魚を増やす道具で、魚を消す
魚を増やす道具で、魚を消す / Credit:Canva川に魚を放流するのは、ふつう魚を増やすためです。
ところが今回の研究チームは、その放流を「魚を消す」ために使いました。
標的はブルックトラウト(カワマス)です。
19世紀末に釣りの対象としてアメリカ西部の川に持ち込まれたこの魚は、いまでは在来のマス類を追いつめる厄介な外来種になっています。
餌や住処を奪うだけでなく、交雑して雑種を作ることもあるからです。
大掃除をした部屋が、翌週にはまた同じだけ散らかっている。
この魚の駆除は、それに似た徒労とずっと隣り合わせでした。
主な手立ては、これまで二つでした。
川に電気を流して魚を気絶させ、捕まえる方法(電気ショック漁法)と、魚を殺す薬剤の散布です。
けれども電気を使う方法は短い区間でさえ膨大な手間がかかり、薬剤は在来の魚まで巻き添えにします。
しかもブルックトラウトは成長が早く繁殖力が強いうえ、数が減ると生き残った個体がかえってよく育つ性質があります。
数匹でも取り逃がせば数年で元どおりになってしまうのは、そのためです。
そこでアイダホ州魚類狩猟局は2008年、まったく別の道を探し始めました。
それが「超オス」を川に放つ作戦です。
ブルックトラウトは人間と同じで、メスはXX、オスはXYという性染色体の組み合わせで性別が決まります。
ふつうのオス(XY)はXも渡せるので、生まれる子はオスとメスが半々になります。
ところが超オスは2本ともYであり、子にYしか渡せません。
だから野生のメスと交配して生まれる子は、必ずXYのオスになるのです。
普通なら、新しい世代が生まれると新たなメスも供給されます。
しかし超オスが父親になった時点で、卵から生まれてくるのはオスばかりで、メスの補充が止まります。
その結果「メスが減る一方で増えない」ということになります。
そして最後のメスが寿命を迎えたとき、種として卵を産む力を失います。
毒や網が今いる魚を減らす道具だとすれば、超オスは次の世代の入り口を閉じる道具です。
この超オスを生み出したのは、養殖の現場で使われてきたホルモン処理の技術でした。
遺伝的にはオスの魚をホルモンで卵を作る親に育て、掛け合わせてYを2本持つ魚を選び出したのです。
ホルモンを使うのは孵化場での親づくりまでで、川へ放す魚そのものは処理を受けていません。
ただし、野生のメスとの間に生まれてくるのはXYのふつうのオスです。
超オスそのものが自然の川で増えることはないので、放流は毎年続けなければなりません。
しかも効き目が表に出るのは、いまいるメスが寿命を迎えたあとです。
コンピューター上の予測では、電気で野生魚を減らしながら放流すれば10年以内に片がつくという結果も出ていました。
けれども、それはあくまで机上の計算です。
実際の川で最後のメスまで消せるのか、その答えは誰も持っていませんでした。






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