日本にとっては大きな岐路に。トランプと習近平“会談成功”の先に見えてきた「AI米中同盟」という新時代

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およそ9年ぶりにトランプ大統領が北京を訪問する形で行われた米中首脳会談。2大国のトップによる協議を経て見え始めたのは、国際社会の新たな力学でした。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では作家で米国在住の冷泉彰彦さんが、会談後の市場の反応や米中関係の変化を詳細に分析。さらにAI開発における「競争と共存」という米中間の新たな枠組みと、日本が直面しかねない大きな岐路を考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:米中会談のメインはAIにおける共存と競争

「AI米中同盟」も視野に?トランプ・習近平会談のメイン

米中首脳会談が終わりました。現地の2026年5月14日から15日にかけて行われた会談は、重要な部分については腹芸のような曖昧さを残したという印象です。ですが、両首脳がこれだけ親密さをアピールしたこと、米国市場が極めてプラスの反応をしたことを考えれば結果は明らかだと思います。このコラムとして「答え合わせ」をするのであれば、

  • イランと台湾は何も動かない:基本的にはその通り。だが、ホルムズ海峡開通へ向けてのメッセージが出たこと、台湾問題について米側から軟化メッセージが出たのは予想外
  • 経済改善へ向けた通商は再開:ほぼ全面的にそうなった。具体的な部分は関係各所の大人の事情があるのか曖昧だったが、それも含めて前向き
  • AIについては米中提携になる:ほぼ全面的にそうなった。競争と共存へ向けて具体的な動きもあった

ということで、限りなく<シナリオC>に近い結果となりました。

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さて、とにかく会談は成功ということで、例えば、NY市場としては、通商戦争はほぼ終結し、個別の米中取引も進展を見たとして現地14日は大幅に上げています。時差の関係で中国からは半日遅れとなるNYでは、14日の木曜日までに会談の大勢が見えていたこともあり、ダウは5万ドルに迫るかどうかという高値圏が終日続来ました。

それにしても、両首脳の個人的な関係が、かつてないほどに改善されたわけで、この演出は大きかったと思います。この後、習近平夫妻のホワイトハウスへの招待があり、またAPECとG20もあるということで、2026年は米中イヤーと言っても良いようなムードが確立したように思います。ということは、両国が再び関税戦争に陥る可能性は、限りなくゼロになったとも言えるでしょう。

個別の取引については、さすがに、会談の現場では「ディール」とはなりませんでした。お互いにメンツがあるために明確な成果は示されなかったとか、いくらなんでも具体的な商談はコンプラに引っかかるということもあります。ですが、具体的な結果は後追いで少しずつ出ていくような気配もあり、ボーイング、ビザ、アップル、テスラなどは確実に中国におけるビジネス拡大に歩みを進めることができたと思われます。

ただ、大豆と牛肉など農産物に関しては、さすがに関税戦争への対応に中国が苦労したこともあり、食べ物の恨みが残っていたのか進展はなかったようです。あるいは、トランプ政権そのものが農業を理解しておらず、米農家の多くが自分たちに反対したことを根に持っていたのかもしれません。とりあえず、この点だけについては、「ディール不成立」だったことで、中西部の選挙に悪影響があるかもしれないと言われています。

その一方で、NY市場は、その翌日の現地15日(金)には反落しました。これは、米国債の金利が更に上昇し、債券安となったことを嫌ったものという説明がされています。米中会談が成功という印象が広まったわけですが、その翌日には大きく下げたということには、金融、財政に関する危機意識は強く市場にはあるということだと思います。

米中が「合意しなくてはならなかった」ウラ事情

この点に関しては、日本も深い関係があります。日本国債もこの間、ほぼ今世紀としては「未体験ゾーン」となるような下げを見せています。日米連係が機能しているのか、今のところは円は158円で踏みとどまっていますが、円と日本国債については依然として危機が継続していると見るべきでしょう。

さて、米中会談の市場への影響の話に戻るとしましょう。この点に関して言えば、会談の好感触を受けての14日(木)の上げと、債券下落を嫌った15日(金)の下げというのは、セットで考えるべきと思います。14日に上げたけれども、15日には帳消しになったという解釈も出来ますが、それは違うように思います。裏返してみると、15日に下げたというマイナスのエネルギーは最初からあり、だからこそ米中は合意しなくてはならなかったのです。そして合意が見えた14日にはその分は上げたというロジックです。

米市場のセンチメントは非常に複雑です。とにかく、景気後退への懸念は明確にあります。とりわけインフレ下の雇用低迷という「スタグフレーション」懸念はかなり濃厚です。財政も怖いですし、「日本発の債務爆弾の連鎖」などという予測をする輩もゾロゾロいます。そんなNY市場では、少しでもマイナスの材料があれば株は売られてしまうのです。そう考えると、15日に下げるようなエネルギーがあるということは、そのこと自体が米中合意を強く後押ししたと考えられます。

さて、時間を少し先へ進めましょう。米中会談について、一旦多くの投資家が受け止める時間を経た後の週明けのNY市場は落ち着いた動きで終始しています。実は、この動きは米中通商合意による実体経済の改善というテーマとは少し違っています。そうではなくて、AIに関する動きを好感したものだとされています。

とりあえず、注目されているのはAIに使用するGPUメーカーであるNVIDIAです。同社のファンCEOは、今回のトランプ訪中に同行していました。当面の焦点は、最先端の半導体の一つであるH(ホッパー)200というモデルについてです。既に次世代のブラックウェルが実用化されつつありますが、依然としてホッパーの特に200というグレードはAIの演算における主力半導体です。

ちなみに、どうして演算にGPU(画像処理プロセッサ)が使われるのかというと、CPUに比べて並列計算能力が高い設計だからです。GPUはそもそも、ゲームなどの動画、画像処理のために設計されており、それが一時期は「暗号資産のマイニング」に使わたりもしていましたが、今はAIの主力というわけです。さて、このホッパー200ですが、当初アメリカは安全保障の懸念から中国への禁輸をしていました。

そうなのですが、別に安全保障上の問題はないという理解に変わって、輸出規制を緩和しようとしたら、今度は中国側から独自開発するので購入はしないと言ってきたのでした。この点に関しては、実はNVIDIAという企業は設計は自分たちでするのですが、大量生産は台湾のTSMCに委嘱しています。これに対して、中国側はナノレベルの製造技術で対抗するのが国策。そこで自国生産にこだわったようです。

これに対して、ファン氏は改めて中国に購入を促すセールスの旅という位置づけでした。結局、会談期間中はH200の扱いについては明確な発表はなかったのですが、市場は前向きな感触を材料にしています。今週半ばに、NVIDIAの決算発表があるのですが、その直前のタイミングで買いのトレンドが出てきているのには、H200の商談がまとまる可能性を感じてのことです。

トランプに同行したイーロン・マスクが得た成果

同じくトランプ氏に同行したイーロン・マスク氏については、「コミュ障なのでパーティーでも孤食」などという写真が出回っていましたが、やはり訪中の成果はあったと見られています。訪中から戻った週明け、全米注目の「スペースX」上場問題については、上場審査プロセスが前倒しで動いており、6月上旬に上場という見通しが固まったという報道がありました。日付も出ており、

  • 売出価格決定:6月11日(木)、NASDAQ取引開始:6月12日(金)

というスケジュールとなっています。仮に5月20日までに申請が完了した場合ですが、恐らくそのように進むと見られています。そのうえで、今のところは、

  1. 調達額は75ビリオン(12兆円弱)が目標で史上最大
  2. NASDAQ上場が確定で、ティッカーはSPCX
  3. 上場直前に5対1の株式分割の模様
  4. 上場直前の6月4日の週に企業広告の大キャンペーン展開予定

ということです。上場後の時価総額は、「GAFAM」クラスが新たに誕生する規模だという大型上場になります。そして、この種の大型株の場合は、初値を持ち上げるのに成功しても、一旦は売りが先行して大きく下げるのが通例です。その上場後の下げ圧力も折り込みつつ、とにかくこの上場を成功させるというのが、現在のアメリカ市場の最大の関心事だと言えるでしょう。

では、この「SPCX上場」と米中会談の関係はというと、やはり「SPCXというのは、単なるロケット会社ではない」ということだと思います。というよりも、ハッキリ申し上げて「AI企業の一つ」だと言って良いように思います。なぜならば、SPCXを構成する中には「xAi」社も入っているからですが、それだけではありません。

一つの可能性として、「SPCXの上場はまずまず成功したが、その後の市場環境は悪化、実体経済も悪化」という場合には、あとに続く「OpenAI」と「Anthropic」の上場には赤信号が点灯するかもしれません。その場合に、仮に、この両者のどちらかに、何か問題があって企業価値が下がった、そんな展開があると、SPCXはAIの雄を買収しにかかるかもしれません。

この辺りの駆け引きは、動くカネも大きいですし、そもそも政権中枢の人材でハンドリングできる質量を越えてしまっている話でもあります。ですから、どうなるのか、投資家も必死に勉強してついていくしかないのが現状です。

そうではあるのですが、今回の米中会談においては、どう考えてもAI時代の幕開けということを再確認していると言えると思います。AIの開発競争においては中国とアメリカの2強が、提携する部分は提携し、競う部分は競いながら進む、そのような時代が来たのです。

ちなみに、現地18日には、イーロン・マスク氏の「敗訴」というニュースが流れました。これはマスク氏の側が提訴していたもので、「OpenAI社は公益目的が大きく、営利活動には馴染まない」という主張を訴訟で表現したものです。提訴の当初は話題にもなり、マスク氏もアルトマン氏も法廷証言で対決したりしていたのですが、その後はお互い関心は薄くなっていたようです。

結果的には、今回陪審によって提訴は却下されたのですが、誰も驚いてはいません。これで、「SPCX」に続いて「OpenAI」の上場も加速するという見方もあります。同時にAPCXが展開によっては「OpenAI」を買うということも、あり得るでしょう。つまり、AIは人類共有の財産だから非営利にというような、「マスク氏の過去の思いつき」は自他ともに否定されたのです。

会談で提案された「米中の共存と競争」という枠組み

さて、その「OpenAI」は少し前に「ChatGPT5.5」を発表しています。これには色々なバージョンがあるのですが、セキュリティの脆弱性をサーチする機能に特化した版もあります。その性能はライバルであるAnthropic社の「Mythos」に迫るもののようです。以前、Mythosで右往左往していても、どんどんライバルが出てくると申し上げたのですが、既に現実にそうなってきています。

いずれにしても、このAIにおける米中の共存と競争という新たな関係性を定義したのが、今回の米中会談の最大の影響になるかもしれません。中国では特にアリババ、テンセントといった巨大企業集団がAIへの投資を加速しつつあります。権威主義国家では、知的活動そのものに関わるAIはどうしても国策に深く絡んで来そうですが、今回の流れはそれでも米中が共存しつつ競争という枠組みが提案されたのです。これが回りだせば双方にもメリットが出てくる、という認識がその前提になっています。

こうした問題は、やがてクワンタム・コンピュータが本格的に実用化した場合には、また次元の違う話になると思います。ですが、その前の段階では、今のようにAIを開発し続けるのであれば、やがて電力や水資源、排熱などの問題で、物理的な限界が来てしまいます。そうならないように、フルセットで両国が競うのではなく、お互いに先へ進んだ部分を是々非々で共有するという発想は必要かもしれません。

とりあえず、米国側としてはAi3社の大型上場を成功させたいし、中国はこれによる米側の開発加速に「絡む」ことで遅れを回避したいのでしょう。仮にそこまで踏み込んだ、AI米中同盟というのが、見えてくるようですと日本にとっては大きな岐路となるに違いありません。

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