済+金利の見込みで構成されている国債の市場価値は下がり、金利は上がっていきます。発行済の国債の金利が上がれば、以降発行する国債には高金利を付ける必要が出てきますし、以降は金利の支払いは膨張してゆきます。

ということで、アッという間にインフレによる歳入増は、国債の利払いでチャラかマイナスになってしまいます。

一方で、ドル建ての経済の側からすれば、円安になれば円建ての数字はどんどん膨張します。例えばドル圏、あるいは人民元やユーロの地域で売上が上がり、利益が上がれば、その多国籍企業の円建ての業績は膨張していきます。

EVやAVの革命により、自動車業界は「明日をも知れない」不透明感の中にありますが、そんな中でも多くの企業が「史上最高益」となっているのは、とにもかくにも売上も利益も株価も、円建てになれば膨張するからです。

また、一見すると国内産業にように見える観光業や外食産業も、インバウンド市場を確保した途端にドル経済圏に入ってくることになります。円建てでは値上げでも、ドルに倒すと「お手頃価格」になってインバウンド需要がドッと流入するのであれば、この分野では勝っていくことが可能になります。

「食料品1%減税+給付」公表で瞬殺されかねない内閣

反対に、一番困るのは、供給はドル経済圏から「しか」来ないが、需要は円経済圏という場合です。いわゆるデジタル赤字というのは、この構造があるので垂れ流しになっているわけです。

ですから、物理的に日本国内で起きていても、インバウンド需要に応える観光業はドル経済であり、デジタル赤字は金額を膨張させながら円経済圏を蝕んでいることになります。

例えばですが、同じように午前9時頃にビジネスカジュアルの出で立ちで山手線なり御堂筋線に乗っていたとしても、その人のビジネスがドル圏に属していれば、円建てではかなりの高給を取っているかも知れません。年収で800万とか1,200万というのは、そういうことです。

一方で同じような格好をしていても、純粋に円経済圏に縛られているようですと、年収も上がっていかないということになります。例えば大学を出るような年齢の若者に、将来はどんな進路を推奨するかということになれば、何も他に条件がない場合は、とにかくドル経済圏に属することを勧めざるを得ないということになります。

問題はこの円安が政治に結びついていることです。現在の政局と円安には、次のようなメカニズムが回っています。

  1. 高市政権は「積極経済」を標榜しているので、国際市場からは財政の緩みを警戒されている。その結果、円安が進行している
  2. 過度の円安はダイレクトに物価高につながるので、給付と介入によって何とか変化を緩和してきた
  3. けれども、商社メーカーなど多国籍企業は円安選好なので、164円水準も歓迎という状況
  4. 問題は、ここから「食料品消費税1%+給付」に動くことの是非 ←今ここ

という状況です。ここからのシナリオですが、「1%+給付」に動くかどうかは、大きなギャンブルになります。既にそんなことは無謀ではないかという金融関係の記事は英語圏で出回っています。

ですから、7:3程度の割合で、「食料品1%減税+給付」を公表した瞬間に、英国のトラス・ショックの再現となって、内閣が瞬殺されてしまう可能性があります。

言ってみれば、この間、皇室典範の問題や副首都の問題で色々と議論したり迷走したのも、「減税+給付」を「やりたいが、できない」中での政治的時間稼ぎであったという指摘も可能です。

どうして時間稼ぎをしたのかというと、少し待てばイラン情勢+ウクライナ情勢が好転し、原油価格が下がってインフレが緩和されるからです。そうなれば、「減税+給付」を要求する声は低くなるかもしれず、その場合はさらなる時間稼ぎが可能になるからです。

つまり、厳しい言い方をするのであれば、政権は時間稼ぎをするために時間稼ぎをしているということが言えます。だったら、「こうなったら、減税+給付をやったらリズ・トラスの二の舞になって国民に迷惑をかけるのでできない」という腹の括り方をする手もあるのですが、それは理念とは別の大衆政治家というプールの中で泳ぐ宿命をもった総理にはできない相談でしょう。

さて、この時間稼ぎのための時間稼ぎですが、戦争の展開が緩和されて原油価格が下がるというだけではないと思います。

例えばですが、良いタイミングを逸してしまったので、利上げをして日米金利差が圧縮しても、円が反騰しないとか、金利が更に一段高となった場合は、反対に環境が悪化したので「消費減税」はできないことになります。せっかく時間を稼いでも、事態がそこまで悪化してしまうと、「この間の政策の失敗」ということで、内閣は窮地に追い込まれてしまいます。

政局の中で大きな失望感を覚えざるを得ない維新の動き

しかし、全体的な政局の中で特に失望感を感じるのが、維新の動きです。良くも悪くも納税者の反乱、つまりは強めの小さな政府論ということで動いてきたのですが、この間は万博、IR、副首都と、カネを使う話がメインとなっています。

民間活力の拡大として計画していた、製薬治験特区などの構想は雲散霧消しており、ある意味では利権政党になった、だからこそ大阪でも自民党との共存が曲がりなりにも出来たのです。勿論、この先、改めて都構想の話に進む場合は自民や左派と鋭角的に対立するわけです。

とにかく副首都構想というのは、税金を使う話であり、東京維新が持っていた小さな政府論には逆行します。万博を「やってしまった」という負の十字架は「大損はしなかった」ことで免罪されるにしても、理念としての小さな政府というのは曖昧になってしまいました。

また、IRというのは何だかんだ言ってもインバウンド商売であり、いわゆる「外国人問題」的な保守感情とはまた「別」になっています。そうした意味で、とにかく印象が薄くなりつつある中で、参院選などへの対策として「こうなったら入閣」という話になったのでしょう。

維新が賞味期限との時間の勝負的になってきたことと、高市政権の先延ばしという2つの時間軸がシンクロして、現在のような状況になってきたと言えると思います。

それはともかく、このまま放置をしてゆくと、円とドルの二重経済は解消されない中で、円安要因は大きく、円高要因は限られています。そんな中で、次のターニングポイントは何かというと、

「円安と割安感から続いてきた不動産と株への外国資金の流入が、損切りという形で出口を迎える」

という危険です。仮にそうした流れとなるようだと、そこで円安が更に加速し、金利が跳ね上がることになります。

不動産に関しては、実需が届かない水準まで高騰した中では、前回のバブル崩壊の際と同じように「以降は下げるしかない」というトレンドになる危険は十分にあります。

本当の解決策としては、円経済の生産性を上げてドル経済に追いつく、あるいは国内経済をグローバル経済に適応させて二重経済を解消に近づけるという「改革」です。

二重経済は解消する必要は実はなく、国内の方が安くて価格競争力があれば、大きなチャンスも出てくるかもしれません。そうしたチャンスを活かすためには、この大卒50%の硬い教育水準を誇る労働力を、論理、計数、DX、AI、英語への親和性を高めていかねばなりません。

つまり、保守という看板のために、こうした改革、特に教育改革や地方の改革を思い切りサボってきたのが自民党です。そして、改革どころか守旧派として、国の足を引っ張ってきたのが左派という構造です。

その点に関しては、高市政権はトランプのアメリカへの投資というコストを必要と断定して引き受け、同時にGDPに対する国内投資を始めました。ですが、支持基盤が保守なので教育改革はできず、地方の改革はもっとできないのです。

「円と国の衰退をできるだけ緩和するのが最善」という諦め

そんな中で、生存のための唯一の道筋である国内の改革による二重経済緩和については、どうしても結果が出るようなイメージはしにくくなっています。そんな中での積極経済であり、更に減税と給付が不可避ということでは、やはり国際市場の見方は厳しいものとなるのは避けられません。

かといって、ポスト高市として取り沙汰されている茂木、林、小泉といった面々も、こうした国内改革に真剣に取り組めるかは疑問です。

そう考えると、政治に高望みは禁物であり、円と国の衰退をできるだけ緩和するというのが最善という諦めをするべきなのかもしれません。

その場合には、ここから先にどんどん具体化してゆくであろう、高市氏のサバイバルゲームというのは、国と通貨の現在位置を正確に推し量る効果は最低限あるのではないかと考えています。


初月無料購読ですぐ読める!7月配信済みバックナンバー

※ 2026年7月中に初月無料の定期購読手続きを完了すると、7月分のメルマガがすぐにすべて届きます。
  • 【Vol.649】冷泉彰彦のプリンストン通信  『円安と二重経済の問題』(7/28)
  • 【Vol.648】冷泉彰彦のプリンストン通信  『日米の『合板政治』を考える』(7/21)
  • 【Vol.647】冷泉彰彦のプリンストン通信 『AI時代の教育改革を考える』(7/14)
  • 【Vol.646】冷泉彰彦のプリンストン通信 『建国250年、分断と虚しい花火』(7/7)

いますぐ初月無料購読!

image by: 首相官邸

MAG2 NEWS

記事全体を読む