あのトランプまでもがエルドアン大統領を大絶賛。「橋渡し役」を超え「地域秩序の設計者」となったトルコの存在感

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軍事力のみでは安定を取り戻せなくなった、現在の世界情勢。中東や欧州、そして東アジアで相次ぐ不穏な動きは、その事実を如実に表していると言っても過言ではありません。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の「無敵の交渉・コミュニケーション術」』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、ホルムズ海峡の再緊張やトルコの存在感、さらに中国の「軍事的なシグナル」等を詳しく検証。その上で、軍事的抑止と並行して「対話の窓口」を維持する重要性と、揺らぐ世界秩序の行方について考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです

【ホルムズ海峡、再びの緊張 ─ 「経済安全保障2.0」の現実】─ 停戦後も封鎖という外交カードは手放されない ─

まず何より注目しなければならないのは、ホルムズ海峡をめぐる情勢の急変です。

6月中旬に合意された覚書に基づく停戦後、ホルムズ海峡の航行はいったん正常化に向かうかに見えました。

しかし7月6日夜、オマーン沖でタンカー1隻が何らかの飛翔体を受けて発火。翌7日には、カタール企業が運航するLNG輸送船「アル・レカヤット」とサウジアラビア企業の大型タンカー「ウェディヤン」がミサイル攻撃を受け、さらに3隻目の船舶がドローン攻撃を受けたと報じられています。

イラン革命防衛隊による関与が強く疑われていますが、イラン側は公式な犯行声明を出していません。

この事態を受けて、アメリカ財務省は6月の合意で解除していたイラン産原油の輸出許可を撤回し、制裁を再発動しました。さらに米中央軍は7月7日、ホルムズ海峡周辺のイラン軍事施設80カ所以上に対する攻撃を実施したと発表しています。

イラン側はこれを「停戦の明確な違反」だとするアメリカの主張に対し、逆に自国の正当性を主張しており、両者の言い分は真っ向から対立したままです。

私がここで注目したいのは、個々の攻撃の応酬そのものよりも、その背景にある構造です。

イランは1979年の革命以降、正面からの軍事力では優位に立てない大国に対し、機雷やドローン、小型高速艇を用いた非対称戦で対抗する術を磨いてきました。その象徴的な舞台が、世界の原油・LNGの約2割が通過するホルムズ海峡です。

今回の一連の危機で、イランは「チョークポイントを押さえれば、軍事力で劣っていても世界経済を人質に取り、大国と渡り合える」ということを、身をもって世界に示しました。

WTI原油先物は、6月の海峡封鎖から一週間でおよそ36%上昇し、その後も1バレル100ドル超という高値で推移しました。ニューヨーク株式市場も、米イラン対立の再燃を受けて大きく値を下げています(NYダウは、7月8日、トランプ大統領が対イラン停戦の終了を示唆したことを受けて1日で577ドル安となる一方、ハイテク株中心のナスダックは半導体関連の好材料で逆に上昇するなど、市場の反応は一様ではありませんでした。ただし翌9日には、ホルムズ海峡での米軍ヘリコプター撃墜が伝わるとナスダックが一時4%安まで急落するなど、事態の推移次第で市場が神経質に反応する構図が続いています)。

また、IMFやIEA、世界銀行、WTOといった国際機関は7月8日、共同声明で「紛争解決とホルムズ海峡再開に向けた進展を強く求める」と表明しました。燃料や肥料の価格は足元でやや落ち着きを見せているものの、声明自体が「不確実性は依然高く、影響が長引く可能性がある」と認めており、根本的な問題が解消されたとは言えない状況です。

私が現場感覚として申し上げたいのは、いったん「封鎖という切り札の有効性」を味わった当事者が、それを完全に手放すことは考えにくいということです。

今後もイランが同様の手段に訴える可能性は残り続けるでしょう。そしてその「不確実性」自体が、各国に保険料や船賃の上昇、備蓄の積み増し、迂回航路の確保といった恒常的なコストを強いることになります。日本を含む石油消費国は、自由航行を当然の前提としてきたサプライチェーンそのものの再設計を迫られているのです。

マラッカ海峡、台湾海峡、バシー海峡というチョークポイントも

さらに懸念すべきは、このリスクがホルムズ海峡だけの問題ではないという点です。

世界最大の海上輸送量を誇るマラッカ海峡は、最も狭い地点でわずか3キロメートルほどしかなく、海賊の脅威も抱えています。台湾海峡とその南のバシー海峡も、米軍とフィリピン軍が対艦ミサイルを展開する係争地帯であり、東アジアの不確実性が凝縮した最前線です。

もしこうした複数のチョークポイントで同種の緊張が連鎖すれば、世界経済はエネルギー価格の高騰にとどまらない、より深刻な機能不全に陥りかねません。

今回の危機が私たちに突きつけているのは、単なる地域紛争の再燃ではなく、「世界経済は何によって支えられているのか」という、より根源的な問いです。

市場が本当に取引しているのは石油やドルそのものではなく、「明日も安全に航行できる」という予測可能性への信頼です。その信頼が揺らげば、保険は成立せず、投資は止まり、経済は萎縮します。だからこそ私は、これからの安全保障の中核には、軍事的抑止だけでなく、経済活動を止めないための「対話の窓口」を維持する努力が据えられるべきだと考えています。

7月4日のアメリカ建国250周年と、2月28日に殺害されたイラン前最高指導者ハメネイ師の国葬・服喪期間が重なったことで、双方は一時的に攻撃を停止し、協議も中断していましたが、7月6日のホルムズ海峡付近で起きた“商船への攻撃”を引き金に、アメリカ軍の空爆が行われ、イランも報復を宣言していることで、また大混乱の予感がしています。

一時休止中の協議が開催されるのか否かも不透明な状況ですが、再開されたとしてもホルムズ海峡の管理方式や、イランの核開発(濃縮ウランの扱いや「平和利用」の可否)をめぐる隔たりは依然として大きく、予断を許さない状況が続きます。そして、覚書に記された“60日間の協議”のデッドラインもじわりじわりと近づいてきています。

原油の多くを中東に依存する日本にとって、この問題は決して対岸の火事ではありません。NATO首脳会議(トルコ・アンカラ)では、加盟国がホルムズ海峡へ掃海艇を派遣する方針も示されました。このことは、海峡の安全確保は、もはや当事国だけの課題ではなく、国際社会全体が分担すべき「公共財」としての性格を強めていることの現れです。日本もまた、自由航行の確保という一点において、これまで以上に主体的な役割を問われる局面に入りつつあると私は感じていますが、果たして日本にその準備と覚悟はあるでしょうか?

【存在感を増すトルコ ─ NATOアンカラ首脳会議が示したもの】─ 「橋渡し役」を超えて、地域秩序の設計者へ ─

7月7日から8日にかけて、トルコの首都アンカラでNATO首脳会議が開催されました。私は、この会議そのものよりも、「なぜアンカラで、なぜこのタイミングだったのか」という点に強い関心を持っています。

かねてNATOからの脱退にも言及していたトランプ大統領は、一転、今回の首脳会議への出席を決めました。その理由について、トランプ大統領自身が「エルドアン大統領が主催する会議でなければ、出席していなかっただろう」という趣旨の発言をしていることは象徴的です。

会議を終えたトランプ大統領は「非常に成功した首脳会議だった」と述べ、エルドアン大統領のホスト役としての手腕を称賛しましたが、トランプ大統領のトルコへの急接近の背後にはどのような要因があるのでしょうか。

トルコは、欧州・中東・アジアを結ぶ要衝に位置し、シリア暫定政権を支えてアサド政権崩壊後の内戦収束に貢献し、ガザ停戦交渉ではハマスの説得にも関与し、アメリカとイランの仲介にも動いてきました。

今回の首脳会議でも、トランプ大統領はエルドアン大統領との関係を、自らが描く中東安定化構想の実現に活用したい考えをにじませています。米トルコ首脳会談では、第1次トランプ政権時に発動したトルコ国防産業庁への制裁解除が提案され、エルドアン大統領自身も「防衛面での制裁の大部分が解除された」と明らかにしました。

F35戦闘機のトルコへの売却についても、トランプ大統領は「まだ決めていないが、前向きに検討している」との姿勢を示しています(ちなみにエルドアン大統領は「5機のF35の購入で合意した」と発言しています)。

また、トランプ大統領はシリアの「テロ支援国家」指定解除を議会に通告し、シリアのシャラア大統領とも会談するなど、シリアの国際社会への復帰を後押しする動きも見せ、中東地域における対米感情の改善にも努力している様を見せています。

会議の結果として、NATO加盟国は2026年のウクライナ支援として700億ユーロ(約13兆円)規模の軍事装備・訓練支援を約束し、2027年以降も同水準を維持する方針を確認したことも、大きな注目ポイントです。

ゼレンスキー大統領はアンカラで加盟国首脳らとの精力的な会談を重ね、防空システムの強化やパトリオットミサイルのウクライナ国内生産を認める方針が示されました。しかし、その一方で、チェコのようにこの支援枠組みへの不参加を表明する国もあり、ウクライナ支援に対するNATOの結束は一枚岩ではありません。

私がここで指摘したいのは、アメリカの欧州への軍事的関与が相対的に薄れつつある中で、NATO加盟国にとってトルコと協力する以外の現実的な選択肢がほとんど残されていないという構造です。トルコは無人ドローンをはじめとする防衛産業を急速に育成し、世界各地で高い評価を得ています(私も毎年2月にイスタンブールで開催される武器商人の博覧会・展示会に招待いただいていますが、なかなかの盛況ぶりです)。

「安全保障ではアメリカ」、「経済では中国」というように、複数の大国との関係を同時に維持する「多層外交」は、もはやトルコに限った戦略ではなく、地域大国が生き残るための共通言語になりつつあります。

エルドアン大統領にとって、今回の首脳会議は国内的にも大きな意味を持ちました。会議直前には、集会やデモを禁止する厳しい統制が敷かれ、多数の活動家や記者が拘束されたと人権団体が指摘していますが、トランプ大統領がエルドアン大統領を公の場で称賛し続けたことは、エルドアン大統領にとって「外交的な成果である以上に、国内での権威主義的な統治を国際的に正当化する効果を持った」という厳しい見方も存在します。私はこの点についても、公平性の観点から、明確に申し添えておきたいと思います。

いずれにせよ、トルコがいまや単なる「橋渡し役」ではなく、地域秩序そのものを設計する側に回りつつあることは間違いありません。

それが地域の安定に資するのか、あるいは特定の指導者の権力基盤強化に資するだけなのか。今後の動きを注視する必要があります。

その地域秩序の変化は中東だけに留まりません。アジアでも同様のシグナルが発せられています。

【中国のSLBM発射実験が突きつけたもの】─ 台湾統一への意志と、抑止のシグナル ─

7月6日、中国人民解放軍の原子力潜水艦が太平洋の公海に向けて潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を1発発射しました。中国人民解放軍の発表によると、訓練用の模擬弾頭を搭載したもので、日本のEEZ(排他的経済水域)の外に着弾したとされています。

中国国防当局は「事前に関係国へ通告済みで、国際法及び国際慣例に合致する」と正当性を主張し、中国外務省の報道官も「関係国は過度な解釈を控えてほしい」と述べています。

しかし、発射されたのは新型の「巨浪(JL)3型」である可能性が高いとみられ、その射程は1万キロメートルを超えると言われており、それは南シナ海など中国近海から発射しても、アメリカ本土の大部分に到達しうる能力があることを誇示したと言えます。これは、2024年に発射された大陸間弾道ミサイル「東風31」と合わせ、海と陸のどちらからでもアメリカ本土を核攻撃しうる能力を誇示した形になります。

中国共産党系メディアの環球時報は、今回の発射について「中国の台湾統一への決意を改めて示すもの」と解説し、「完全統一を実現する意志を誤って判断してはならない」と論じました。

台湾総統府はこれに対し「国際社会を威嚇する意図がある」と非難する談話を発表しています。

ちなみに、今回の発射実験は、この時期に日本とフィリピンが台湾海峡周辺のEEZ境界画定交渉を始めたことへの強い牽制ではないか、という見方もあります。また、トランプ政権が台湾への武器売却を計画していることを踏まえ、核による威嚇を通じてこれを牽制しようとしたのではないかという指摘も出ています。

日本政府は、木原官房長官が「日本の領域やEEZの上空を通過したことは確認されていない」と説明する一方、中国側に深刻な懸念を伝達し、軍事活動の活発化について再考を強く求めました。日本のメディアの中には、「際限なき核軍拡競争を招く危険な挑発である」と厳しく批判する論調もあります。

私がこの一件から読み取るべきだと考えるのは、中国が意図的に「解釈の余地」を残した形でシグナルを送っているという点です。事前通告を行い、国際法上の手続きを踏みながらも、タイミングと能力誇示の両面で強いメッセージを込めるという手法は、全面的な軍事衝突を避けながらも、自国の意志を相手に伝えるという、抑止と対話のあいだの微妙な均衡を取ろうとする行動だと私は見ています。

台湾海峡とその周辺は、東アジアの安全保障とサプライチェーンの双方にとって極めて重要な結節点です。この均衡が崩れたときの影響の大きさを、私たちは改めて認識し、対応策を迅速に用意しておく必要があります。

そして、この抑止の論理は、最終的には核戦略へとつながります。

【核をめぐる各国の動き ─ 静かに進む「核の多極化」】─ 抑止だけでは説明できない現実 ─

今回の一連の出来事を追う中で、私がもう一つ強く懸念しているのが、核兵器をめぐる各国の動きです――(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2026年7月10日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録下さい)

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