怖いのに、なぜ人はお化け屋敷へ行くのか
怖いのに、なぜ人はお化け屋敷へ行くのか / 研究チームのメンバーたちが、一晩の調査とスケアアクター(お化け役)を終えた後に撮影した集合写真。「HORROR LAB」と書かれたTシャツを着ているメンバーもおり、研究者自身がお化け役も兼任していたことがうかがえる。Credit: Cristina S. Negraru / Wiley et al., Emotion(2025)ふつう、恐怖は避けたい感情です。夜道で物音がしたり、後ろから誰かに追われたりすれば、私たちは本能的に身を守ろうとします。
ところが人間は、ときどきその恐怖をわざわざ買いに行きます。お化け屋敷、ホラー映画、肝試し、ジェットコースター。どれも怖いはずなのに、毎年数百万人もの人がお金を払って体験しに行きます。
このように自分から楽しみに行く怖さは、心理学では「娯楽としての恐怖(recreational fear)」と呼ばれます。
簡単に言えば、「本当に危険ではないと分かっているからこそ楽しめる怖さ」のことです。
たとえるなら、お化け屋敷は「心にとっての激辛料理」のようなものかもしれません。激辛料理は舌に強い刺激を与えます。痛みに近い感覚すらあります。
でも、毒ではないと頭のどこかで分かっているから、私たちはそれを楽しめます。
お化け屋敷も同じです。暗い部屋、突然の音、不気味な演出。心は本気で驚きますが、頭のどこかでは「これは作り物だ」と分かっています。
だからこそ、恐怖と楽しさが同時に成り立つのです。
ちなみに、怖ければ怖いほど楽しいというわけでもありません。
過去のお化け屋敷研究では、楽しさは恐怖が弱すぎても強すぎても下がり、”ちょうどいい怖さ”のときに最大化することが示されています。
弱すぎれば退屈で、強すぎれば苦痛になります。「怖いけど大丈夫」という絶妙な細い道の上に、お化け屋敷の面白さは成り立っているのです。
「初デートが結婚に至った人もいる」――研究の始まりは、私的な実感だった
今回の研究の面白いところは、研究者たち自身が大のお化け屋敷ファンだったという点です。
研究を主導したのは、当時フロリダ大学の学部生だったジェーン・ワイリー氏(現在はバージニア大学社会心理学博士課程)です。彼女はメディア取材に対して、研究の出発点をこう語っています。
「このテーマは、私と指導教官のスワン博士にとって個人的なものなんです。彼と私は大のホラーファンで、お化け屋敷も大好きで。一緒に体験することが、いかに強い絆を生む経験になるか、私たちはたくさん話をしてきました」
ワイリー氏はさらに『実例』を挙げています。
「指導教官は、初期のデートでハロウィン・ホラー・ナイトに行き、それがのちの結婚につながりました。私自身も、共著者のギャレット・ジョンソンとはお化け屋敷を一緒に体験したことがきっかけで、とても親しくなったんです」
つまり、この研究の動機は教科書の中から生まれたのではなく、研究者たち自身が肌で感じてきた「お化け屋敷って人を近づける気がする」という実感から始まっています。
ところが、彼女たちがいざ文献を調べてみると、当時、お化け屋敷と人間関係に焦点を当てた研究はほとんど存在しませんでした。
「だったら自分たちでやってみよう」というのが、この大規模な調査の出発点だったのです。






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