時空の組変わりとはどんな現象なのか?
手放したリンゴは、足もとへ落ちます。当たり前すぎて、誰も疑いません。
けれども、その「下」は、まわりの時空のゆがみ方が決めているにすぎません。
そしてこのゆがみには、磁石のまわりの磁力線のように、何本もの「筋」(重力の線)が走っています。
先にも触れたように今回の研究は、この筋のつながり方が「切れて組み替わりうる」ことを、アインシュタインの方程式の上で示しました。
組み替わる場所では、1本につながっていた筋が途中で切れ、隣の筋と結び直されます。
すると
リンゴの「下」を決めていた時空のゆがみそのものが、そこで組み替わる
のです。
時空の組み換えで何が起こるか? / 日常的な感覚で「下」が変ることを描いた模式図。時空のゆがみを膜の高低で表しています。紫の線は、ゆがみの等高線にあたる重力の線で、「下」は線を横切る下り坂の向きです。リンゴは床の上で動きません。まわりのゆがみ方が変わると、リンゴを通る線(濃い紫)はまん中で相手の線(中くらいの紫)とX字に出合い、つなぐ相手を替えます。それにつれて「下」の矢印が、手前向きから右向きへ変わっていきます。/Credit:川勝康弘組み替わったあとのゆがみに合わせて、リンゴの「下」も別の向きを指すようになります。
さらに重力の筋が組み替わる場所では、重力の側から物質へエネルギーが渡ります。
もしその瞬間にリンゴが居合わせたら、ただ落ちるだけでなく、組み替えで渡されたエネルギーに突き動かされることになります。
いったい何がどう切れると、こんなことが起こるのでしょうか?
その鍵となるのは、意外にも磁石でした。
太陽フレアは、切れないはずの磁力線が切れることで起きる
「重力の線が切れて、つなぎ直される」あるいは「時空の歪みのつながりが組変わる」さらには「重力の側から物質へエネルギーが渡る」という理論を理解するには、身近な磁石が参考になります。
たとえば棒磁石の上に紙を置いて砂鉄をまくと、きれいな弧を描く線が浮かび上がります。
砂鉄の一粒一粒が小さな方位磁針のようになり、その場所で磁石の力が向いている方向にそろうためです。
磁力線は、磁石の力の向きをつないだ線 / 赤い側がN極、灰青の側がS極です。線の上を流れるしまは、N極から出てS極へ戻る磁力線の向きを表します。右の方位磁針は、赤い先が磁石の力の向きを指しています。/ Credit:川勝康弘こうした向きを順につないでいった線を「磁力線」と呼びます。
本物の方位磁針をたくさん並べても、針の向きがつながって同じ形の線が見えてきます。
この線そのものは実在する何かの存在(系)ではありません。
実際、砂鉄をまき直すたびに線の位置は異なります。
ですが磁石の力がどこからどこへつながっているかを一目で教えてくれます。
そして意外なことに、目に見えないこの線が、太陽では大爆発を引き起こします。
黒点のあたりが突然まぶしく輝き、数分から数時間のうちに莫大なエネルギーを吐き出すのです。
これが「太陽フレア」です。
太陽フレアは、黒点の上空で起きる大爆発 / 橙色の弧が太陽の表面で、2つの黒点を結ぶ青い線の束が磁力線です。束のてっぺんの朱の星が線のつなぎ替わる場所で、そのまわりで明滅する金色の光が、エネルギーの放たれる様子を表します。/ Credit:川勝康弘「太陽フレア」では強い光やX線が一気に放たれ、大きなものでは、100メガトン級の水素爆弾数百万個分ものエネルギーに達します。
地球に届いたX線が上空の大気の状態を変え、無線通信が乱れることもあります。
これほどのエネルギーを、磁力線はどうやってため込めるのでしょうか?
鍵を握るのは、「プラズマ」と呼ばれる状態の物質です。
固体・液体・気体、そしてプラズマ / 左から右へ温度が上がるにつれて、粒の動きが激しくなります。プラズマのコマでは、プラスの印の粒(電子がはがれた原子)とマイナスの印の小さな粒(電子)が別々に飛び回り、軽い電子のほうが速く動きます。/ Credit:川勝康弘気体をとても高い温度まで熱すると、原子から電子がはがれ、プラスやマイナスの電気を帯びた粒がばらばらに飛び交う状態になります。
これがプラズマで、固体・液体・気体に続く物質の第4の状態とも呼ばれます。
身近なところでは、雷やオーロラもプラズマです。
太陽は、まるごとこのプラズマでできているのです。
プラズマの粒は電気を帯びているので、磁力線を横切って進むのが苦手です。
線に巻きつくようにらせんを描きながら、線に沿う向きにしか自由に進めません。
そのため、太陽のプラズマと磁力線は離れられず、ひとかたまりになって動きます。
太陽の表面から噴き上がったプラズマが、磁力線のループに沿って弧を描くように流れるのも、このためです。
磁力線はふだん、こうしてプラズマに縫いつけられたように動き、勝手には切れません。
線がプラズマの中に凍りついたかのようなこの性質は、「磁場の凍結」と呼ばれます。
磁力線は、プラズマと一緒に動く(磁場の凍結) / 灰色の矢印はプラズマの流れで、長いほど速く流れています。右のコマでは、まっすぐだった線が茶色のプラズマの粒を乗せたまま引きずられて曲がり、それにつれて、線にたまっていくエネルギーを表す金色の光が濃くなっていきます。/ Credit:川勝康弘しかし太陽の表面近くのプラズマは、沸き立つ湯のように絶えずかき回されています。
プラズマが動けば、くっついている磁力線も一緒に引き伸ばされ、ねじられていきます。
線は切れないので、ねじれはほどけません。
ゴムを引き伸ばすほどゴムにエネルギーがたまるように、プラズマが線を引っ張った分のエネルギーが、磁力線にたまっていくのです。
ところが、向きが反対の磁力線どうしが、プラズマの動きで押しつけ合う場所があります。
押しつけ合った線は、溶け合って1本になるわけではありません。
ひずみがたまり、限界をこえると、線はそこで切れて、向かい合っていた相手とつなぎ替わります。
これが「磁気再結合」です。
磁気再結合の流れ / 金色の帯は、線にたまったエネルギーです。水色の矢印は線を押すプラズマの流れで、つなぎ替わると、つながりはAとC、BとDになります。/ Credit:川勝康弘つなぎ替わった瞬間、ため込まれていたエネルギーが周りの粒子へどっと移り、粒子を熱し、加速します。
この一気のエネルギー解放が、太陽フレアの正体です。
地球の電子機器にまで影響を与える太陽フレアには、なんとなく太陽表面の巨大爆発というイメージがあります。
けれども中身は火薬の爆発とは違います。
磁力線のつなぎ替えが、ただでさえ熱いプラズマをさらに熱し、猛スピードで飛ばすというのがフレアの本体です。
しかも磁気再結合は、太陽だけの出来事ではありません。
磁気再結合が起きている3つの場所 / 地球のまわりの図では、青緑の玉が地球、緑の輪が両極のまわりに出るオーロラです。核融合の図は、ドーナツ形の装置を斜め上から見たところで、桃色の輪が閉じ込められたプラズマです。/ Credit:川勝康弘地球でも、太陽から吹き出す粒子の風(太陽風)に引き伸ばされた地球の磁力線が、夜側でつなぎ替わります。
そこで解き放たれたエネルギーが粒子を極地の上空へ送り込み、オーロラを一気に明るく輝かせるのです。
暴力的な爆発と美しいオーロラが、同じ原理で動いているわけです。
高温のプラズマを磁場で閉じ込める核融合の実験装置でも、磁力線のつなぎ替えが起きて閉じ込めの形が崩れ、せっかく熱したプラズマが逃げてしまうことがあります。
線のつながりが変わるだけで、ため込まれていたエネルギーが周りの粒子へ一気に移る。
目に見えない線は、こうして物質にエネルギーを渡せるのです。
では、重力にも、こうした「線」はあるのでしょうか。
あるとすれば、そのつなぎ替えは、物質にエネルギーを渡すのでしょうか。






English (US) ·
Japanese (JP) ·