
巨額の設備投資に見合う収益が得られるのかという疑念が広がり、先行きへの警戒感が強まるアメリカのAI産業。その一方で、11月の中間選挙後にはトランプ大統領に対する弾劾捜査が本格化し、政治の停滞を招く可能性も懸念されています。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では作家で米国在住の冷泉彰彦さんが、AI関連企業の上場難航やノンバンク融資の変調から金融市場に危機が波及するシナリオを分析。さらに民主党によるトランプ氏への追及が長期化した場合の影響を検討し、経済と政治の危機が重なることで生じる深刻なリスクを指摘しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:AIバブルと政治の陰鬱な物語が重なる可能性
アメリカを待ち受ける危機。AIバブルと政治の陰鬱な物語が重なる可能性
この2026年は、ここへ来て、AIブームの持続性が本格的に問われる年になりました。AI関連の設備投資は依然として巨額ですが、その資金を誰がどのように出しているのか、投資に見合う収益は本当に生まれるのかという疑問が、市場で日増しに大きくなっています。
そんな中で、懸念されるのは一つのシナリオです。「AI投資過剰への不安」「AI企業の大型上場の難航」「ノンバンク融資(プライベートクレジット)の行き詰まり」「SpaceX株の下落」という4つの要素が連鎖するという可能性は否定できません。その場合に、株式市場の暴落に至るとして、リーマンショック級よりインパクトは軽微かもしれませんが、ITバブル崩壊より深刻となる可能性はあります。
今回は、この「AIバブル崩壊」というシナリオに、全く別の政治危機、つまり「弾劾捜査による政治停滞」という危機が重なる可能性を考えてみたいと思います。
まず、第一の「AIバブル崩壊」ですが、そのシナリオの前提となる現状を確認しておくことにしましょう。
危険要素の1つ目は市場の極端な集中です。S&P500に占める上位10銘柄の比率は約35%と、ドットコムバブル頂点時の約25%を上回り、過去1年の米国株の上昇の約8割をAI関連企業が占めたとされます。AIという一つの物語が崩れれば、指数全体が大きく揺らぐ構造です。AI依存の大きさ、依存率の高さの双方共に、十分に「綱渡り構造」になっています。
2つ目はSpaceXです。同社は史上最大のIPOとして、6月に1株135ドルで上場し、ティッカーSPCXでナスダックでの取引を開始しました。しかし熱狂は長続きせず、株価は6月16日に225.64ドルの上場来高値をつけた後、7月23日には110.85ドルまで下落しました。ロックアップ解除、つまり社内関係者のよる株売却により、約9億1,150万株、当時の株価で約1,100億ドル相当が売却可能になることも重荷となってきました。
ロックアップの解除はもう数回の山があり、年内に残り2回あり、最後は27年半ばに大きな山が来るようです。つまり、内部関係者からの売り圧力が当面続くのです。ここへ来て、テスラとの合併という噂も出てきていますが、これも内部からの放出を前提として、どうしても株価を維持したいという動機があるのでしょう。
3つ目はAI企業の上場の難航です。OpenAIは当初2026年中の上場を視野に入れていましたが、9月中旬に、年内の上場は行わないと表明しました。アルトマンCEOは1兆ドルを下回る評価額を拒んでいると報じられ、2026年第1四半期には売上高57億ドルに対し37億ドルの資金を燃やしたとされています。
一方のアンソロピック社は、ここへ来てようやく正式な上場申請書を提出しました。その中では、先行投資モードがこの先も続く、つまりは赤字体質が継続することも、巨額投資を続けることも宣言しています。このアンソロピックの上場は、もう数ヶ月は早い日程で進められると見られていましたが、夏より様々な意味で厳しい環境となった10月末の今になって、申請に漕ぎつけています。
多くの市場関係者は、この上場が成功するかどうかは、投資家のAIへの意欲を測る重要なテストになるとしています。投資家が引き続きAI相場に対して「強気」で乗っていくのか、慎重になるのか、あるいは「降りる」のかが試されるというわけです。
AI関連企業の資金繰り悪化から市場暴落に至る5段階のシナリオ
4点目はノンバンク融資の変調です。プライベートクレジットではローンのデフォルト(支払い不履行)が2021年以来の高水準に達し、リターンも低下していると報じられています。債券ディーラーのPIMCOはデフォルトのサイクルが再来しているとし、レバレッジドローンや直接融資での損失拡大を予想しています。さらに10月には、データセンター向けの債務が債券化されて市場で売られ続けているという報道も出るようになっています。
さて、これらの4つの要素が悪い方向に噛み合った場合、次のような連鎖を想定することが可能です。
第1ステップ:出口の行き詰まり。AI企業や関連スタートアップに出資してきた投資家は、上場(IPO)で資金を回収することを前提にしていました。SpaceXの公開後の株価低迷とOpenAIの上場延期によって「上場すれば高値で売れる」という期待が崩れると、未上場株の評価額は見直しを迫られます。新規の資金調達は難しくなり、赤字を出しながら成長するAI企業は資金繰りに窮し始めます。
第2ステップ:ノンバンク融資の目詰まり。データセンター建設の資金は、銀行よりもプライベートクレジットに大きく依存しています。モルガン・スタンレーは、2028年までのデータセンター建設に必要な1.5兆ドルの半分以上をプライベートクレジットが供給し得ると推計しています。
ところが、2026年に米国で稼働予定のデータセンター容量のうち、30~50%が遅延や中止に直面すると見込まれています。建設が遅れれば賃料収入が入らず、借り手の返済が滞ります。ファンドには解約請求が集中し、流動性の低い資産を投げ売りせざるを得なくなる可能性があります。
第3ステップ:担保価値の連鎖的下落。データセンター融資の担保にはGPUなどの先端部品が含まれますが、技術の陳腐化は速く、評価額が下がる可能性があります。現在、AI関連の投資ということでは、データセンターABS(Asset Backed Securities:資産担保証券)、直接融資ファンド、投資適格社債などに分散するのが流行しています。
このような分散投資をしている投資家は、それぞれ無相関の資産を持っていると考えがちですが、実際にはすべてAI需要という同じリスクにつながっています。分散投資のつもりが、一斉に値下がりするわけです。
第4ステップ:シリコンバレー大手の設備投資削減。資金調達コストの上昇とAI収益化の遅れを受けて、大手テック企業の一社が設備投資の大幅削減を発表したとします。これが引き金となり、半導体、電力、データセンター関連株が一斉に売られる可能性はあります。SpaceXもAIデータセンター構想を掲げ、AI企業を傘下に収めているため、AI銘柄として売られる側に回ります。
第5ステップ:市場全体への波及。指数がAI関連銘柄に集中しているため、これらの下落はそのまま指数を押し下げます。年金や保険会社はプライベートクレジットの評価損を抱え、リスク資産全体を圧縮します。個人投資家の追い証や投資信託の解約も重なり、30%を超える下落、すなわち「暴落」に至る、というのがこのシナリオの全体像です。
「一気の崩壊」よりも起こりやすい長期低迷という消耗戦
では、こうした悲観シナリオが主流かというと、勿論、現時点で暴落が起きていないということは、メジャーではありません。多数派の態度としては、この種の悲観シナリオがそのままの形で今後12か月以内に実現する確率は15%前後、より緩やかな20%程度の調整(弱気相場入り)にとどまる確率は30%程度という辺りが感触になっているようです。
この15%から30%の悲観論というのは、ハードランディング的なショックが起こる可能性です。そうではないとして、最も起こりやすいのは「一気の崩壊」ではなく、「AI関連銘柄の長期低迷と、ノンバンク融資の損失がじわじわ表面化する消耗戦」だという考え方もあります。
仮に、崩壊がゆっくり進むとして、このシナリオで重要なのは、個々の出来事よりも「要素の連環」になります。IPO市場、ノンバンク融資、データセンター、AI株は、すべてAIが将来大きな利益を生むという一つの前提でつながっています。
その前提が揺らいだとき、どこから崩れ始めるかを見極めるには、アンソロピックなど大型AI企業の上場動向、テスラとの合併話を含むSpaceX株の行く末。そして、プライベートクレジットの解約・デフォルト状況、更には大手テック企業の設備投資計画が急停車するかどうか、の3つを注視する必要がありそうです。
さて、ここまでの金融に関するシナリオは、多くの投資家、アナリストが言い始めていることですので、驚くには値しません。また、様々な意味で国際金融市場はこうした危機を織り込んでいるとも言えるでしょう。明るい話ではありませんが、直視すべき現実に違いはありません。
問題は、この憂鬱なストーリーが、もう一つの暗い話に重なっていくということです。それは、中間選挙によって選ばれる新議会による大統領弾劾という問題です。
現時点ではかなり濃厚になっているのですが、民主党が下院を奪還した場合、2027年1月の新議会開会後に大規模な調査が始まる可能性は高いです。その一方、弾劾訴追の票決は早くても2027年夏以降、上院での有罪評決(罷免)は現時点の政治力学では相当に困難と言われています。
11月3日の中間選挙を約1週間後に控え、各種予測は民主党の下院奪還を有力視しています。予測市場Kalshi(予測ギャンブルのアプリ)では10月16日時点で民主党の下院獲得確率が90%、上院獲得確率が63%とされています。中道的とされる、Cook Political Reportは10月9日時点で民主党の下院議席を224~234議席と見込んでいます(Action Network)。ただし上院については予測が分かれており、共和党が多数を維持するとの見方もまだまだ残っています。
ここからは、民主党が下院(場合によっては上院も)で多数派となったことを前提に(1)調査対象となりうる疑惑、(2)調査から弾劾票決までに要する時間、(3)上院共和党の動向と有罪評決の可能性、の3点を整理します。
米国憲法上の弾劾は二段階です。下院が単純過半数で弾劾条項(訴追状)を可決すると大統領は「弾劾訴追」された状態となり、上院が裁判を開いて出席議員の3分の2以上(全員出席なら67票)が有罪とした場合に罷免されます。トランプ氏は第1期に2019年(ウクライナ疑惑)と2021年(連邦議会襲撃事件)の2回訴追され、いずれも上院で無罪となりました。
トランプ弾劾に慎重な民主党が準備する大規模な調査計画
民主党指導部の姿勢は弾劾が「排除もしないが、前提にもしない」というものです。下院議長就任が有力視される(但し左派の反発で混乱の可能性もゼロではない)ハキーム・ジェフリーズ下院院内総務は、弾劾について「何も排除せず、何も確定していない」言っています。
弾劾について慎重な姿勢の背景には、過去2回の弾劾が罷免に至らず、むしろ支持層の結束を強めたという党内の反省があるようです。トランプ氏自身も1月の共和党議員会合などで「中間選挙に負ければ弾劾される」と繰り返し訴え、共和党は弾劾の脅威を投票動員の材料にしています。
一方で党内の突き上げも強まっています。第2期に入ってからアル・グリーン議員らが繰り返し弾劾決議を提出しましたが、2025年6月のイラン攻撃を理由とする決議は344対79で棚上げされ、民主党議員128人が棚上げに賛成しました。AP通信は、第3の大統領弾劾はかつてほどの政治的価値を持たず、民主党はむしろ閣僚の弾劾に焦点を当てる可能性が高いと分析しています。その場合は、まずはヘグセス国防長官を追及する可能性が高いでしょう。
さて、仮に弾劾を進めるとした場合、何が「容疑」になるか、これは具体的には見えてきています。民主党が調査の柱に据えるのは「トランプ一族の利益相反・汚職」で、弾劾条項に発展しうるのは「権力の乱用」「戦争権限の侵害」「議会妨害」の3類型と考えられています。
AP通信によれば、民主党は監督・政府改革、司法、外交、天然資源など複数の委員会にまたがる大規模な調査計画を準備しており、多数派になれば予算・スタッフの拡充と召喚状(サピーナ)発行権を得ます(PBS/AP)。主な疑惑と担当が見込まれる委員会は次のとおりです。
■「一族の蓄財・利益相反について」
2025年1月の再就任以降の一族の資産急増、暗号資産事業、鉱物取引への関与、カタールからの航空機受領について。
担当:下院監督委+天然資源委
■「司法省の政治利用」
コミー元FBI長官、レティシア・ジェームズNY州司法長官らへの訴追を「報復的」とする疑い
担当:司法委
■「エプスタイン文書の扱い」
司法省が文書の一部を意図的に公開しなかった疑い
担当:監督委
■「移民取締り(ICE)」
抗議活動中の死亡事案や遠隔国への強制送還に伴う人権侵害の疑い
担当:監督委、司法委
「対外軍事行動」
■イラン戦争、ベネズエラでの軍事行動・麻薬船攻撃・石油開発をめぐる民間企業との提携
担当:外交委
■「虚栄プロジェクト」
ホワイトハウス東棟の取り壊しと舞踏場建設、凱旋門構想、建国250周年行事の民間資金
担当:天然資源委、監督委
■「利益相反・汚職」
ジェフリーズ院内総務は、国民から「盗んだ」者の責任を問うと述べ、汚職追及を前面に出しています(PBS/AP)。民主党は暗号資産をめぐる一族の関与について、上下両院の主要委員会で調査を本格化させる構えです(Bloomberg Law)。ロイター報道では、民主党はすでに関連企業や請負業者に記録の提出を求め、召喚状の下準備を進めているとされます(Washington Examiner)。憲法の報酬条項(外国からの利益受領の禁止)違反は第1期でも弾劾条項案に盛り込まれた論点で、今回も最も立件しやすい分野の一つとみられます。
担当:というわけで各主要委員会の総動員になるでしょう
このようにリストアップすると、かなりのボリュームになることがわかります。トランプ政権は相当に行き詰まっており、とにかく憲政の基盤を揺がしたのだから、弾劾罷免が民意かもしれません。ですが、問題は、これだけのボリュームがあると、手間ひまがかかるということです。
「トランプ憎し」だけで団結する民主党が抱える深刻な分裂
調査の積み上げを優先する民主党の方針を前提にすると、下院での弾劾票決は早くても2027年夏から秋、上院の裁判を含めた決着は2027年末から2028年初めと見込まれます。新議会(第120議会)の開会は2027年1月3日で、それまでは共和党が下院を握るため、レームダック期間中に弾劾が動く余地はほぼありません。
したがって、2027年1~3月の新議会発足に伴っては、体制づくりの時期になります。委員長の就任、委員会規則と予算の採択、スタッフの増員を行います。その上で、政権幹部への召喚状が出ることになります。
次に、2027年春~夏になると、調査と公聴会が開催されます。文書請求や証人喚問が「これでもか」と重ねられるはずです。政権が召喚状に応じなければ、議会侮辱決議や裁判で争うことになり、ここが最大の時間的ボトルネックです。第1期では元大統領法律顧問への召喚状をめぐる訴訟が2年近く続いた例があります。
その上で、2027年夏~秋には、正式な弾劾調査の開始判断 証拠が整い、世論の支持が見込める段階で、本会議の決議により正式な弾劾調査に移行するかを判断します。ちなみに、2028年の大統領選挙は予備選が2028年初めに始まるため、弾劾の手続きが選挙年に食い込むほど「選挙妨害」との批判を招きやすくなります。
私が一番恐れているのは、このような「ダラダラと大統領弾劾捜査が続く」という期間に、「ダラダラと、AIバブル崩壊の懸念が先送られる」期間が重なっていくという構図です。2つの陰鬱なストーリーが進行するだけではなく、重なることで「いつでもクラッシュ」する可能性と隣り合わせになる、これが恐ろしいのです。
本当は、悪材料がどんどん出て共和党からの大量造反を誘発して、大統領を早期に弾劾もしくは辞任に追い込むシナリオが動けばいいのだと思います。その上で、比較的普通で21世紀という時代にフィットしたヴァンス政権と、民主党が格差、軍事外交、AIなどについて建設的な論戦をするようになればと思います。そうなれば、2028年の選挙も意味のあるものになるでしょう。
ですが、問題はトランプ陣営が「粘る」ということではないのだと思います。民主党はトランプ憎しというエモーションで団結し、恐らく来週の中間選挙では有利な戦いをするでしょう。ですが、その組織は「トランプ憎し」という情念で団結している「だけ」なのです。
本当にAIや物価、あるいは格差に関する政策論に進むのであれば、恐らく対トランプ氏よりも民主党の左右対立の方が激しいものとなるでしょう。そして、その党内対立を先送りするためにも、弾劾というプロセスに「専念」したいという政治的な動機がある、これが現在の民主党です。
国民が最も求めている「AI」「格差」「物価」というリアルな問題について、党内が「真っ二つに分裂」している、これが現時点での民主党です。その分裂を隠し、先送りするために「トランプ弾劾」を「やるしかない」というわけです。
もしかしたら、問題解決を減速することで危機が深刻化するということでは、この民主党の分裂という点もカウントすべきかもしれません。つまり、「AIバブル崩壊の先送り」「時間をかけたトランプ弾劾捜査」「28年大統領選を前にした民主党の党内抗争」という3つが重なって推移するということです。
これは、最も陰鬱なシナリオと言えるでしょうし、もしかしたら避ける方法はないのかもしれません。
image by: The White House - Home | Facebook
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