HIVが「一生モノ」であり続けてきた理由
HIVが「一生モノ」であり続けてきた理由 / Credit:Canva . 川勝康弘風邪もインフルエンザも、しばらく寝ていれば治ります。
ところがHIVは、一度感染すると生涯にわたって薬を飲み続けなければならない——この認識は、40年以上たった今も医学的に正しいままです。
その重みは、生まれたばかりの子どもに最も強くのしかかります。
世界では毎年12万人以上の子どもがHIVに感染しており、無治療のまま放置された場合、1歳を迎える前に半数が命を落とします。
裏を返せば、生き延びられるかどうかは「薬が届く場所に生まれたか」「一生分の薬を買い続けられるか」という条件に左右されているということです。
HIVは今なお、世界で年間およそ60万人の死因となっています。
では、そもそもなぜ薬をやめられないのでしょうか。
その原因は、HIVが持つ厄介な性質にあります。
HIVは感染したごく初期に、免疫細胞のDNAの中に自分の遺伝情報をこっそり書き込んでしまいます。
いわば本体を捨ててDNAの文字列になってしまうわけです。
SFの世界などではしばしば「実体のない情報だけの存在」が最も手ごわい敵として描かれますが、DNA上の情報となってしまったHIVも免疫や薬にとってみれば同じような見えない厄介な相手と言えるでしょう。
この状態のウイルスは、増殖を止める薬にとっても、パトロールする免疫にとっても、事実上「見えない」存在になります。
増えていないものは薬で止められず、暴れていないものは免疫に見つかりません。
だからこそ薬を飲んでいる間は血液からウイルスが検出されなくなる一方で、服薬をやめれば、隠れ家から目覚めたウイルスが再び全身に広がっていくのです。
逆に言えば、隠れ家がまだできあがっていない「感染直後」をうまく叩ければ、根治の道が開ける可能性があります。
感染から24〜30時間以内であれば、ウイルスを直接つかまえる中和抗体(広域中和抗体)を打つだけで、体内からウイルスを追い出せることが以前の研究でわかっていました。
今回の研究チームは、この猶予をもう少し延ばせないかと考えます。
48時間まで待ってから抗体を打ったところ、6頭中5頭でウイルスは消えました。
ここまでは、抗体1つでも勝てるのです。
ところが感染から72時間後になると、この効果は大きく低下します。
感染から72時間という時点は、ウイルスが血液から全身の組織へと運ばれている最中にあたります。
血液中のウイルスの量は、まだピークにも達していません。
それなのに、リンパ節や腸への拡散はもう始まっているのです。
獲物が全身に散らばり始めた後では、抗体だけでは手が足りなくなるタイミングでした。
そして人間の場合、生まれた赤ちゃんが感染しているかどうかの確定には時間がかかります。
48時間という窓は、現実の医療現場にはあまりに狭すぎるのです。
「手遅れ」とされてきた72時間という壁を、どうすれば打ち破れるのか。
OHSUの研究チームが選んだ戦略は、異なる仕組みを持つ3つの治療で同時に攻める「挟み撃ち」でした。
実験には、サルにも感染するよう作り替えられた「HIVの分身」というべきウイルスが用意されました。
表面はHIVと同じ部品でできており、サルの体内でヒトのHIV感染をほぼ忠実に再現します。
結果、感染から72時間後に3つの治療薬を与えられた8頭において、体内のHIVは姿を消しました。
HIVの場合、薬をやめれば隠れ家からウイルスが目覚め、数週間から数か月のうちに血液中へ戻ってきますが、8頭では1年以上が過ぎても、ウイルスは一度も現れませんでした。
さらに感染から1年半以上が過ぎた時点で、全身15種類の組織を調べても、ウイルスの遺伝情報は一切検出されなかったのです。






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