「検知する手段も警報を出す時間もなかった」――。
8月26日にネパールと中国チベット自治区の国境地帯で発生した土石流では、これまで1300人以上の死亡が確認され、5000人以上の行方がわからなくなっている。
衛星画像などによる分析から、今回の土石流は、ランタン・リルン山の標高約5200メートル地点で起きた、氷河と岩盤の崩落が起点になっていると考えられている。
また調査からは、土石流は予想をはるかに超える規模とスピードで、街や村を襲ったことがわかっている。
ネパール環境学会の調査によると、崩落した氷と岩石の塊は、わずか7分余りで約22キロ離れた国境検問所に到達。その速さは平均時速167キロだったという。
さらに、土石流は岩や土砂、川の水などを巻き込みながら川沿いの集落に大きなダメージを与え、約100キロ下流まで一気に流れ下ったと考えられている。
ネパールではこれまでもたびたび洪水が起きてきた。しかしシャハ首相を含め、現地からはこれまでに見たことのないほどの規模だったという声が上がっている。
ヒマラヤ地域の国際組織「国際総合山岳開発センター(ICIMOD)」の上級氷圏専門家ファルーク・アザム博士は、「検知する手段がなく、警報を出す時間もなかった」と述べている。

Anadolu via Getty Images
地球温暖化は影響した?
激甚化しているだけではなく、予測不可能になっている自然災害。
今回の壊滅的な土石流を引き起こした氷河と岩盤の崩落は、地球温暖化の影響を受けて起きたのだろうか。
それを解明するには、温暖化が、特定の災害や異常気象にどれほど影響したかを分析する「イベント・アトリビューション」という手法が取られる。
今回の土石流では、現時点でイベント・アトリビューションの結果はまだ出ていないため、詳しい因果関係は今後明らかになると考えられている。
ただし、ヒマラヤ地域ではこれまでずっと、氷河が急速なスピードで解けていて、洪水を含めた大きな災害が起こりうると何度も警告されてきた。
氷河が解けている
コロンビア大学の研究者は2019年に発表した調査で、ヒマラヤの氷河は今世紀以降2倍のスピードで解けていると報告。この調査では、過去40年間で氷の4分の1以上が失われたことも明らかになった。
国際総合山岳開発センターも2023年の報告書で、「現在のレベルで温室効果ガスの排出が続けば、ヒンドゥークシュ・ヒマラヤ地域の氷河は今世紀末までに最大80%が失われる可能性がある」と警鐘を鳴らしている。
さらにこの報告書には「今後数十年間で、洪水や地滑りが増加する可能性が高まっている」とも書かれている。

kitz-travellers via Getty Images
洪水だけではない
国連も、これまで何度も地球温暖化で氷河が危機的な状況だと訴えてきた。
国連のグテーレス事務総長は2023年に「ネパールではわずか30年余りで氷の約3分の1を失った。南極とグリーンランドでは毎年、数十億トンもの氷が失われている。氷河が解けることで、洪水が起き、地域全体を消失させる」と語る動画を公開している。
氷河融解が引き起こすのは土石流や洪水だけではない。水不足や干ばつも起きると予想されている。
国際総合山岳開発センターによると、ヒンドゥークシュ・ヒマラヤ地域の氷河の融解が加速すれば、この地域の水資源は21世紀半ばにピークを迎え、その後は減少に転じると予測されている。
グテーレス事務総長も2023年の動画で「氷河が解けると土砂災害や洪水が起きるだけではなく、インダス川、ガンジス川、ブラマプトラ川といったヒマラヤの主要河川の水の量が大幅に減少し、洪水、干ばつ、地滑りが加速する可能性が高まる」と警鐘を鳴らしている。
他にも、種の減少や絶滅、生き物が標高の高い地域に移動するなど、生態系に大きな影響が出るだろうと予測されている。
問われる責任
ネパールは、世界の中でも特に気候変動の影響を受けやすい国の一つだ。
今回の大規模土石流が起きた後、ネパールの政治家からは温室効果ガスを多く排出してきた国に対する責任を問う声が上がっている。
さらにネパール政府は今回の土石流被害をめぐり、気候変動で生じた悪影響を経済的に支援する国連の「損失と損害(ロス&ダメージ)基金」に2000万ドル(約30億円)の支援を要請している。
日本も二酸化炭素排出量では世界上位で、2022年の統計では世界で5番目に排出量の多い国だった。
今回を含め、今後地球温暖化による被害が増えれば、ますます責任を問われるようになる可能性は高い。
氷河の減少はすべての人に影響する
氷河の融解は、ヒマラヤだけの問題ではない。南極や北極でも、氷が急速なスピードで減少している。
2023年に出されたドイツ・ハンブルク大学の気候科学者らによる研究では、最悪のシナリオとして、早ければ2030年代〜2050年代にも、9月に北極の海に浮かぶ「海氷」がほぼすべてなくなる最初の年が来ると予測されている。
北極や南極、ヒマラヤは、日本に暮らす私たちから距離は離れているが、氷河の融解は無関係とはいえない。
南極の氷が解けてなくなると海面が上昇し、標高が低い場所が浸水する可能性がある。
また、氷の表面は白く明るいため太陽からの余分な熱を宇宙空間へ反射し、地球をより涼しく保つ効果がある。
その海氷が解けて減ってしまえば、地球が太陽の熱をより吸収して、北極や地球全体の温暖化がさらに加速してしまうと考えられている。
地球温暖化による氷河の融解を食い止めるためには何ができるのか。また、日本にある氷河は温暖化の影響を受けているのか。
サステナビリティや気候変動について取り上げるハフポスト日本版の動画シリーズ「Earth Talk」で語った。動画はこちらから。

4 時間前
2








English (US) ·
Japanese (JP) ·