S・ジョブズ氏のタートルネックからAI大手が販売するアパレルへ――業界人ファッションの変遷が意味するもの

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(CNN) お気に入りの人工知能(AI)モデルに対して特別な思い入れでもない限り、オープンAIやパープレキシティ、アンソロピック、コヒアといった巨大AI企業が突如として生産し始めたアパレル製品に縁はなさそうだ。コーデュロイの襟と「Curious(キュリオス)」のタグを付けたパープレキシティの生成り色の中綿ジャケット(135ドル<約2万1000円>)も、背中に「The Material of Now(ザ・マテリアル・オブ・ナウ)」の文字をあしらったコヒアのTシャツ「Stacking Stones(スタッキング・ストーンズ)」(41ドル)も、まず身に着けることはないだろう。オープンAIのハーフジップ・スウェットシャツ「Research(リサーチ)」にも、パランティアのロイヤルブルーのワークジャケット(239ドル)にも同じことが言える(いずれにしても、両方ともすでに完売)。

だがテック業界人は夢中になった。サイバーセキュリティー企業ソーシャルプルーフ・セキュリティーのレイチェル・トバック最高経営責任者(CEO)は、オープンAIが7月に売り出した最新コレクションを見て「何これめっちゃイケてる、欲しい(笑)」とX(旧ツイッター)に書き込んだ。クラウドコンピューティング企業デジタル・オーシャンのデベロッパーアドボケイト、ハイマンティカ・ミトラ氏も、「テック企業のグッズがもう退屈じゃなくなったのはうれしい」と反応した。

オープンAIのデザインディレクター、ベン・キング氏は、具体的に衣類のどこに魅力を感じるのかを、こうした反応から探りたかったと話す。「我々の製品を反映しつつ、仲間と交流して何を着ているのかを見ながら、おしゃれでこだわりのあるアイテムを創作したかった」

キング氏から見ると、そうした人々の服装は、Tシャツにスウェット、キャップといった現代のテックワーカーの定番スタイルだった。そこでストリートウェアのデザイン経験を持つキング氏のチームは、出来る限りの「最高バージョン」を制作することにした。最初はオープンAIの従業員向けに社内サイトで販売していたが、アイテム数を限定したカプセルコレクションを一般向けに売り出したところ、わずか数日で売り切れた。

英ロンドンのテック企業バーセルでインターンをしているデービッド・アレクサンドル・イリエ氏は、キャップ2点とフード付きパーカー1枚、Tシャツ1枚を計約220ドルで買い、100ドル以上の送料を払って英国に発送してもらった。こうしたグッズには、AI業界への愛着や専門知識をアピールする意図が込められているという。「Codex(オープンAIのコード生成AI)グッズを着る目的は、自分がオープンAIの宣伝係だというアピールではなく、自分がトレンドの最先端にいるソフトウェアエンジニアだとアピールすること」。イリエ氏は電子メール取材に対してそう打ち明けた。「たとえこれを着てシリコンバレー界隈を歩き回っていなくても、あそこにいるソフトウェア技術者仲間の一員だと感じていたい」

仲間意識か麻薬カルテルか

コネティカット州でテック系コンサルタント会社を経営するロリー・バーニエ氏は、パープレキシティからギフトとして進呈されたフード付きパーカーを着ることで、大好きな企業の「近くにいる」ような気分になると語った。「これを着ることで、自分自身にも同じ業界人にも、自分がAIの波の単なる傍観者ではなく、その波の中にいることをさり気なくアピールできる」とバーニエ氏は言う。つまり、好きなスポーツチームのユニホームやバンドのTシャツを着る心境と似ているかもしれない。

もっとも、テック業界という閉鎖的な同質集団の外にいる人たちは冷めた反応を示す。「私のカトリック系学校の制服の方がずっと『オーラ』を放っていた」とXに書き込んだのは、写真家でライターのギャビン・モールトン氏。デザイナーのJ・D・リーブス氏は、「テックは現実を直視すべきだと思う。自分たちの小さなバブルの外から見ると、ソフトウェアのロゴ入りウェアを着るってあまりにオタクっぽすぎ」と投稿した。

こうしたデザインについては元ネタが時代遅れだという批判もある。オープンAIのカプセルコレクションは、キスやエメ・レオン・ドレなど、トレンドの最先端だったブランドへのオマージュと思われる。この二つのブランドは、ゆったりとしたニットウェアやボックスシルエットのTシャツを流行させ、過去数年にわたってメンズウェア市場をこのトレンドであふれ返らせた。しかしブランド戦略に詳しいロレンツォ・ラザーニャ氏は、「2023年のエメ・レオン・ドレのルックブックをまたやってる」と手厳しい。

キスは過去10年間で最も影響力を持つストリートウェアブランドの部類に入り、ボックスシルエットのジャケットやTシャツを流行させた/Jeremy Moeller/Getty Images
キスは過去10年間で最も影響力を持つストリートウェアブランドの部類に入り、ボックスシルエットのジャケットやTシャツを流行させた/Jeremy Moeller/Getty Images

AI企業のグッズデザイナーが、近年主流となったエメ・レオン・ドレのアーバン・プレップスタイルを参考にしているのは明らかだ/Jeremy Moeller/Getty Images
AI企業のグッズデザイナーが、近年主流となったエメ・レオン・ドレのアーバン・プレップスタイルを参考にしているのは明らかだ/Jeremy Moeller/Getty Images

この論争は服装がテーマのように見えて、実はAIが支配する世界の恩恵を受ける人々と、AIに脅かされる人々との対立をうかがわせる。特に反対の声が大きいクリエーターは、AI企業が作り出す製品を、自分自身の活動やその世界全体を脅かす存在と見なす。「彼らは羊の皮をかぶったオオカミだ。グッズ販売のテック企業は無害だという感覚を作り出そうとしている」。グラフィックデザイナーのデービッド・ラドニック氏はそう語る。「麻薬カルテルや民兵組織の色をまとうようなものだ」

当然ながら、テック業界はそうした見方はしない。こうしたグッズのデザイナーは、不特定多数へのアピールを狙うよりも、イリエ氏のような業界人にターゲット層を絞る。パープレキシティのグッズ製作にかかわったデザイナーは匿名で取材に応じ、自分たちの仕事は、国道101号線(シリコンバレーの社員が通勤に使うサンフランシスコの大動脈)沿いに並ぶありふれた、内容もよく分からない看板広告のようなものだと形容した。「あの広告はどこにでもいる人をターゲットにしているわけではない」「狙うのは競合他社、従業員になってくれそうな人だ」

ソフトパワー

こうしたグッズは、巨大AI企業のソフト化に向けた進化を促す。「ライフスタイルブランドへと進化するテック企業が増えて、いずれはそこへ帰着するだろう」。デザイン代理店プラムソーダの共同創業者、ジョハール・カーン氏はそう予測する。同社は「テック企業を文化的アイコンに転換させる」グッズの制作を手がける。

ただ、もっと懐疑的な見方をすれば、こうしたグッズはAI企業をめぐって論議になりがちな側面をカムフラージュする助けにもなるとラドニック氏は言う。

オープンAIとアンソロピックはいずれも米国防総省と取引がある。アンソロピックは最近、大規模言語モデルの学習に著作物を違法に利用したとして訴えられた裁判をめぐり、15億ドルの和解で合意した。ただし同社は一切の不正行為を否定し、著作権のある書籍をAIモデルの学習に使用することは、公正利用に関する法律の範囲内だと主張している。CNNは、パープレキシティがCNNのコンテンツを違法に複製・配信したとして訴えを起こしている。

こうしたグッズの流行は、ここ数年で文化的象徴に対するテック業界の関心が高まった時期と一致する。シリコンバレーのソフトウェアエンジニアといえば長年、ファッションには無頓着というイメージが一般的だった。ファッションに関心を示せば、自分が開発しているものよりも外見の方を気にしていることの表れと見られていたからだ。その典型が、スティーブ・ジョブズ氏の黒いタートルネックだった。

故スティーブ・ジョブズ氏のブルージーンズと黒のタートルネックは、テック業界で特に知られた「ユニホーム」の一つで、個人のファッションといったささいな事に煩わされたくないとのジョブズ氏の考えを示していた/Tony Avelar/Bloomberg/Getty Images
故スティーブ・ジョブズ氏のブルージーンズと黒のタートルネックは、テック業界で特に知られた「ユニホーム」の一つで、個人のファッションといったささいな事に煩わされたくないとのジョブズ氏の考えを示していた/Tony Avelar/Bloomberg/Getty Images

しかし、AIツールの登場によってプログラミングのスキルがある意味で民主化された今、業界人は自分たちを周囲と差別化できる何かを求めるようになった。「かつては時間と効率を最適化するため、何を選ぶかに煩わされてはいけないという考え方があった」とパープレキシティのデザイナーは指摘する。「みんなが同じようなツールを使うようになった今、文化的象徴に関する考え方が、差別化を図る最大の手段になった」

アンソロピックの「Thinking」キャップ。AI企業が展開するグッズの中でも特に人気が高い/Sam Bush/The New York Times/Redux
アンソロピックの「Thinking」キャップ。AI企業が展開するグッズの中でも特に人気が高い/Sam Bush/The New York Times/Redux

問題は、AIの生成する内容が本質的に派生物だという点にある。つまり、こうした企業が制作するグッズは単に参照元を合成しただけのものなのか、それとも斬新で独特なものへと向かうのかという疑問は残る。

メンズウェア評論家でライターのジェイク・ウルフ氏は言う。「あのグッズはAIが何かという本質を表している。さまざまな美意識を一緒くたに組み合わせ、一般受けする無難なものを作り出す。その背後に本物の視点はない」

原文タイトル:Long after Steve Jobs’ turtleneck, there’s a new tech uniform(抄訳)

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