イラン和平成立で中間選挙がトランプ有利に?米国が陥りかねない“前例なき混乱”と世界が警戒すべき“最悪のシナリオ”

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イラン和平報道をきっかけに大きく動き始めた原油価格と世界の株式市場。中東情勢のみにとどまらず、米国内の政治日程や金融マーケットの思惑も絡む中、その行き先を占うことは容易ではありません。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では作家で米国在住の冷泉彰彦さんが、イラン和平を巡る今後の展開を考察。さらに中間選挙までのアメリカ政治と市場の行方について、詳細にシミュレーションしています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:イラン和平をめぐる政治的効果を考える

考えうる「3つの流れ」。イラン和平をめぐる政治的効果

イランと米国が和平合意に達したとか、本稿の時点ではデジタル署名が完了しているなどといった報道があります。また、これを受けて高市政権の周辺からは、ホルムズ海峡における掃海活動の可能性が議論されているとも聞きます。とにかく、合意の内容も真偽もわからない現時点では、事実関係への論評は難しいのが現状です。

そうではあるのですが、2026年の世界経済とアメリカ政治を考える上では、「イラン和平」「株価テコ入れ」「中間選挙」という3つの要素は、何らかの形で密接に結びつく、こう考えることはできます。特にアメリカでは、外交、安全保障、金融市場、選挙が相互に影響を与えるため、これらがどの順番で起きるかによって結果は大きく変わります。

これから中間選挙までの5ヶ月間、アメリカの社会、経済、政局はどう展開してゆくのか、それ以前の問題として、今回の和平合意報道を、とりあえずどう受け止めるのか、これは簡単ではありません。とりあえず、イランとの停戦合意やホルムズ海峡再開への期待から、原油価格が下落し、世界の株式市場が上昇する動きが見られています。

非常に動きの激しい現状ではありますが、今後の展開をどう予想するのか、とりあえず今回は向こう5ヶ月間という時間軸に関して「どう考え、どう見通すか」の思考シミュレーションをしておきたいと思います。

まず、頭の体操として、三つの要素がどの順番で起きるのか、その組み合わせパターンについて考察したいと思います。

(1)イラン和平 → 株価テコ入れ → 中間選挙

これは話としては、一番理解しやすい流れだと思います。

イランとの和平が成立すると、中東情勢の緊張が和らぎます。ホルムズ海峡の正常化によって原油供給への不安が後退し、原油価格は下落しやすくなります。実際に、今回の和平合意報道を受けて原油価格が急落し、株価指数先物は大幅上昇しました。

原油価格の低下はガソリン価格の低下につながり、インフレ圧力を弱めます。インフレが落ち着けば、中央銀行による利下げ期待も高まり、株式市場に追い風となります。と言いますか、本稿の時点では株式市場はしっかり反応しており、前週末に上場して派手な上げを演じたスペースX株(SPCX)は本稿時点では185ドルと前週末比で15%も上げています。当然予想された「利食い圧力」を跳ね返しているのです。

全くの仮の話ですが、このように「イラン和平」が「株価テコ入れ」という結果になれば、回り回って有権者の生活実感が改善するでしょう。従って、中間選挙では政権与党に有利に働く可能性があります。アメリカでは、そもそもトランプ時代のはるか前から「経済は選挙を左右する」という傾向が強く、ガソリン価格や株価は政治的な意味を持ちます。

ただし、このシナリオにも勿論、弱点があります。和平が一時的な停戦に過ぎず、核問題や制裁解除が未解決であるため、再び緊張が高まる可能性があります。市場が「和平は本物ではない」と判断すれば、選挙前に逆風へ転じる危険も残ります。

可能性として検討しておくべき「残り2つ」の流れ

(2)株価テコ入れ → イラン和平 → 中間選挙

この流れというのも、可能性としては検討しておいたほうが良さそうです。政権が金融政策や財政政策、あるいは市場へのメッセージを通じて、まず金融市場の安定化を図る場合です。市場が落ち着いている間に外交交渉を進め、選挙前に和平を実現するという流れです。

実際、市場は将来を先読みするため、「和平が近い」と判断した段階で株価が先に上昇することがあります。市場参加者は結果そのものより期待を織り込むからです。

その後に正式な和平が成立すれば、「外交成功」と「株高」の二重効果が生じ、中間選挙に有利に働く可能性があります。しかし、この順番にはリスクもあります。もし和平交渉が失敗すれば、市場は失望売りに転じます。期待で上昇した株価ほど、失望時の下落も大きくなりやすいのです。

しかし、よく考えてみると、今回起きているのはこの流れだということも言えそうです。つまり、12日の金曜日にスペースXの上場が成功しました。成功するためには、市場が元気である必要があり、市場としてはテコ入れがされていたわけです。そのうえで、12日には上場が大成功となり、これを受けて株を下げないで、更に上昇させるために、週末には対イラン合意というカードを切ったのかもしれません。

(3)株価テコ入れ → 中間選挙 → イラン和平

これは一見すると、短期的政治優先のシナリオです。選挙前に何とか市場を支え、中間選挙を乗り切った後で本格的な外交解決を図る形です。

冷静に考えると、この場合、選挙期間中は中東リスクが残ったままとなります。何らかの軍事衝突や海峡封鎖が起これば、原油価格が急騰し、市場安定策は一瞬で吹き飛ぶ恐れがあります。ホルムズ海峡は世界の石油輸送の重要拠点であり、その混乱は世界経済全体へ波及します。

ですから、選挙後に向けて中東における外交問題を先送りするのは高リスクな賭けといえます。その一方で、トランプ政権としては、「戦時」という緊張感、そして戦争遂行時の大統領による指揮権行使が続いている状態は、選挙の際にも効果的と踏んでいるかもしれません。つまり、選挙に勝たないと和平ができないということではないのです。

そうではなくて、選挙の時点では和平が不成立で、紛争が継続している、その方が政権の求心力になる、という仮説です。仮にこうした仮説を政権周囲が真剣に考えているのであれば、この順番というのも成立する考え方です。

非常に冷静な一般論を語るのであれば、市場は将来の好況や不況を先取りし、外交の結果は市場を動かし、選挙はその全体の結果を評価する、そんなメカニズムがあると考えられます。であるのならば、順番としては、和平をやり、株価をテコ入れし、その後で選挙という順番が正しいのだと思います。ここまで検討してきた(1)がそうです。

そうなのですが、問題は(2)、(3)という要素も考えられるのです。高く吊り上げた株価水準を、とにかく暴落させないために和平のニュースを出すとか、あるいは投票日時点では緊張があり、できれば戦時のほうが都合がいいという要素もあります。

11月の中間選挙までにどのような事態が起こりうるのか

その一方で、株をあまりにも高く買い上げると、株価が上がるか下がるかということのインパクトが巨大化します。そうなると、イラン和平がどうとか、原油価格がどうといった議論、あるいは極端な話、中間選挙でどうなるか、トランプ弾劾があるのかという議論は比較すると小さくなってしまいます。

このままSPCX株が肥大化を続ける、AnthropicもOpenAIも上場して行くとなると、米国の株式市場の内容は変質します。これまでは、AI関連株が将来期待で買われていたのですが、関連株ではなくAI株そのものが天文学的な時価総額を獲得することになります。そうなると、世界にとってこれが最大の問題になっていきます。

今回の6月14日時点における「イラン和平報道」というのは、その意味では、まだAI株が巨大化するには、その少し手前というタイミングでした。ですから、「イラン和平報道」が「原油先物安」を産み、また「アジア、欧州の株高」を生んだ中で週明けの「株の一段高」を演出できたのです。ですが、仮に株価がもっと膨張していくと、話はもっと複雑になります。

では、これから11月までに何が起きるのかというと、一つの仮説として次のようなことを申し上げておくことにします。

(ア)イラン情勢は結局は「ちゃぶ台返し」が何度か起き、最終的な安定にはならない。政権は「戦時の大統領」演出のメリットを忘れないし、イスラエルの動向、イラン側が無限に譲歩できない事情などが絡む

(イ)株価としては、AnthropicもOpenAIも上場へ突き進むことになろう。そうでないと、ノンバンク資金が焦げ付く

(ウ)しかし、AIの実需がそこまで拡大できるとも思えない。2社の上場がSPCX並みに成功するとは思えない。むしろ2社の公開前にSPCXが2社の双方もしくはどちらかを買う可能性を感じる

(エ)全体シナリオとしては、11月の中間選挙の直前に、一旦暗転したイラン情勢が好転、一旦下げた株が上昇という流れで投票日に持っていこうということになる

(オ)トランプ派以外の政治勢力は、事態打開の強い意志を持っていて、和平と株高の中でも政変が起きてしまう可能性がある。政変が起きるとしたら、中間選挙の結果にもよるが、テクニカルには新議会招集の27年1月20日以降だが、事態が流動的となると26年年内に動きがあるかもしれない。

具体的には大統領排除の憲法条項発動とか、これに対する暴力的な阻止行動とかの、前例のない混乱の可能性。その場合は、市場が崩壊して、中東も混乱、日欧にとっても中国にとっても最悪シナリオかもしれず、警戒は必要

という予測をしてみましたが、現地15日のNY市場が先ほど終わり、SPCXの時間内の終値はなんと192.50、つまり前の営業日である金曜日の終値から19.6%も上昇してしまいました。時間外でも本格的な利食いは出ていない模様です。これは大変な事態になりました。事態の進行が速すぎます。


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