最近の子どもは『ドパガキ』化?脳科学者に聞いた。「映画も倍速」「間奏に耐えられない」を防ぐ方法も

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最近、SNSなどでよく見かける「ドパガキ」「アドガキ」「ドパ中」といった言葉。短い動画やゲームなど、すぐに得られる刺激を求める子どもや若年層を揶揄する文脈で使われるネット上の俗称だ。

「ドパガキ」の「ドパ」は、報酬への期待や学習に関わる脳内の神経伝達物質・ドーパミンを指す。ただし、これらはいずれも医学・心理学の正式用語ではない。

SNSやゲームなどとの付き合い方をめぐり、子どもが待ち時間や刺激の少ない時間を苦手にしているのではないかと心配する声もある。

こうした環境は、子どもの脳や行動にどのような影響を与えうるのか。子どもを育てる保護者の体験を聞いた。

「飛ばせないの?」CM中にタブレットを探す小5

家庭では、どのような場面があるのか。

現在、小学生2人を育てる男性(40代・映像プロデューサー)に話を聞くと、「小5の娘は、家族でテレビ番組を見ている時、CMに切り替わった途端に『CM飛ばせないの?』と言い、飛ばせないことがわかるとすぐにタブレットを手に取りショート動画を見始めてしまいます」と話す。

音楽を聴く場合も同じだといい、「車で昔の歌をかけると、前奏や間奏を飛ばそうとするんです。学校でも少しの退屈な時間を我慢できず、別の興味を探しているのではないかと心配しています」と不安げな表情を浮かべる。

また、同じく2人の小学生を育てる女性(40代・事務)は、「小2の息子は、タブレットでオンラインゲームプラットフォーム『Roblox』内のゲームをしている間、周囲の声が聞こえなくなるほど集中しています。一方、勉強となると全く集中できていない。もしかしたら幼少期からタブレットを与えていた影響なのかもしれない……と思うと、親として反省してしまいます」と話す。

なお、英語圏では、短い動画を次々に視聴することと集中のしづらさを結びつけて語る際、「TikTok Brain」という表現が使われることがある。これも医学・心理学の正式用語ではないが、こうした懸念は日本語圏に限られたものではないようだ。

「ドーパミン優先」、問題点は?

「ドパガキ」と呼ばれるような行動を、脳科学の観点ではどう捉えることができるのか。脳科学者の恩蔵絢子さんに聞いた。

──「ドパガキ」という言葉をSNSでみることが増えていますが、そのようなことは実際に脳で起こっているのでしょうか?

ドーパミンが出ると、脳の中では「強化学習」が起こります。ドーパミンが出る前にやっていた行動を強化する、もっとやりたくなる、という「ドーパミン優先」の状態です。

例えば、Xで何かを投稿したら、たまたま「いいね」がたくさんもらえた際にも起こります。人から認められるというのは、通常あまり起こらないことであり、それが起こることは、脳にとってとても嬉しいことです。このように“もらえるかもらえないかわからない報酬”は、ドーパミン系を強く活性化させることが知られています。

そうしてドーパミンが出ると、強化学習が起こって、もっと投稿をして「いいね」を欲しいと思うようになり、どんどんハマっていく、というわけです。

──SNSなどで「ドパガキ」という言葉が広まり、多くの人が共感や揶揄、あるいは自虐的に使っている現象を、どのように見ていますか?

問題なのは、最近ではSNSに面白いものが豊富にあり、自分の努力なしに、意外な報酬が手に入ることです。

「こんなものに出会えた! 面白い!」とドーパミンが出ると、もっとそれを見たい、それを見ずにはいられないという気持ちになります。実際、次々に意外なものに出会えてしまい、人によってはなかなかやめられなくなったり、長時間使い続けたりすることがあります。

ひとつのコンテンツに夢中になっても、次々と別のものに出会える環境であると、待つことが苦手になったり、注意力が散漫になったりする可能性があると言われています。

また、“生きていく力”を身につけるためには、必ずしも人には認めてもらえない中で、こつこつ努力していくことが必要になると思います。しかし、「人に認めてもらおう」ということばかり気にかけるようになったり、面倒なことをしなくても面白いものに出会えると思って、自分が変わる努力をしなかったりするのなら、その人はもしかしたら、面白い刺激に囲まれている一方で、虚しい気持ちを抱えてしまうかもしれません。

──最近の若年層は、「映画を倍速で見る」「CMが待てない」「歌の前奏や間奏を退屈に感じる」といった傾向が強いという意見もあります。脳の発達段階にある若年層は、大人に比べてこうした状態に陥りやすいのでしょうか?

待つことや集中力に関係する脳の司令塔のひとつに「前頭葉」があります。前頭葉は思春期から青年期にかけて大きく発達する部位で、衝動を抑えたり、長期的な目標のために努力したりすることに関わっています。

一方で、若い人たちは好奇心が旺盛で、新しい刺激や報酬に強く反応しやすい時期でもあります。そのため、次々に新しい情報や刺激が手に入る環境では、大人以上にその影響を受けやすい可能性があります。

ただし、映像を倍速にすることで「前頭葉の発達が遅れる」といったことがはっきり証明されているわけではありません。重要なのは、短時間で得られる刺激だけでなく、じっくり考えたり、待ったり、試行錯誤したりする経験も同時に持てるかどうかだと思います。

沈黙に耐えられなくなるのは「もったいない」

──ショート動画など、短時間で次々に刺激を得られるコンテンツを長時間利用すると、子どもの能力にどのような影響が懸念されますか?

すぐに評価が得られる刺激ばかりを優先していると、時間をかけて取り組む学習や創造的な活動に向き合うことが難しくなる場合があります。

人間の学習はとても面白く、例えば外国語などを勉強する際、勉強しても勉強しても成果が現れない「サイレント・ピリオド」という時期があることが知られています。

だから本人は、「どうしてこんなに勉強しても、できるようにならないのだろう? 成績も上がらないし、無駄だ、もうやめてしまおうかな」と思ってしまうことがあります。

しかし、そのようにまったく目には見えない中でも、脳は確実に変化しています。ある時、突然「あれ? なんで英語が急にわかるようになったんだろう?」「なんで、しゃべれているのだろう?」というように成果が現れることがあり、その前の沈黙の時間が「サイレント・ピリオド」です。

そのため、すぐさま評価が得られなければダメ、ということはありません。そのような沈黙に耐えられなくなることは、本当は身につけられるはずの能力を身につけずに終わってしまい、もったいないことになります。

脳が本当に変わるためには、成果が見えない時間に耐えたり、じっくり待ったりすることがどうしても必要になるのですが、最近では退屈や不快感というものは、あってはいけないもののように考えられているところがあります。

何もしていない時間があってはいけない、常に「いいね」がもらえていなければいけない、ということはありません。本当は何もしていないような成果が出ない時間がとても大切ですし、他人から「いいね」がもらえなくても、その人自身が素晴らしいということが前提になってほしいです。

──子どもが「ドーパミン優先」の状態にならないよう、家や学校でできることはありますか?

スクリーンから離れる時間を取ることですね。逆に言えば、「この時間だけはSNSを見ていいよ」というふうに時間を区切って、自分にストップがかけられるようにします。これが、集中力や物事を切り替えるための前頭葉の訓練になるでしょう。

そして、現実世界で“ゆっくりとした変化”が起きたときに「本当にうれしい」と感じられるように、その子が努力をした時は、周囲がたくさん褒めてあげてほしいと思います。

恩蔵絢子(おんぞう・あやこ)
1979年、神奈川県生まれ。脳科学者。東京大学大学院総合文化研究科特任研究員。金城学院大学、早稲田大学、日本女子大学非常勤講師。訳書に『ドーパミン中毒』(新潮社)、著書に『感情労働の未来ーー脳はなぜ見えない”他者の心”を推しはかるのか?』(河出書房新社)など。

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