NHK『風、薫る』「りんを旦那様に、私が奥様に」発言の安が、まさかの“恋落ち”。太一ではなく宗一に惹かれた理由

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見上愛、上坂樹里がW主演を務める連続テレビ小説『風、薫る』。田中ひかる著『明治のナイチンゲール 大関和物語』(中央公論新社、2023年)を原案としたオリジナル作品で、激動の明治、看護の世界に飛び込んだ二人の“トレインドナース”を描く本作。

第12週「旅立ち」は、看護婦養成所の閉鎖と別れが進む一方で、りん(見上愛)の家庭にも大きな波が立った。ここでは、妹・安(早坂美海)の縁談を軸に、母・美津(水野美紀)を含む一ノ瀬家の女たちに光を当てたい。

「ちょうどよく幸せに生きていければいい」という安の本音

堅い仕事に就く槇村宗一(上杉柊平)との縁談が進む安に、宗一の弟・太一(林裕太)が突然思いを告げ、その後も手紙を送り続ける。ところが当の安は、両家の顔合わせを終えるなり「結婚をやめようか」と言い出す。理由を聞けば、突拍子もない。働き者の姉・りんを“旦那様”に見立て、姪の環(英茉)をわが子のようにかわいがりながら、自分はこの家の“奥様”におさまればいいと言うのだ。

この発想に、安という人物がよく表れている。安は、りんの一歩うしろから物事を見て、感情より理屈で動く人だ。結婚相手すら「条件」で値踏みし、子どもの頃から、すごろくの「あがり」にも似た“奥様”の座に憧れてきた。働きに出た美津に代わって家事をこなし、環の世話をして、つねにサポート側へ回ってもきた。

その安が今、念願だったはずの“あがり”そのものに物足りなさを覚え、誰も思いつかない“家族の組み替え”を口にする。日頃は理屈で動く人だけに、胸の奥のものが思わぬ形であふれ出したのだろう。

太一は安に思いを告げ、恋こそ人間を人間たらしめるものだと熱く説く。だが、恋をしたことはあるかと問われた安は、ためらいなく「いいえ」と答える。人として、ちょうどよく幸せに生きていければいい──それが本音だった。

その安の心を、思わぬ言葉が動かす。破談の話し合いの席で、宗一は「りん=夫、安=奥様」という発想を笑い、理にかなっていると面白がった。自分も結婚に強い興味はなく、長男として家を固めることで、小説家を志す弟・太一を後押ししたいのだと打ち明ける。

そのうえで、安と結婚を考えた理由をこう語った。環を笑わせようと話を作る安となら、暮らしはきっと楽しい、と。特別な取り柄もないと思ってきた安にとって、その「楽しそう」は深く刺さる。

恋を説いたのは太一なのに、安が恋に落ちたのは、自分をまるごと面白がってくれた宗一その人だった。

一ノ瀬家を貫いて受け継がれていくもの

姉のりんは、安とはまるで違う。思ったことをすぐ口にし、よく間違える。「また間違えた」が口グセで、亡き父・信右衛門(北村一輝)からは口が禍になると注意されたこともある。

だが、その素直さの裏には、思い立てばすぐ動ける大胆さと、間違いを認めて何度でもやり直せる素直さ・聡明さがある。やり直せることは、刻一刻と判断を迫られる看護の現場で、大切な力だ。日本になかった看護の道へ進もうと思えたのも、この大胆さと素直さ、聡明さがあってこそだろう。

第12週では、その「やり直す力」が家庭でも生きる。元気のなかった環の理由が、幼なじみの宗太(木下瑛太)とのけんかだとわかると、りんは自分の後悔を重ねて語る。父がコロリに倒れたとき、手を握ってあげられなかった、今も悔やんでいる、と。

やがて環は自分の足で宗太に謝りに行き、二人は仲直りする。その姿を見て、安も心を決め直す。「結婚やめるのはやめる。私、やっぱり宗一さんと結婚したい」。間違いに気づいたら、すぐに改める──亡き父からりんへ、りんから環へ、そして安へと、一ノ瀬家を貫いて受け継がれていくものがある。

一ノ瀬家の女たちが見せたもの

忘れてはならないのが、母・美津だ。「女の幸せは良い家に嫁ぐこと」と信じ、言い続けてきた人。古い価値観に縛られ、娘たちの前に立ちはだかる壁──かと思いきや、そうではない。

好きな夫と子に恵まれた幸福も、夫の死後の貧しさも知る美津は、家のために嫁いだりんの結婚がうまくいかず、未知の看護へ進む姿を、価値観ごと手放さないまま応援している。それどころか、娘が世話になった「瑞穂屋」に自ら売り込んで働き、日本語のまま外国人客とやりとりしてしまう。

そのぶっ飛びぶりは、娘たちも舌を巻くほどだ。母は「壁」ではなく、誰よりも軽やかに、新しい道を歩き出していた。

ここに、本作の家族描写の妙がある。家族でも友人でも職場でも、人の集まりにはいつのまにか役割分担が生まれる。突っ走る者がいれば、誰かがブレーキにまわる。私は以前から、コミュニティや場には抱えられる「総量」のようなものがあると考えているが、面白いのは、その配分が固定されないことだ。

未知の道を行くりんが、今は一ノ瀬家でいちばん地に足がついて見え、母の美津が真っ先に外へ飛び出していく。槇村家でも同じだ。自分を「面白くない」と言う宗一が安の風変わりな願いを受け止め、「自由」な太一は、兄が堅実でいてくれる分、自由を背負わされているようにも映る。

好きな道を突き進む者のほうが、かえって不自由に見えることさえある。役割は入れ替わり、流れ動く。誰が“奥様”で誰が“旦那様”かさえ移ろっていく──一ノ瀬家の女たちが見せたのは、家族という小さな社会の、しなやかな組み替えだった。

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