『コンとアンジ』(筑摩書房) - 著者: 井鯉 こま - 陣野 俊史による書評

5 ヶ月前 53
コンとアンジ
『コンとアンジ』(筑摩書房)著者:井鯉 こま

誘い込まれる独特の語り

『こちらあみ子』や『さようなら、オレンジ』といった話題作を、太宰治賞は送り出してきた。新しい、第30回太宰治賞の本作も、そうした系譜に属するように思う。
いわゆる「現代日本文学」とはあまり関係なさそうな文体と内容だ。

18歳の娘コンが主人公。異国で洗濯女に騙(だま)され、無一文になる。何とか窮地を脱すべく辿(たど)りついたのが、外国人居留区の「マソン商会」という貿易会社だった。

通じない意志。カタコトの言語によるコミュニケーション。会社のオーナーのマソンがコンのことを「小僧」と勘違いしたことから、主人公は性と年齢を偽って生活する。そのうち先輩の「アンジ」と仲良くなって……妊娠、と話は続いていく。

何より文体がいい。

冒頭はこうだ。

おっぱいは、意のまま。出ろ出ろ、と胸中心底念ずれば出る出ると聞いて。
句読点を多用した独特の語りに誘い込まれるように読む。

コンとアンジはどこへたどり着いたのか。彼らの未来は? 何も明かされないが、その不確かさの中にこの小説の美質があるように思った。気になる才能がまた一つ。
【初出メディア】
日本経済新聞 2014年11月26日

http://www.nikkei.com/
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