「火星の月」のなぞに迫る 日本主導で探査機打ち上げ

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2026.10.23 Fri posted at 12:31 JST

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火星を周回するなぞ多き衛星、フォボス(中央)とダイモス/NASA

火星を周回するなぞ多き衛星、フォボス(中央)とダイモス/NASA

(CNN) 火星の衛星をめぐるなぞの解明に向けて、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)が主導する火星衛星探査計画「MMX」の探査機が打ち上げられた。

火星は多くのなぞに包まれているが、MMXは特に大きななぞとして、火星を周回する二つの衛星、「フォボス」と「ダイモス」に焦点を合わせる。そこからさらに、初期の火星に関する手がかりがつかめることも期待される。

MMXに参加するNASAジェット推進研究所のアビゲイル・フリーマン氏は、ジャガイモのような形をした二つの衛星を「スペース・ポテト」と呼び、「その正体は今も説明がつかない。あるはずがないのに存在している」「ものすごく風変わりで、ものすごく小さく、ものすごく不可解だ」と話す。

MMXの探査機は日本時間の20日午前4時41分、鹿児島県にある種子島宇宙センターの吉信(よしのぶ)射場から、日本の基幹ロケット「H3」で打ち上げられた。フォボスで10グラム以上の砂を採取し、帰還する計画だ。

サンプルに火星由来の破片が含まれていて、それを中国の探査機より先に地球へ届けることができれば、火星の物質を持ち帰った史上初の例となる。

MMXの探査機は往路、探査、復路という3基のモジュールで構成される/JAXA
MMXの探査機は往路、探査、復路という3基のモジュールで構成される/JAXA

神秘の衛星への着陸計画

火星を周回する二つの衛星は、1877年に米国の天文学者アサフ・ホール氏が発見した。同氏はこの二つに、火星(Mars)という名の由来となったローマ神話の軍神マルスの息子たち、フォボス(恐れ)とダイモス(おののき)にちなんだ名前をつけた。

フォボスは100年ごとに約1.8メートルずつ火星に近づいている。今後約5000万年のうちには火星に衝突するか、砕け散って火星を周回する輪になると予想される。最も目立つ地形は直径約9.7メートルのクレーター「スティックニー」で、表面の半分ほどを占めている。これまでに衝突した何千個もの隕石(いんせき)によるくぼみも残っている。

フォボスの表面の半分ほどを占めるクレーター「スティックニー」/HiRISE/MRO/LPL (U. Arizona)/NASA
フォボスの表面の半分ほどを占めるクレーター「スティックニー」/HiRISE/MRO/LPL (U. Arizona)/NASA

一方、火星からもう少し離れたダイモスは、さらに少しずつ遠ざかっている。表面はフォボスよりなめらかだが、やはり巨大なくぼみがあり、厚いちりの層に覆われている。

二つの衛星が火星の周りを回るようになった経緯については、主に二つの仮説がある。一つは、火星に大きな天体が衝突し、飛び散った岩石質の物質が集まってフォボスとダイモスができたという説。もう一つは、小惑星が火星に近づきすぎて、その重力に捕まったという説だ。

フリーマン氏は「どちらの説に対してもうまく一致するデータがない」と説明し、MMXではいずれかの仮説を裏づけるデータ、あるいはまったく異なるシナリオを明らかにするデータが得られるかもしれないと期待を寄せた。

MMXのミッションは二つの衛星のうち、大きいほうのフォボスに重点を置くが、その過程でダイモスの画像も撮影し、両者の類似点、相違点を把握できるようにする。

フォボスを観測するMMXのイメージ図/JAXA
フォボスを観測するMMXのイメージ図/JAXA

MMXの探査機は往路、探査、復路という3基のモジュールで構成され、独航空宇宙センター(DLR)と仏国立宇宙研究センター(CNES)が開発した小型ローバー「IDEFIX(イデフィックス)」を搭載。1年かけて火星に到達し、約3年にわたってフォボスを周回する。

MMXからフォボス表面に投下される予定の小型ローバー「IDEFIX(イデフィックス)」/DLR
MMXからフォボス表面に投下される予定の小型ローバー「IDEFIX(イデフィックス)」/DLR

探査モジュールはさまざまな装置を使って地形や鉱物の分布、化学組成、宇宙放射線などのデータを収集する。2台のスーパーハイビジョンカメラで4K、8Kの高精細画像も撮影する。

まず29年初めにIDEFIXを着陸させ、この観測結果を基に、探査機本体が直接サンプルを採取する場所を決定する。

フォボス表面に投下されるIDEFIXを描写したアニメーション/German Aerospace Center/DLR

IDEFIXは約40~100メートルの高さからフォボス表面に投下される。フォボスは重力が小さいため落下の衝撃は少なく、機体はバウンドした後で脚を伸ばす

そして脚の先についた車輪と太陽光パネルを展開した後、自力で立ち上がり、100日間のミッションに取りかかる。ビール箱くらいの大きさのIDEFIXは重さ約25キロだが、低重力のフォボスでは15グラムほどになる。

IDEFIXの観測結果を基に、探査機本体が直接サンプルを採取する場所を決定する/German Aerospace Center/DLR

サンプル採取には二つの方式を使う。深さ2センチまで掘って筒の中にサンプルを保管する「コアリング方式」と、ガスを噴射して舞い上がった表土を回収する「ニューマチック方式」だ。

サンプルを採取した後は再び軌道に戻り、ダイモスを観測してから30年には帰還の途に就く。

このミッションに10年前から取り組んでいるJAXA宇宙科学研究所の臼井寛裕教授によれば、MMXの成果は将来の有人火星探査にも役立つ可能性がある。

火星の秘密を解き明かす

サンプルが地球に届くまでの間も、MMX探査機に搭載されているガンマ線・中性子線分光計「MEGANE」などの装置からリアルタイムで初期データが送られてくる。

例えばMEGANEでは、フォボスとダイモスに含まれる水素やナトリウム、塩素などの揮発性元素を測定できる。MEGANEの主任研究者、米ジョンズ・ホプキンス大学応用物理研究所のデービッド・ローレンス氏によると、元素組成を測定すれば、起源をめぐるいずれかの仮説を裏づける手がかりが得られる可能性もある。

「巨大衝突があると物質が高温になり、揮発性元素は失われる」と、ローレンス氏は説明する。「これに対して、多くの小惑星には揮発性元素が豊富に存在している」

フリーマン氏は、MEGANEのデータとMMX赤外線分光計(MIRS)の観測結果を組み合わせた分析に取り組む予定だ。MIRSは近赤外光帯を使ってフォボスの鉱物や有機物、水に関連する物質を測定する。

MMXのデータから、火星の過去について知られざる一面があらわになる可能性もある。

「フォボスが火星から飛び散って集まった破片で構成されているとしたら、火星の組成や初期の様子についても重要な手がかりがつかめるかもしれない」と、フリーマン氏は語る。

たとえフォボスに火星からの破片が含まれず、小惑星が火星の重力に引き寄せられたシナリオだとしても、水のように不安定な物質を太陽系の縁から火星の近くまで運ぶ担い手になったと考えれば、やはり興味深いという。

MMXのミッションに参加している米航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙飛行センターのダニエル・グラビン氏によると、フォボスやダイモスに水や有機物が豊富にあるとすれば、そこから火星で生命が誕生した可能性もある。

グラビン氏は「私が特に関心を持っているのは、生命の起源だ。私たちは孤独なのか。火星でも生命は誕生したのか」と語る。同氏のチームは、たんぱく質を構成するアミノ酸などに注目する構えだ。

フォボスとダイモスは何十億年も前から、火星の歴史を見守ってきたと考えられる。火星に近いフォボスは、火星の薄い大気から放出された物質を受け止める「ちりとり」の役割を果たしてきた。

MMXのほかにも、中国の火星探査機「天問3号」が28年に打ち上げられ、火星で直接サンプルを採取して、同じく31年に帰還する計画だ。

グラビン氏は「30年代初めには、火星のなぞを解く当たり年が来るかもしれない」と語った。

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