米中間選挙で拡大する「AI広告」。対立候補を揶揄するディープフェイクも。何が、どこから問題になるのか

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「この広告はAIによって制作されました」その重要な情報が伝えられたのは、動画が始まって約45秒後だった。

動画に出てくるのは、民主党のペンシルベニア州知事のジョシュ・シャピロ氏だが、実際には本人ではない。

動画は共和党の対立候補ステイシー・ガリティ氏を支持するためにAIで生成されたシャピロ氏の「ディープフェイク」だ。

動画がAIであることが伝えられるまでの45秒間で、ディープフェイクのシャピロ氏がセクハラ疑惑を金銭で揉み消したなど、様々な不正行為に関わったことを告白する。

これらの“告白”は、ガリティ氏がシャピロ氏を批判する際に持ち出す主張と一致している。

共和党陣営はこの広告を擁護しているが、シャピロ氏の報道担当者は「安っぽくて不誠実なAIのデタラメ」と批判している。

AI選挙広告は今後増えるのか

最初の“AI選挙”へようこそ――ウェズリアン・メディア・プロジェクト共同ディレクターのトラビス・リドアウト氏は、2026年の中間選挙をそう表現する。

この言葉は、今回が本格的にAIを取り入れた、初めての選挙だということを意味する。

ウェズリアン大学が中間選挙の広告を追跡したところ、10月11日までに、少なくとも一部がAIで生成された220本の広告に、合計1億3700万ドル(約216億円)が投じられていた。その大半は共和党候補者や関連団体による資金提供だった。

一方、2024年の選挙でのAI生成広告への支出は、わずか5万ドル(約790万円)だった。

研究者や選挙陣営は、AIを活用した広告は今後も続くと考えている。

広告制作者たちは「AIのおかげで限られた予算でもクリエイティブな広告を作れるようになった」「広告枠確保など地道で手間のかかる雑務をやってくれるのでより大きな構想や戦略を練る時間が生まれた」と熱く語る。

その一方で、必ずしも今後AI広告が爆発的に増加すると考えているわけでもない。

有権者は「AIスロップ(AIで大量生産される低品質なコンテンツ)」に強い不快感を抱いており、ディープフェイクは論争を巻き起こしている。一部の州では、様々な法律が施行された結果、AIの使用が事実上禁止されている。

ただし、中間選挙が悪夢のような「スロポカリプス(AIスロップが氾濫して機能不全になる事態)」に陥っていると表現するのも、言い過ぎだろう。

AI広告への支出は1億3700万ドルに上るが、選挙戦に投じられる数十億ドルという巨額の資金と比べれば、ほんの一部にすぎない。

リドアウト氏は「今後、多くの選挙陣営は、AIを本格的に導入する前に、世間の反応がどうなるかを見極めようとするのではないか」と語った。

民主党側はAIを使わないことをPR

シャピロ氏の広告は、候補者自身の姿をAIで生成する手法の最も過激な例と言えるかもしれない。

現時点では、この手法を使っているのは主に共和党で、激戦区で利用されていることが多い。

ジョージア州のジョン・オソフ上院議員(民主党)は、美容院やネイルサロンに自身が訪れる姿を描いた30秒のディープフェイク広告がAI生成だという表示なしに公開されたことについて、「政治的議論での真実の破壊につながる」と警告した。

ニューヨーク州知事選では、共和党候補のブルース・ブレイクマン氏を支持する広告に、AIによる捏造が頻繁に出てくるため、有権者を誤解させるという苦情が選挙当局に申し立てられた。

対立する民主党側は、ニューヨーク州知事選でAIの使用を比較的控えていると強調している。

ニューヨーク市のゾーラン・マムダニ市長は、キャシー・ホークル知事を支持する投稿で「ブルース・ブレイクマンとは違い、私たちは動画の制作にAIを使っていません」とコメントしている。

AIを広告でどう使うべきか

リドアウト氏は、AIを使った広告の多くは、特に問題のあるものではないと主張する。

例えば、AIを使ったのが背景に登場する人物だけであれば、GettyやShutterstockなどのストック素材サービスを利用した補助的映像である「Bロール」とそれほど変わらない可能性がある。

激戦区で、共和党の上院選挙ほぼすべてに関わっている政治コンサルタントのトレント・ワイズカップ氏は、AIは「我々のクリエイティブ制作のあらゆる側面に組み込まれている」と話す。

それには背景映像だけでなく、AIで作った仮想人物を使った、広告のアイデアや反応の検証なども含まれるという。

一方、民主党系コンサルティング会社トリロジー・インタラクティブのマネージングパートナーであるラリー・フイン氏は、作業効率化のためにAIを活用している。そうすることで、本当にやりたい仕事に時間を割けるようになるという。

彼が挙げた具体例の一つは、既存のコンテンツをAIで改善することだ。例えば、討論会で候補者の発言中に割り込んだブザー音を、AIで取り除くといった使い方がある。

表示をめぐる議論

AI広告をめぐって、さらに大きな論争となっているのが、その表示方法だ。

カリフォルニア州、メリーランド州、ミネソタ州、テキサス州には、政治的メッセージを含むAI生成ディープフェイクの使用やその種類を禁止する法律がある。また、27州では何らかの表示義務がある。

規制は州ごとに異なり、複雑に入り乱れている。ウェズリアン・メディア・プロジェクトの調査では、34州でAIを活用した広告が確認された。これはAI広告を事実上使用できない地域もあるということを示唆している。

また、研究者が確認した広告のうち、AI生成動画だとの表示を含んでいたのはわずか27%だった。この結果は、適切な情報開示が行われているのかどうかについて疑問を投げかけている。

リドアウト氏は、AIを使用したかどうかよりも、広告の内容がどれほど「現実からかけ離れているか」に注目すべきだと考えている。

ワイズカップ氏は、規制が不明確なために、選挙キャンペーンでAIの補助的な使用が妨げられているのは残念だと述べる。

同氏が例として挙げたのが、広告内でAIを使用した場合、音声による表示を義務付けているミシガン州の規制だ。

ワイズカップ氏は、この規制は州内でのAI使用を事実上禁止するものであり、「広告にAIを導入するために、これほど多くの面倒な条件や手続きをしたい人はいない」と語った。

米国政治コンサルタント協会(AAPC)のAI委員会で共同委員長も務めるフイン氏は、AIを限定的に使用する場合でも表示義務が生じる場合があり、「混乱状態」だと話す。

「ごく簡単な作業にAIを使うだけでも使用表示を義務付けられれば、広告全体の効果に影響する可能性があります」とフイン氏は懸念を口にした。

AI広告氾濫の歯止めになっているものとは

2026年にAI広告があらゆる場所にあふれる事態を防ぐ、最も強力な歯止めとなっているのは、有権者の否定的な見方かもしれない。

リドアウト氏はAIディープフェイクの使用は、極めてリスクの高い戦略だと考えている。

「利益だけでなくリスクもあります。現時点では、どちらが上回るのかはわかりません」と語る。

リドアウト氏らの研究で確認したAI活用広告のうち、約45%に候補者の「実際の写真と見分けがつかないディープフェイク」が含まれていたという。

ワイズカップ氏も、今後の世論の動向が、AI広告の普及を妨げる可能性がある未知の要素の一つだと指摘する。

「もし世間がAIに反発するようになったら、広告業界のプロたちは、AIを広告の前面に打ち出すことにどれほど積極的になるでしょうか」と問いかける。

一方で、ワイズカップ氏はAIは「変革をもたらすテクノロジー」だと考えている。

制作予算が限られている広告ディレクターでも、ニューヨークの大手広告会社のような発想でアイデアを練り、今まではコストを理由に断念していた企画を実現できるようになるからだ。

ワイズカップ氏は、「責任と倫理を守って使用するのであれば、生成AIだけで制作する広告も認められるべき」と考えており、特に風刺やパロディーのためのツールとして有効だと主張する。

「ユーモアの要素がある方が、うまくいくと思います」と話すワイズカップ氏が紹介したのは、サウスカロライナ州知事選に立候補している共和党のアラン・ウィルソン州司法長官を支援するスーパーPAC(特別政治活動委員会)のために制作した30秒の広告だ。

「どっちのナンシーか当てて」と題されたこの広告は、共和党予備選挙の対立候補だったナンシー・メイス下院議員のリベラル寄りの言動を揶揄。

クイズ番組の出場者に、ある発言をしたのがメイス氏なのか、それとも民主党の重鎮であるナンシー・ペロシ下院議員なのかを出題し答えてもらう様子が描かれている。

実際に制作すれば10万ドル(約1570万円)はかかったであろう広告を、ワイズカップ氏はAIを使ってわずか6時間で制作したという。

「この広告でAIに注目して『ディープフェイクで何かを信じ込ませようとしている』と考える人はいないでしょう。単純に面白くて、気の利いた広告です」と語った。

AI広告、作り手のためらい

しかし、選挙広告でのディープフェイクの使用は「危険領域」だともワイズカップ氏は考えている。有権者が、強く拒絶することになる可能性が高いからだ。

一方、民主党側のフイン氏は、動画をすべて生成AIで制作することに対し、未だ慎重な姿勢をとっている。

「少なくとも私たちの側では、これまで存在しなかったものをAIで作り出すことに、多少のためらいがあると思います」と説明した。

これは、ウェズリアン・メディア・プロジェクトの調査で確認されたAI広告のうち、民主党が資金を提供していたものはわずか12%だったという結果とも一致する。

背景には、民主党の候補者の多くが、制限のないAIデータセンターの拡大に反対していることもあると考えられる。

フイン氏のチームもAIを色々試してみたものの、AI生成動画には「AIが生成したと感じさせる視覚的な特徴」があることが、活用を阻む原因になっているという。

また、フイン氏はAI広告が今後普及するかどうかにも、確信を持てないという。その理由として、AIスロップに対する社会の反応を挙げる。

「世間のAIに対する受け止め方は、非常に急速に変化してきました」

「たとえAIを使って素晴らしいものを作れたとしても、有権者に候補者への投票や、対立候補への不支持を訴えているということに変わりはありません。しかし今は、有権者の間でAIが非常に不人気です。そのためAIを使うべきかどうか確信が持てない状態です」

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