住まいを失った人や、生活に困窮する人々を12年以上にわたりサポートしてきた団体がある。
東京・中野区を拠点に活動する一般社団法人「つくろい東京ファンド」だ。
ボランティアとして活動に関わりながら、2年半にわたり密着取材を続けたライター・室谷明津子さんの著書『ルポ 支援という生き方─貧困問題の最前線』が4月、ちくま新書から刊行された。
同書は、生活困窮者や、日本に助けを求めて命からがら海外から逃れてきた外国人など、「社会の周縁に追いやられている人たち」と共に生きていける社会をどう作れるのか問いかけている。
都内で6月、著者の室谷さんと、つくろい東京ファンドのスタッフらが登壇する出版記念イベントが開かれた。

Sumireko Tomita / HuffPost Japan
「つくろい東京ファンド」は、家を失った人に一時的な住まいを提供し、生活を立て直す「ハウジングファースト」に基づく支援を2014年から継続してきた。
『ルポ 支援という生き方』では、スタッフへのインタビューや支援活動への密着取材を通し、「支援の形」を考えるだけでなく、生活に困窮し様々な生きづらさや問題に直面する人々の「人生」、そして日本社会の「課題」を浮き彫りにしている。
室谷さんはイベントで、生活困窮者の支援について「自分と遠い世界のことだと思って遠ざけてほしくない」とし、こう話した。
「つくろい東京ファンドが支援する人たちには、様々な複雑な要因が重なって苦労をし、それでも色々な制度に救われない方たちが多くいました。依存症と向き合っていたり、経済的な問題や家族の問題にも直面したりしている、様々な方がいます。現場は壮絶な話もたくさんあるんですが、それでも支援者たちは、当事者と日々を共に過ごしていると感じました」

Sumireko Tomita / HuffPost Japan
「見えづらくなった」ホームレス状態の人々
住まいを失った人たちは今、路上生活をしている人に限らない。ネットカフェや漫画喫茶に寝泊まりしながら生活困窮に直面している人たちが多くいる。
政府は毎年、路上生活者数の実態調査を実施しており、2026年4月に公開した路上生活者数は2481人で調査開始以来、過去最少としているが、「見えづらくなった」ホームレス状態の人々は日本社会にその数より多く存在するとみられている。
政府の調査では、都市公園や河川、道路、駅舎などで生活する人を対象としているが、住まいを失い、ネットカフェや漫画喫茶に身を寄せる人も多くいる。
つくろい東京ファンドではそのような人たちともあらゆる方法で繋がり、必要な支援に繋げ、サポートを行っている。
空き室を活用した個室シェルター事業では、路上生活やネットカフェ生活をしていた人たちが安定した住まいを確保し、地域で暮らしていけるための支援を続けてきた。
同書では、支援に奔走するスタッフたちが直面する困難や葛藤も綴られている。

つくろい東京ファンド提供
理不尽な社会で追い詰められる姿。湧いてきた「怒り」と「伝えなければ」という思い
室谷さんはライターとしての仕事の一環で、つくろい東京ファンドの小林美穂子さんの、雑誌での対談取材を担当し、それがきっかけでボランティアを始め、活動の記録をすることになった。
ボランティアとして通い続ける中で、途中からは「ライターの室谷さんから、ボランティアの室谷さんという紹介になっていった」とも振り返り、取材やボランティアを続ける中での心境の変化について、こう語った。
「出会った当事者の方々には色々な困り事があって、家族のことで苦しんでいたり、なかなか仕事に就けなかったりと、様々な悩みがある。
一人ひとりにお話を聞く中で、社会の中でどんどん追い詰められていく現実を目の当たりにして、だんだんと『怒り』が湧くようになってきました。本を書くからとかそういう理由ではなく、これは本当に『伝えなければいけない』という気持ちが出てきたんです」

つくろい東京ファンド提供
イベントでは、同書に登場したつくろい東京ファンドのスタッフたちも日々の支援活動について語った。
つくろい東京ファンド代表理事の稲葉剛さんは、「物価が上がり、そして家賃が上がり、住宅の確保が困難になりという状況がある」と指摘。
つくろいでは事務局長の大澤優真さんを中心に、外国人や難民、特に「仮放免」の状態にある外国人への支援も行っているが、「排外主義の広がりにより、SNSなどでの攻撃も酷くなり、活動事態が困難に直面しつつある」とも語った。
(仮放免:難民申請中など在留資格がない外国人を、入管が発行する仮放免許可書のもと、一時的に入管施設での収容を解いた状態のこと)
この状況については室谷さんは同書内でも、「参院選以降、生活苦や社会の閉塞感に対する人びとの『行き場のない怒り』が向かう先として、外国人をスケープゴートにする行為が定着してしまった」と綴っている。
命からがら逃れてきて、日本でもホームレス状態になる人々
主に、生活に困窮する外国出身の人々への支援を行う大澤さんは、仮放免の状態にある人たちが置かれる厳しい現状について語った。
「言葉にならないような経験をして命からがら日本に逃れてきている人が多い。しかし残念ながら、日本は入国間もない難民申請者の方々の公的な支援というのはほとんどないんです。
結局どうなるかというと、少なくない数の人たちが家がなく、場合によっては路上生活になっています」
生活困窮が認められた難民申請者への公的支援である「保護費」を受給できている人は、難民申請者のうちわずか1割にとどまり、さらに実際に受け取るまでも数カ月かかる。それまでにホームレス状態に陥ってしまう人がたくさんいるのが現状だ。
大澤さんには、毎日のようにSOSの連絡が届き、「3日に1回は、家賃が払えず追い出されそうという相談がくる」という。

Sumireko Tomita/ HuffPost Japan
3歳の子どもを連れ日本に逃れてきたシングルマザーは、家賃を4ヶ月滞納して払えなくなり、ホームレス状態になっていた。
西アフリカで悲惨な経験をして、命からがら逃げてきた若い兄弟は新大久保で、難民申請中の19歳の女性は上野の公園で路上生活をしていた。
大澤さんは過酷な状況に直面する人々と1人ずつ向き合い、シェルターなどに案内するなど、できる限りの支援を行っている。
「寄付や助成金から家賃を支払い、『焼け石に水じゃないか』という意見もあるかもしれませんが、やらないと家がなくなるから、やらなくちゃいけない。やらないという選択肢もないんです」
厳しい状況の中、数年単位の年月をかけて難民申請をしても、大半の人は却下となる。日本の難民認定率はG7諸国でも最低で、2025年の難民認定率は1.4%。認定された人数はわずか187人だった。
「人知れず亡くなった人がいることを知ってほしい」支援していた人たちの死
支援活動を行う中では、サポートしていた人が他界することもある。
本書のあとがきで室谷さんは、稲葉さんが毎朝、亡くなった方々に手を合わせてから1日を始めることについても綴っている。
つくろい東京ファンドが運営する「カフェ潮の路」のお店から事務所に続く階段には、稲葉さんが支援活動で携わり、他界した人たちの遺影が飾られ、仏壇には命日と名前を綴った「過去帳」が置かれていて、稲葉さんは一人、始業前に仏壇に手を合わせているという。
外国人支援に奔走する大澤さんも6月、長くサポートしていた男性を亡くしたばかりだ。
日本に助けを求めて故郷から逃れてきた男性は、仮放免のまま他界した。
大澤さんは活動の報告の中で男性の死についても言及し、「人知れず亡くなった人がいるということを、多くの人に知ってほしい。いなかったことにしたくない」と語った。
大澤さんが、しばらく連絡が取れなかった男性の元を訪れると、男性はすでに部屋で亡くなっていたという。
「その時の光景や匂いは、私の頭の中にすごく鮮明に刻まれています」とし、こう語った。
「彼は果たして納得して死ぬことができたんだろうか。自分自身でこれでよかったって思って、旅立つことができたんだろうかと、考えています。そういう人たちがすぐ近所にいるんだと知ってほしい。いなかったことにしたくないし、その存在を忘れてほしくない。
個々の支援も大事ですが、やはり社会的な制度が変わっていかないといけない。制度から変えていけるようにと思っています」
(取材・文=冨田すみれ子)

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