「交尾後メスに食べられる」セアカゴケグモの奇妙な行動は、遺伝的には意外と単純だった

7 時間前 1

なぜオスは「食べられる」のに逃げないのか?

セアカゴケグモの交尾は、私たちが普通に想像する繁殖行動とはかなり違っています。

オスは交尾して精子を送り込んでいる最中に、腹部を大きく持ち上げて反転する「交尾宙返り」を行います。

その結果、腹部の後方がメスの口元へ運ばれ、メスがオスを噛み、食べてしまうのです。

普通に考えれば、これは生存本能に逆らうような奇妙な行動に見えます。

オスは生き残れば、別のメスと交尾できる可能性があるのだから、他の繁殖の機会を捨てて、わざわざ最初の交尾で死を選ぶ意味はよくわかりません。

しかしセアカゴケグモのオスにとって、「ここで逃げて、次のメスを探せばいい」という選択肢は、それほど有望ではありません。

過去の野外研究では、セアカゴケグモのオスの80%以上は交尾相手となるメスを見つける前に死亡しており、彼らが一生のうちに期待できる交尾の機会は平均1回未満と推定されています。

つまり、セアカゴケグモのオスにとっては、ようやく見つけた1匹のメスとの交尾からできるだけ多くの子を残すことが、結果として自分の遺伝子を次世代へ残しやすい状況にあるのです。

とはいえ、なぜわざわざ食べられるのか、というのは不思議な点ですが、これまでの研究によると共食いが起きた場合に交尾時間が伸びることが明らかになっています。

実際観察によると、共食いされたオスでは交尾時間の中央値が25分だったのに対し、共食いがなかった場合は11分でした。

なぜ共食いで交尾時間が伸びるのかはよくわかっていませんが、メスが交尾中にオスの腹部を噛み、食べることに夢中になっている間、交尾が中断されにくくなるのではないかと考えられています。

さらに共食いには、もう1つ大きな利点があります。

最初のオスを食べたメスは、その後に現れた別のオスとの交尾を拒みやすくなるのです。過去の実験では、最初のオスを食べたメスの67%が次のオスを拒んだのに対し、食べなかった場合はわずか4%のメスしか新しいオスを拒みませんでした。(なぜこうなるのかはよくわかっていません)

つまりオスにとって交尾中に共食いされることは、交尾時間の延長と、その後に別のオスに割り込まれる可能性まで低くなるという2つの繁殖上の利益があるようなのです。

さらに興味深いのは、セアカゴケグモのオスが単純に「死ぬことを受け入れている」わけでもないことです。

オスは交尾前の求愛中から、腹部の中央付近を強くくびれさせる「腹部収縮」という行動を起こします。

メスは交尾の際、主にこのくびれより後ろ側の腹部を噛みます。過去の実験では、同じようにくびれの後ろ側に人工的な傷つけたオスは生存期間が伸びることが確認されています。

なぜ腹部収縮によって生存期間が伸びるのかは完全には分かっていませんが、傷を負った後も体の前方に必要な体液圧を保ったり、重要な器官を傷つきにくい前方へ寄せたりしている可能性が考えられています。

いずれにせよ、セアカゴケグモのオスはひっくり返って牙の前に腹部を差し出すという自分が食べられるような行動を取りつつ、延命行動も同時に取っているのです。

この理由は、交尾時間を長く保つためだと考えられます。

セアカゴケグモのメスには精子を保存する器官が2つあり、オスは2回に分けて交尾することで、その両方に精子を送り込むことができます。

そのためオスは二回戦を終えるまで死なないために、腹部収縮という延命処置をしていると考えられるのです。

つまりセアカゴケグモのオスはメスに噛まれやすい姿勢を取りながら、同時に、2回の交尾を完了する前に死なないための性質まで備えているのです。

生存本能というと単純に生き延びるための本能と捉える人が多いかも知れませんが、生物学的には繁殖の機会をより多く得るため行動と解釈できます。

その意味で言うと、セアカゴケグモのオスはちゃんと生存本能も働かせていると言えるでしょう。

では、この非常に複雑な自己犠牲を伴う交尾行動は、どのようにして進化したのでしょうか?

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