(CNN) フランスを襲う記録的な熱波で、屋外放牧の乳牛が暑さ関連のストレスにさらされている。
長引く干ばつで牧草地は青々とした生気を失い、黄色く乾き切った野原と化した。
厳しい規制の下でチーズ作りに取り組む酪農家も、不足する牧草を補うために追加飼料の購入を余儀なくされている。
ローラン・ルールさんは35年前から酪農とチーズ生産を営んできた。「かつては15~20年に一度、牧草がうまく育たないこともあった」と話す。「今では約1年おきになり、それがどんどん悪化している」
「今年はすでに5回も熱波に見舞われた。こんな気温は経験したことがない」と、ルールさんは語る。
仏気象当局によると、7月の気温は1900年の観測開始以来最も高く、降水量は3番目に少なかった。

今夏はサレールの生産者の多くが、生産停止を余儀なくされた/Hemis/Alamy Stock Photo
厳格な規制と過酷な気象条件
フランスではこの夏、相次ぐ熱波とそれに伴う干ばつで、生の牛乳を使用したセミハードタイプのチーズ「サレール」の生産者80カ所のうち4分の3以上が製造中止に追い込まれた。
フランス産チーズのうち、乳の生産から熟成までの全工程が同一の地域内で完結したことを保証する「原産地保護呼称(AOP)」の表示が認められているのは47種類。サレールはその一つだ。仏南東部オーベルニュ・ローヌアルプ地域圏のカンタル県で主に生産される。標高約800~1500メートルの火山性土壌を覆う草原に、牛が放牧されている。
サレールにも二つとして同じものはない。土地ごとの気候や土壌、地形などで構成される「テロワール」が、クルミやヘーゼルナッツ、青草から発酵クリーム、コショウのようなスパイス、玉ねぎの燻製(くんせい)やローストまで、それぞれに独特の風味を生み出す。
サレールは気候変動による打撃が最も大きいチーズの一つでもある。生産に厳しい規制がかけられているからだ。毎年4月15日から11月15日までの間に生草を主食とする放牧牛から搾られた乳を使うこと、補完飼料は乾物ベースで全体の25%以下に抑え、同じ地域の干し草や大麦、オーツ麦、トウモロコシなどに限ることが定められている。
ルールさんは今年、7月8日の時点でサレールの生産を断念し、似たような特徴を持つが規制の緩いセミハードチーズ「カンタル」にやむなく切り替えた。カンタルはサレールと違って通年で生産でき、生草と穀物や干し草、トウモロコシの比率もそれほど厳しく決まっていない。牛の放牧期間を年間120日以上とすることが主なルールだ。
AOP制度を管轄する政府機関の国立原産地・品質研究所(INAO)は先月、この夏の「歴史的な干ばつ」への対応として、一部のチーズ生産者への暫定的なルール改正を発表した。

一部のサレール生産者は、規定がより緩やかなセミハードチーズ「カンタル」に製造を切り替えている/imageBROKER.com/Alamy Stock Photo
フランスを代表するチーズのボーフォール、コンテ、アボンダンスについては、すでに牧草不足を補う飼料の割合を上げることや、指定されたエリア外から補完飼料を調達することが認められた。対象のチーズはさらに増える見通しだ。カンタル・チーズ業種間委員会のトップとして地元のチーズ生産者を代表するルールさんによると、生産者らはサレールへの規制に例外措置を求めることさえしなかった。生草の割合が50%を下回れば、サレールの名に「値する」チーズにはならないことを承知しているからだ。
一部のAOPチーズの生産者らは、何年も前からINAOに対し、気候変動の影響への対応として放牧期間、干し草や補完飼料の比率、エリア外からの飼料調達などの規制を恒久的に緩和するよう求めてきた。だが緩和への道のりは長く、完了までにはまだ何年もかかる可能性がある。
放牧期間の基準を短縮することで、生産されるチーズの品質や風味に影響はないのだろうか。
国立農業・食料・環境研究所(INRAE)が昨年実施した研究では、牛を4つのグループに分け、さまざまな干ばつの状況を再現するために生草に対する干し草とトウモロコシの割合を変えて4カ月間飼育。それぞれの乳をしぼってカンタルチーズを作り、実験室で分析したり消費者代表のグループに試食してもらったりした。
結果は明白だった。生草が大半を占めた牛の乳のほうが濃く、健康に良いオメガ3脂肪酸の含有量も多かった。さらに消費者からはチーズの味や香り、食感も良いと評価された。
INRAEは「生草を食べた牛のチーズのほうが柔らかくて黄色が濃く、香りも高い。牧草をほとんど、または全く食べない牛のチーズはそれより白っぽくて硬く、味がぼんやりしている」と指摘した。
チーズ業界からは規制緩和の影響を強く懸念する声が上がる一方で、オーベルニュ・ローヌアルプ地域圏のリヨンにあるチーズ専門店の4代目店主、クリスチャン・ジャニエさんは、平均的な消費者には違いが分からないだろうと話す。
「飼料が最終製品に大きく影響することは分かっているので、品質が少し落ちるのは避けられない。だがそれも結局のところ、一般消費者が気づくほどではないだろう」
サレールの生産量は年々減少

「コンテ」チーズの生産に使用されるモンベリアルド種の牛たち。コンテは、気候変動による負荷への対応として、生産要件の緩和が認められた数少ないチーズの一つ/Horacio Villalobos/Corbis/Getty Images
気候変動はチーズの品質に影響するだけでなく、フランスの酪農家の生活やチーズ作りの伝統を脅かしてもいる。
ルールさんによると、暑熱ストレスに苦しむ牛は乳量が10%減少する。干ばつが頻繁になって長期化した結果、放牧期間も約1カ月短縮している。
牛乳の生産量が減って供給が不足し、サレールの生産も2010年代初めの年間平均1500トンから現在は同1000トンまで落ち込んでいる。
酪農家は牧草が不足すると、冬のために備蓄している干し草に手をつけざるを得ない。ルールさんはこの夏、追加の飼料にすでに3万ユーロ(約540万円)近く費やしたという。
「意欲を失っている生産者もいる。市場シェアが下がり、経営を続けるのが難しくなっている」と、ルールさんは語る。
もう1人の生産者、ステファニー・ガルドさんも今年の干ばつでやむなく真夏にサレールの生産を断念し、収益性がそれほど高くないカンタルに切り替えた。昨年も似たような状況で、2万ユーロ(約360万円)の減収となっていた。ガルドさんによれば、カンタルの1キロ当たりの収益はサレールより約3ユーロ(約540円)少ないという。
ガルドさんはチーズ生産者となってからの9年間で、今年度の収支が最悪になると予想している。
「2年連続はきつい。今のところ、いつ終わるのかも分からない。トンネルの先に光は見えない」と、ガルドさんは話す。「これでは心が折れてしまう」
ほかのチーズにも同様の危機

南東部のオートサボワ県で生産されるセミハードチーズ「アボンダンス」/SIFA/Thuria/Semaphore/Madelon
度重なる熱波と干ばつで打撃を受けているのは、サレールやカンタルだけではない。南部アベロン県で生の羊乳から作られる青かびチーズ「ロックフォート」や、南東部オートサボア県のセミハードチーズ「アボンダンス」など、ほかにもAOPの放牧基準を満たすのが難しくなっているとされるチーズがいくつもある。
エミリー・ジャコさんと夫、子ども2人の一家は毎年、夏になると50頭の乳牛をアルプスの町アヌシーに近い標高約1500メートルの山に移動させ、オーガニックのアボンダンス作りも丸ごと引っ越して、3カ月間山小屋で暮らす。
いつもは暖を取るために山小屋のまきストーブをつけるが、今年はその必要がなかった。初めてのことだという。
秋から春まで過ごす下の谷では、気候変動の影響で気温の変化が激しくなり、1日のうちにマイナス5度から25度の幅で上下することもあると、ジャコさんは話す。
チーズの品質への影響

クリスチャン・ジャニエさんは、南東部オーベルニュ・ローヌアルプ地域圏のリヨンで活躍する4代目のチーズ販売業者/Hemis/Alamy Stock Photo
チーズもワインと同様、年によって出来が違う。その要因は暑さや干ばつだけではないと、ジャニエさんは指摘する。
気候変動の影響で雨も激しさを増している。牛が雨でびしょ濡れの牧草を食べると、乳の水分量が増し、たんぱく質の含有量は少なくなる。このような乳で作ったチーズは熟成のスピードが速くなり、不快な刺激臭を放ったりアンモニアのような味になったりすることがある。
ジャニエさんは、自分がチーズ製造用タンクで生まれ、血管には牛乳が流れていると笑う。高度な技術を持つ職人に授与されるフランス最高峰の称号、国家最優秀職人章も受章している。フランスのチーズは近年、大量生産などの影響で「標準化」していると嘆く。
「ひどいチーズは減ったが、真に素晴らしいチーズも少なくなった」
だが気候変動が業界を圧迫するなかで、AOPが高品質のチーズを見分ける確かな方法であることに変わりはないという。
ジャニエさんは「AOPの認証マークがあれば、食感や香り、風味のさまざまな審査に合格したことがすぐに分かる」と強調した。

3 時間前
1









English (US) ·
Japanese (JP) ·