習近平がわざわざ北朝鮮に足を運んだ理由は「米朝首脳会談」という“特効薬”実現のためだ

3 時間前 1

ts20260615

東アジア情勢を左右する重要な舞台である朝鮮半島。近年は比較的落ち着きを見せてきたようにも窺われますが、水面下では新たな緊張の芽が生まれつつあるようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』ではジャーナリストの富坂聰さんが、習近平国家主席がわざわざ北朝鮮を訪問した背景を分析。さらに中国が北朝鮮との関係を重視する理由と、朝鮮半島を巡り高まりつつある各国の思惑について考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:習近平の訪朝で強調された朝鮮半島に広がる不穏な空気

中国の狙いはどこにあるのか。習近平の訪朝で強調された朝鮮半島に広がる不穏な空気

「これでもか」という大歓待だった。

6月8日から9日にかけて中国・習近平国家主席が北朝鮮を訪問した。そのときの北朝鮮の歓迎ぶりの話だ。

5月にはアメリカのドナルド・トランプ大統領が訪中し、直後にロシアのウラジミール・プーチン大統領が北京を訪れた。そのとき中国は子どもから大人までを動員して派手に出迎えた。その歓待ぶりに目が慣れていたはずだったのに、今回テレビに映し出された習主席の北朝鮮訪問の映像には驚かされた。

金正恩朝鮮労働党総書記・国務委員長も自ら空港で出迎え、車で移動する際には、沿道のマンションの窓という窓から住民が顔を出し、ずっと手を振っていた。

帰国時には離陸する習主席の飛行機に手を振る映像まで流された。

金総書記が空港で誰かを出迎える画像は2年前のプーチン大統領の訪朝以来のことではないだろうか。

こう書くと、まるで北朝鮮を挟んで中国とロシアが綱引きをするという、西側メディアが大好きな話題なのかと思われそうだが、そうではない。

私はむしろ、今の中国にとってロシアと北朝鮮への影響力を競う意味は、ほとんどなくなったと考えている。

2022年にウクライナに侵攻し世界から孤立したロシアとは違い、中国は全方位のスキのない外交を展開している。その視点からすれば、北朝鮮との関係はむしろ「両刃の剣」でさえある。

ロシアとともにウクライナと戦う北朝鮮は、欧州の国々から見れば「敵」であり、中国がヨーロッパ連合(EU)との関係を深めようとすれば、マイナスに作用しかねない。韓国との関係改善という流れでも、それは微妙である。

ただ、それでも中国にとって北朝鮮との関係は重要だ。そのことは習近平訪朝を伝えた中国メディアのフィーバーぶりからも伝わってくる。

この好悪の加減をどう考えたらよいのだろうか。

まず整理しておかなければならないのは、中国にとって北朝鮮との関係強化は、ロシアの朝鮮半島への影響力を排除する目的ではなく、あくまで中朝二カ国の関係強化に重心が置かれているという点だ。

朝鮮半島の現状を考えれば、対ロシアより対アメリカの方がはるかに重要であり、その点ではロシアも少なからず利害を共有している。

どういうこだろうか。頭の体操だが、もし今、アメリカがベネズエラにやったような軍事作戦を朝鮮半島で実行したらどうなるのか、という話だ。

ベネズエラに対する軍事力の行使に比べればイランに対する攻撃は中国にとってはるかに深刻であった。しかしそれがもし朝鮮半島で再現されるようなことになれば、イラン攻撃など比較にならないほど大きな災厄が中国と朝鮮半島に降りかかることになる。

そんな東アジアの危機が、中国の手の届かないところでエスカレートするとするとなれば、なおさら中国にとっては耐え難い展開といわざるを得ない。

私は先に「頭の体操」と書いたが、その可能性はゼロではない。

つまり今回の訪朝は、そんな危機を自らのコントロール下に置くため、トランプ大統領と金正恩総書記の間に立って、調整するためだと考えられるのだ。

トランプ訪中の流れと異なる最近の在韓米軍の動き

米朝関係が落ち着くことは中国にとっての国益であると同時に、トランプ大統領にとっても中間選挙に向けて有権者にアピールできる外交的なポイントとなる。

もちろん北朝鮮にとっても米朝首脳会談は実現したい目標の一つだ。北朝鮮がその可能性を視野に入れ、アメリカやトランプ大統領を直接批判することを慎重に避けているとの指摘もある。

一方で不安材料も多い。

中国から見たとき、特に気になるのが最近の在韓米軍の動きだ。今年2月には黄海上空で訓練中の在韓米軍機が中国軍機とにらみ合う事態が起きている。この問題をめぐっては在韓米軍のゼイビア・ブランソン司令官と韓国国防相との間で「謝罪した」「していない」という応酬も露見し、李在明政権と在韓米軍との不協和音も話題となった。

今年5月末には、やはりブランソン司令官が、「中国の立場からすれば、韓国はアジアの中心に位置する匕首(短剣)」と公の場で発言し物議をかもした。わざわざ90度回転させた地図を示し、在韓米軍の中国抑止の有効性にも言及したのだ。

北朝鮮もこの発言には素早く反応した。

朝鮮中央通信は、国際問題評論家キム・ミョンチョル氏の寄稿を通じ〈ブランソン司令官の発言は単なる失言ではなく、韓国を地政学的な道具として利用して中国を包囲・抑止しようとする歴代米政権の計算された戦略的視点をそのまま反映したもの〉(『中央日報』)と評したと報じた。

こうした在韓米軍の動きは、明らかに5月中旬のトランプ大統領の訪中の流れとは異なることから、李政権にも戸惑いが広がったと伝えられている。

韓国メディアの『ハンギョレ』は社説で〈「韓米同盟の健全な発展をけん引」するためにも、可能な限り早期に「戦時作戦統制権の移管を支障なくすみやかに進行」せざるを得ない〉と呼び掛けた。

つまり在韓米軍の挑発的な言動に不安を覚え、「戦時作戦統制権の移管を支障なくすみやかに」と呼び掛けたのだ。

これも頭の体操だが、もし今アメリカ国内に意見の対立があり、トランプ政権の対中融和、在外米軍の縮小という方向に不満を抱える勢力があるとしたら、米中や米朝間の接近を何らかの形で阻止したいと、何かを仕掛けてくるかもしれない…。

習近平氏がわざわざ北朝鮮に足を運んだ意味が朝鮮半島の安定であれば、その特効薬としての「米朝首脳会談」を早期に実現させるという狙いが背後にあったとしても、少しも不思議ではないのだ。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2026年6月14日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい)

image by: 朝鮮労働党機関紙『労働新聞』公式サイト

MAG2 NEWS

記事全体を読む